新作ライブサービスゲーム2作を開発中止のSIE “ターンチェンジ”に必要な「他者と競わないゲーム性」

ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)は1月16日、傘下のBend Studio、Bluepoint Gamesで進行していた2つの新作ライブサービスゲームの開発を中止したと明らかにした。
本稿では、SIEが行った早期撤退の決断から、そのメリット/デメリットを考え、ファーストパーティーによるライブサービスゲームに求められる要素を考えていく。はたして同社は、生まれてしまっている悪しき流れを止められるだろうか。
社内レビューでの不評がプロジェクト打ち切りの要因に
ゲーム市場における今後の戦略にも少なからず影響を与えそうなSIEの今回の決断。同社のファーストパーティータイトルに期待しているフリークにとっては、落胆が隠せなかったのではないだろうか。
ライブサービスゲームとは、売上の獲得にあたり、パッケージの販売を終着点とするのではなく、タイトルに継続的にコンテンツを追加し、長期にわたって運営を続けていくゲームの総称。近年、業界内では、プレイ権やユーザビリティを高めるアイテム、シーズンパス、キャラクターのスキンなどに対する課金を促し、利益を最大化するタイトルが増えている。
SIEの広報担当者によると、直近に実施された社内レビューでの不評がプロジェクト打ち切りの要因になったとのこと。その反面で、一連の動向によって両スタジオが閉鎖される予定はなく、今後も緊密に連携を続けていく旨もアナウンスされている。
Bend Studioは『Days Gone』の開発元として、Bluepoint Gamesは『ワンダと巨像』『Demon's Souls』のリメイクなどを手掛けたスタジオとして知られている。どちらもPlayStation Studiosに名を連ねる、SIEにとっては重要な開発組織である。だからこそ、肝いりで進んでいたであろう上記プロジェクトからの撤退が与える衝撃は小さくなかった。
『CONCORD』の失敗がもたらした早期の決断。そのメリットとデメリットは?
SIEは2022年2月、2021年度・第3四半期の業績報告において、ライブサービスゲームの拡充をうたい、2025年度までに10タイトル以上をローンチする計画を発表。同年度をめどに関連分野への投資が全体の60%を占める予定としていた。この間の2022年7月には、『Destiny 2』などを手掛け、ライブサービスゲームの分野にも明るいアメリカのスタジオ・Bungieを買収するなど、積極的な動きも見せていた。
しかしながら、直近では、おなじように心血を注いで制作にあたっていたであろう新作ヒーローシューター『CONCORD』が、リリースからわずか10日で販売中止されるという、稀に見る結末を迎えた。これを受け、傘下の開発元・Firewalk Studiosは閉鎖される事態に。まもなく“約束の時期”を迎えるが、取り巻く状況は決して明るくなく、当初のプランは暗礁に乗り上げていると言っても過言ではない状況だ。
Bend Studio、Bluepoint Gamesによる新作ライブサービスゲームの開発プロジェクトが世に出る前に打ち切りとなった背景には、『CONCORD』の失敗からの影響があるのだろう。万が一、何度もおなじような結果が続くようであれば、SIEにとっては、富と名声の両面で大きな痛手となる。場合によっては、同社から送り出されるライブサービスゲームすべてに「期待薄」の烙印が押されることにもなりかねない。そうした危機的状況を回避するために、あらためてフラットな目でそれぞれを見直した結果が、今回の決断へとつながった可能性がある。消費者の視点では、メーカーが自信を持って送り出したタイトルにお金や時間を割けるというメリットもあるだろう。当事者による早期判断は、両者にとってプラスに働く(傷口をそのとき以上に大きくしない)ものとも言えるのかもしれない。
一方、別の角度では、AAA、あるいはそれに匹敵する規模のタイトルを開発できる能力、リソースを持つゲームスタジオの活動に穴が空くことで、市場的、文化的に空白が生まれる点がデメリットとなるのではないか。たとえば、それほど期待されていなかったタイトルがなんとか発売まで至った結果、思いがけない商業的成功、高評価を生み出すケースもあるはずだ。このことは、SIEが最後まで『CONCORD』を信じていた事実と表裏一体である。自己評価というものは得てして、結果と完全なイコールにはならないのが世の常である。
2024年2月にSIEが発売した『HELLDIVERS 2』の大ヒットは、その最たる例である。ある程度のポテンシャルを秘めていると感じながらも、それが同社の業績に好影響を与えるほどのものとは、あまり信じられていなかったはずだ。もしBend Studio、Bluepoint Gamesによる新作がこちらに類するタイトルであったならば、損失の大きさは計り知れない。この点は当事者による早期判断のデメリットだろう。
これらを踏まえると、今回発表された撤退は、新規IPの創出に対する消極的な動きであるとも言える。計画当初のBungieの買収とのあいだには、ある種の対照性を見て取ることもできる。強力なファーストパーティータイトルの登場が待望されているPlayStationプラットフォームだけに、上述したメリットを最大化し、かつデメリットを最小化するような“正しい決断”を期待したいところだ。
求められる「他のプレイヤーと競わないゲーム性」
ドミノ倒しのように負の連鎖が続いているSIEにおける新規ファーストパーティータイトルの開発。社内とフリークの期待どおりの結果をもたらすためには、どのような要素が求められるのか。『Destiny 2』や『HELLDIVERS 2』のヒットに学ぶのであれば、それは「他のプレイヤーと競わないゲーム性」「オンライン協力における心地よい連帯感」「他人のミスを受け止められるだけの寛容さを内包したコミュニティのあり方」などだろう。
業界内、特にライブサービスゲームの界隈においてはここ数年、オンライン上の他者と争いながら、より上位を目指すカテゴリのゲームが流行している。バトルロイヤルや基本プレイ無料のモバイル向けタイトルなどはその一例だ。後者に関して、読者のなかには、上述の性質に当てはまらないとする方もいるだろう。私は、同カテゴリにおけるプレイヤーの課金行為には、他のプレイヤーに対して優越感を得る意味合いが一定程度含まれていると考えている。システムやゲーム性にユーザー同士を争わせる意図がなかったとしても、“前提“として横たわっている“Pay to Win”(よりお金をかけたプレイヤーが勝利へと近づく)の仕組みが結果的に、彼らを競わせている実態がある。
これからのライブサービスゲームにとって重要なのは、こうしたレースに食傷した層をいかに取り込めるかなのではないか。その意味において、特に『HELLDIVERS 2』の成功は、示唆的だったようにも思う。無論、根底にどっぷりと浸れる面白いゲーム性の存在が必要なのは言わずもがなだが、このような要素がヒットを生むための重要なパーツとなっている気がしている。
また、仮に対戦要素を排除し、協力路線でオンラインの仕組みを構築するのであれば、おなじように業界内で流行するソウルライクのような、シビアなゲームシステムとも相性が良い。「(要求値が高くなりすぎないという前提のうえで)ミッションのクリアには他人の協力が必要」という土壌が整えば、自ずとオンラインを接点に出会ったプレイヤー同士のつながりは強固となり、独自のコミュニティを形成していくはずだ。買い切り型ではあるが、2025年リリース予定の『ELDEN RING』からのスピンオフ『ELDEN RING NIGHTREIGN』は、明確に上記のマーケットを意識したタイトルであるとも考えられる。
SIEは悪しき流れを止められるか。注力するライブサービスゲームの分野においても、『アストロボット』のようなアイコンとなるタイトルの登場が切望されている。
『ノロイカゴ ゲゲゲの夜』に原作キャラクター不在のナゼ IPホルダーの姿勢に感じる“前例”への反骨心
東映アニメーションは1月23日、『ノロイカゴ ゲゲゲの夜』(以下、『ノロイカゴ』)のアーリーアクセスを開始した。人気マンガに着想…