恋愛ADVに波及するリメイク/リマスターのトレンド 『D.C. ~ダ・カーポ~』の次に話題を集める復刻作品は?

1月13日、『D.C. ~ダ・カーポ~』のフルリメイク版となる『D.C. Re:tune ~ダ・カーポ~ リチューン』の制作が正式に発表された。
界隈では、知る人ぞ知る名作として高い人気を誇ってきた同タイトル。本稿では『D.C. Re:tune ~ダ・カーポ~ リチューン』の制作から、恋愛アドベンチャージャンルに波及する復刻のトレンドを読み解き、次に生まれそうなリメイク/リマスター作品を予測する。
2002年に発売された人気恋愛ADV『D.C. ~ダ・カーポ~』
『D.C. ~ダ・カーポ~』は、2002年6月にPC向けゲームブランドのCIRCUSから発売された恋愛アドベンチャーだ。舞台となっているのは、「枯れない桜」が1年中花を咲かせ続ける「初音島」。“一風変わった特殊能力”を持つ主人公の朝倉純一は、口うるさく甘えん坊な義妹・朝倉音夢、歌が上手な学園のアイドル・白河ことりとともに、「風見学園」へと通い、日常を送っていた。そこへ6年前に海外に渡ってしまった幼馴染・芳乃さくらが帰ってくる。それぞれは桜舞う島の高校生活のなかで、それぞれの恋物語を紡いでいくことになる。
企画/ディレクション/脚本を務めたのは、『夏空のペルセウス』『アマツツミ』『ムーン・ゴースト』などで知られるシナリオライターの御影氏。原画/キャラクターデザインを、『Canvas2』『ALIA's CARNIVAL!』などを手掛け、同人サークル「あいすとちょこ」の主宰としても知られるイラストレーターの七尾奈留氏が担当した。
そのようにして制作された『D.C. ~ダ・カーポ~』は発売から一定の評価を獲得。以降は、複数のナンバリング/スピンオフが展開され、シリーズ化するとともに、CS向けゲーム、アニメ、マンガ、小説といったカテゴリでメディアミックスを経験し、広く認知されるに至っている。
中心的役割を担った2人はCIRCUSでの活動を終えたのち、別のPC向けゲームブランド・minoriで恋愛アドベンチャー『ef - a fairy tale of the two.』を共作。同作もまた、CSでのゲーム化(PlayStation 2)、TVアニメ化(シャフトによるアニメーション制作)などを経て、大きな求心力を得た。
今回発表された『D.C. Re:tune ~ダ・カーポ~ リチューン』は、世界観はそのままに、新たなキャラクターデザイン、新たなキャストで贈るフルリメイク版。制作を担当するCIRCUSによると、原作には存在しない新ヒロイン「風祈(ふうき)」も登場するという。発売時期、対応プラットフォームは現時点で未定。20年以上の時を超え、人気恋愛アドベンチャーが現代によみがえることとなった。
恋愛ADVに波及するリメイク/リマスターのトレンド。次に生まれる復刻作品は?

『D.C. ~ダ・カーポ~』を含めたすべての作品に共通するのは、コアなフリークたちに支持されてきた、ジャンルの往年の名作であるという点だ。どれもが別プラットフォームへの移植を何度か経験してはいるものの、現在では時間の経過にともなうハードの移り変わりから、そうしたバージョンもプレイしにくい状況が続いていた。だからこそ、リメイク、リマスターの違いはあれど、復刻が発表された際には、界隈から驚きと喜びの声が上がっていた。今後はこれらを皮切りに、同様の名作たちがリメイク/リマスターの道を歩むのかもしれない。
たとえば、『サクラ大戦』や『トゥルー・ラブストーリー』『センチメンタルグラフティ』などはその筆頭なのではないか。ややマイナーなところでは、『true tears』や『車輪の国、向日葵の少女』『俺たちに翼はない』『アマガミ』なども候補に挙げられる。前項で御影氏、七尾奈留氏が携わったと紹介した『ef - a fairy tale of the two.』も、その一角だろう。もしこれらの作品が復刻に至ったならば、同様に大きな反響を得られるはずだ。そうしたムーブメントこそが、リメイク/リマスターのトレンドの最大の文化的価値であるとも言える。
※『ToHeart』リメイク、『ときめきメモリアル~forever with you~ エモーショナル』、『STEINS;GATE RE:BOOT』は、2025年内発売。『Never 7 - The End of Infinity』『Ever17 -the out of infinity-』リマスターは、2025年3月6日発売予定。
なぜ復刻のトレンドは恋愛ADVのジャンルに波及しつつあるのか
なぜこれまでは他ジャンルを中心に盛り上がってきたリメイク/リマスターのトレンドが、ここにきて恋愛アドベンチャーにも波及しつつあるのか。そこには3つの理由があると、私は考えている。
ひとつは、モバイルRPGの台頭、アニメカルチャーの一般化によって、恋愛アドベンチャーらしい表現に対するライト層の抵抗が弱まりつつある点だ。前者、後者ともに、作中には、いわゆるところの“美少女”が登場しやすく、また、前者では、シナリオの本筋とは別の部分で、キャラクターとの個別の物語が展開されるケースも多い。これらの要素は、歴史を振り返ると、恋愛アドベンチャーからの借り物であるとも言える。そのような表現が大衆化したことで、同カテゴリが市民権を得やすくなっている状況があると推察する。
特に、恋愛以外の部分でも見どころの多い『Never 7 - The End of Infinity』『Ever17 -the out of infinity-』といった作品の復刻には、強く追い風として作用している可能性がある。このことは『サクラ大戦』が今後の候補に挙げられる理由のひとつともなっている。
2つ目は、恋愛アドベンチャーのジャンルに属する多くの作品が、当初は特定の層に向けにPCでリリースされてきた背景を持つ点である。近年でこそ、PCでのゲームプレイは一般層にも浸透しつつあるが、当時はどちらかといえば、同カテゴリやMMORPGなどに傾倒するコアゲーマー向けのスタイルだった。後者に関しては、近年、CSとのマルチプラットフォームで展開されるケースも多く、そのことが、かつての支持層以外を取り込む手段となっている現状もある。
一方で、前者に関しては、その特性から、特定の場合を除き、CSで展開されるには至らなかった。そのため、名作に数えられる作品であっても、2010年ごろを境に移植や復刻の機会が与えられなくなり、歴史のなかに埋没してしまっている例が往々にして存在する。本稿で取り上げている『D.C. ~ダ・カーポ~』や『ToHeart』『Never 7 - The End of Infinity』『Ever17 -the out of infinity-』も例外ではない。そうした作品たちが、リメイク/リマスターのトレンドにあやかって復刻されている面もあるのではないか。
くわえ、3つ目の理由として挙げるのは、恋愛アドベンチャーというジャンルが、小規模体制でも一定のクオリティに達しやすい特性を持っている点だ。同カテゴリに分類される作品では、グラフィックと音楽、シナリオがゲーム性の大部分を構成する要素となっている。うちシナリオ部分に関しては、作品性の根幹でもあるため、リメイク/リマスターにあたり、大きな手入れがされることは考えにくい。つまり、改良の余地があるのは、グラフィック部分がほとんどであるというわけだ。
実際に本稿で紹介している『D.C. Re:tune ~ダ・カーポ~ リチューン』では、シナリオの本筋をそのままに、原画/キャラクターデザインを七尾奈留氏から、たにはらなつき氏、鷹乃ゆき氏に変更している。こと恋愛アドベンチャーのジャンルにとっては、グラフィック面こそが復刻の最大の改変点であり、おそらく他ジャンルほどは、予算も手間もかかりにくい構造を持つ可能性がある。このことも同カテゴリで復刻が続くひとつの因子となっているのではないか。
恋愛アドベンチャーのジャンルに波及するリメイク/リマスターのトレンド。はたして次に界隈の話題をさらうのは、どの名作だろうか。新たな復刻をきっかけに、忘れ去られつつあるその名前が後世に残っていくことを期待したい。























