「桜井政博のゲーム作るには」の舞台裏 全260回のYouTube動画制作は“夢”を呼び起こし、“こだわり”の大事さを教えてくれた

新規のゲーム動画素材撮影における、さまざまな四苦八苦
──ゲームの動画に関して、新しいタイトルに関してはHIKEさんが独自に撮影されたものもあったとのことでした。
松田:そうですね。全てではありませんが比較的新しいタイトルは弊社の方で撮影させていただくこともありました。あと、「もう少しゲームがないと足りない」というところは追加で撮影するということもありましたね。
──HIKEさんが撮影したゲーム映像は何人ぐらいで撮られたのですか?
松田:こちらの田中がひとりで(笑)。
──おひとりで!?
松田:もちろん人間、得意不得意がありますので、たとえば『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』(スマブラSP)だと、VIP帯の撮影に関しては、社内でスマブラが凄く得意で、VIPでプレイされている方にお願いするケースもありました。
ただ、基本的には田中がいろいろ、動画の内容を考慮しながら撮っていた形です。

──撮影にはどれくらいの時間を要したのでしょうか。
田中:タイトルによるんですが、早いものなら10分ぐらいです。ただ、全然触ったことがないタイトルかつ、大変なものだと2~3時間以上かかってしまうこともありました。
特に初めて触るタイトルで、4種類のキャラクターがいて、それぞれの特徴をちゃんと撮る必要があったときは、3時間以上かかったことがありました。まずその4種類のキャラクターについて調べて、自分がそれぞれのキャラクターを使いこなせるようになって、そこからいい映像を撮るという順序でしたので。
──そのゲームというのは?
田中:『地球防衛軍5』です。
──ああ……! たしかに4兵科(※1)ごとに全然使い勝手も、戦闘スタイルもまったく異なりますから、初めてとなれば、どうしても時間がかかっちゃいますよね。
田中:個人的に初めて触れたので、「全然わからないよ!」って思いながらやっていました(笑)。
あと、初めて触れたゲームの中で、一番大変だったのが『SEKIRO』(SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE)で……。
──迷えば敗れるゲームじゃないですか!
田中:もう、あれは全然できなくて! すぐ死んじゃうし!! パリィ(弾き)もできないし!!! 本当に必死で撮ったんですけど、視聴者からコメントで「めちゃくちゃチャキチャキしてる」と言われてしまって(笑)。アクションが苦手なんで、凄く頑張ったんですよ……。
──あれ? でも、確か『SEKIRO』以外に『ダークソウル』と『エルデンリング』の動画もありましたよね。あちらは……
松田:『ダークソウル』は桜井さんが撮影されたもので、『エルデンリング』は弊社の上手な方にお願いして対応してもらいました。
『SEKIRO』のときも、当初は『エルデンリング』を担当した方にお願いするつもりだったんです。けど、ちょうど都合があわず、彼女に頑張ってパリィしてもらい……(笑)。
田中:あと、昔のゲーム……初期のマリオ(スーパーマリオブラザーズ)や『ロックマン』とかも全然できなくて、それを見かねた弊社のスタッフが「『ロックマン』やろうか?」と言ってくれて、やってもらったことありました(笑)。
──そのヘルプの方々というのは最終的にどれぐらい関わられたのですか?
田中:そのときだけ、ということもありました。『ロックマン』のケースみたいに撮影のときに声をかけてもらったり、こちらからお願いしたりもして。たくさんの方々にご協力いただきました。
伊藤:少し補足させていただきますと、HIKEには「猿楽庁」というゲームのチューニングやデバッグ、映像撮影に特化したチームがおりますので、困ったときにはそこにヘルプを求めることもできるようになっています。撮影したいゲームソフトなどの素材がない場合にも、猿楽庁にアーカイブとして管理しているものがあり、借りに行くことが可能です。そういったフォロー可能な体制が組まれているからこそ、今回のチャンネル用動画の撮影や編集に取り組めたというのはありました。撮影に特化した部隊がいる点でも、弊社が受けられて良かったなとは思っています。
ゲームのチューニングは「満足度を作り上げていく仕事」 猿楽庁長官インタビュー
エンターテインメントコンテンツのデバッグ/チューニングを行う企業として、1998年に設立された猿楽庁は、どのようにゲーム業界を見…──そうして撮影された映像をもとに動画を作り上げていくエディターの方では、制作に当たっての苦労などはあったりしたのでしょうか。

荒井:特に苦労という苦労がたくさんあったわけではなく、田中に何度も撮影してもらって、その中から使えそうなものを使うという流れができていましたので、編集側としては凄く助かっていました。
あと、桜井さんからいただいた素材には、「この部分をお願いします」のような抜き取る場所の指定は一切ありませんでした。
ただ、「伝説の1986年」の回は個人的に苦戦しましたね……。
──いろいろなゲームの映像が出てくる回ですね。
荒井:そうです。桜井さんから提供いただいたゲーム映像を編集する際、素材を私が上手く使えていなかったんです。その時は桜井さんからも「それぞれのゲームの見所を凝縮して、当時の密度の濃さなどを演出してほしい」とのお言葉もいただいたりしました。
特に苦戦したのが素材の選定です。1986年にはまだ生まれていなかった身としては、分からないゲームや言葉がたくさんあって……。「ディスクシステムってなに?」「メガROMって?」「どのタイトルがファミコンで、どれがアーケードでパソコン?」「どれが当時、高難易度のゲームだったんだ?」とか、それをひと通り全部調べたうえで桜井さんのセリフに合わせ、ゲームの映像をはめ込んでいくという感じでした。『ゲームセンターCX』も見たりしながら調べましたね。

──あの回は本当にたくさんのゲームが出てきますし、実際の1986年もたくさんの有名なタイトルが出た年でもありますから、いかにまとめるのが大変だったのかが分かります。
となると、荒井さんに限らず、今回の桜井さんの動画編集を通して、昔のゲームに対しての知識は相当深まった感じでしょうか。
荒井:そうですね。個人的に興味もあったのですが、桜井さんが話していたゲームがたくさん収録されていることから『Nintendo World Championships ファミコン世界大会』を買って遊んだり。
あと、1986年ではないですが、個人的に初代の『ドンキーコング』が好きで、昔、NINTENDO64で発売された『ドンキーコング64』の中でずっと遊んでいたんです。
──ああ、工場ワールドで遊べるアレ(※2)ですね。
荒井:そうです、そうです(笑)。それまではゲームの中のミニゲームという認識で、大人になってから、実は凄く昔のゲームだと知ったんです。
それ以外の昔のゲームについても、この桜井さんの動画のおかげでいろいろと身につきましたし、知らないことがまだいっぱいあるんだなと思いましたね。
松田:世代的にチームの年齢層はそんなにバラけてはいなくて、昔のゲームを知らないということも多かったんです。そのあたりの知識が増えたのは、やはりこのチャンネルの制作を経験したおかげだと思いますね。
──しかし、あらためて撮影や編集時のお話を聞いていると、一体、どれほどのゲーム動画が素材として出たのか、気になってしまいます。
田中:数えてはいなかったので、本数は分からないです(笑)。ほんのちょっと起動しただけのものもありましたし……。
松田:本当に星の数ほど触っていたんじゃないかと思います。使わないまま終わったものも結構ありますので。
伊藤:撮影用にプラモデルを作った、というのもありましたね。グラフィックのスケール感を合わせる回にバイクのおもちゃが出てくるんですが、あれをうちで作って本物のバイクと並べてスケール感をあわせるという。

松田:この本物のバイク、実は弊社メンバーの私物です(笑)。
伊藤:そのバイクを持っている方のガレージに作ったプラモデルを持って行って、そのスケール感を撮ったんです(笑)。
──いろいろな方々の協力を得られていたんですね……。
伊藤:『ムシキング』(そだてて!甲虫王者ムシキング)も大変だったよね……。
松田:ああ……! 『ムシキング』は大変でした! 実際の筐体を使って撮影したので、腹の減りが早いとかもマメに確認しなくてはならなかったんです。始まった当初は本当、ピロピロと鳴り続けていました(笑)。
──あれは桜井さんから直接お借りしたものだったんですか?
伊藤:いや、弊社で買ったものなんです。ただ、買うまでが凄く難しくて……。
──出荷数が限定されていたとの話を小耳に挟んだことがあります。
伊藤:そういった手間や苦労もありました(笑)。
──そのムシキングも含めて、HIKEさんが編集された動画で扱っていたゲームの多くは直接調達されたものだったのでしょうか。
伊藤:もともと社内にあったものもあれば、新たに買ったものもあります。桜井さんが持っているゲームと同等の量が弊社にもありまして、その中にはいまとなっては入手困難になっているゲームもあるんですが、ないものは買ってきたりすることがありました。
松田:個人的に持っている人からお借りする、というのもありましたね。
国内で反響が最も大きかったのは「仕事の姿勢」。海外は……?
──HIKEさんは2年半前に撮影済みの動画であると把握していたわけですが、そこに関連して印象に残っていることはありますか?
松田:Xではなくて、Twitterと発言されていたことに対する反響ですね(笑)。2年半前に撮っていましたから、当然Twitter呼びなのですが、リアルタイムで見ている方々からは「桜井さんはXではなくて、Twitter派なんだ!」とあって、「ああ、そういう取られ方をするのだな……」と思いながら見ていました(笑)。
ここについては、「テロップでTwitter(X)と補足しますか?」とご相談もさせていただいたんですが、そのまま行きましょうとなって、あのような形になりました。
──ほかに反響で面白かったものはありましたか?
松田:個人的に意外だったのが「A: 仕事の姿勢」と、「E: チーム運営」が結構伸びていたことですね。桜井さんの動画としてもちろん「B: ゲーム性」も視聴されているのですが、社会に対する姿勢にも関心があるんだなと思いましたね。
当初の予想では、「B: ゲーム性」と「M: 企画コンセプト」が伸びるだろうなと思っていたんです。桜井さんのチャンネルを見に来る人って、ゲームが好きな方が多いでしょうから、やはりその辺りが注目されるだろうなと。ところが「A: 仕事の姿勢」が凄く伸びて。中でも「とにかく、やれ!」はものすごかったですね。多分、耳が痛い人もたくさんいらっしゃったと思いますけど(笑)。
──その「とにかくやれ!!」と発言しているところをキャプチャーして、パソコンの壁紙にしてしまう人がSNSで話題になっていたりしましたね……(笑)。

松田:(笑)。あとは「上は下なり下は上なり」も伸びていましたし、それ以外ですとプレゼンテーション、企画書の書き方あたりでしょうか。「桜井さんのを参考に作りました!」みたいなコメントがあったりして、「やはり桜井さんの影響力は凄いな」と感じました。
──ちなみに海外の反響というのはいかがだったんでしょうか。
伊藤:もともと英語版は制作していたんですが、スペイン語圏の方から「僕が翻訳を担当するから許可してくれ!」というお話が来たこともありましたね。
──動画再生数については、日本と海外とで違いが出ていたのでしょうか?
松田:全体的にまちまち、といったところでしょうか。日本もそうですが、海外でも「N: 企画コンセプト」は結構伸びていました。ただ、「A: 仕事の姿勢」は日本ほどではなく、、「M: 雑談」が多く再生されていました。
──再生数に関しても、やはり日本が圧倒的に多いのですか?
松田:はい。日本の場合、(動画を公開していた)20時はちょうど仕事を終えて帰宅された方やご飯を食べられている方が多い時間帯です。時間的に見やすいということも、大きく影響しているように思います。
海外の場合は朝早くや夜遅くになってしまう国が多かったので。ただ、制作の都合で20時公開というのは止むを得なかったので、そういった部分が再生数にも現れているのかもしれません。
──TwitterとXの件もありましたが、HIKEさん側から見てもビックリされたことはあったのですか? 特に最終回では、視聴者にとって驚きの情報が多数明かされました。
松田:ゲームの制作と同時進行でやっていたことですね!(笑)。さすがに驚きました。メール返信のタイミングなどから、お忙しい、継続的に何かをされているのだろうなとは思っていたのですけど、まさかゲームを作っているとは(笑)。凄いバイタリティだなと思いましたね。


















