生成AIと明晰夢が生んだ“無意識のクリエイティブ” 真鍋大度×チャールズ・リンゼイが語り合う、『Sora』と人間の可能性

真鍋大度×チャールズ・リンゼイ氏が語るAI

 2024年12月9日、OpenAIがテキストや画像、動画から高品質な動画を生成できるAIモデル『Sora』の一般公開を開始した。その発表を受け、12月10日にアーティストと生成AIの関係性を探るトークセッションイベント『A Dialogue on AI and Artistic Creation - Flying Tokyo #25』が開催された。

 登壇したのは、アーティストでグッゲンハイムフェローのチャールズ・リンゼイ氏と、アーティストの真鍋大度氏。両氏はともに『Sora』のアルファテスターとして、その可能性を探求してきたことで知られる。

 同イベントは、京都・建仁寺両足院で開催されていたリンゼイ氏の個展『PLEASE FORGET (EVERYTHING) /(スベテ)ワスレテクダサイ)』に関連して実現したもの。リンゼイ氏は同展でAIが意識に近づき、悟りを得る可能性についての探求を行っており、『Sora』を使用した映像作品を通じて、思考や夢の儚さ、人間の認識の限界と無常について問いかけを行っている。

 セッション当日はそのリンゼイ氏を迎え、真鍋氏が『Sora』のアルファテスターとしての知見をオーディオ・ビジュアルアートの経験とテクノロジーを通じた表現の可能性という観点から共有した。

 トークセッションは、真鍋氏の「今日は2人で『Sora』の作品と実験の動画を見せながら話をしていきたい」という発言からスタート。それを受けて、チャールズ氏も「『Sora』を6ヶ月使って17分間の映像を作り上げた」と述べ、2人はそれぞれの視点から「生成AIと表現の関係性」について語り合った。

 リンゼイ氏の作品は、コロナ禍だった2020年の京都での偶然の経験から始まった。当時、中国へ向かう予定だったが、その予定の変更を余儀なくされたリンゼイ氏は、京都に滞在。その時に借りた家の隣にあったAMANO製のパーキングメーターとの出会いが、後の作品の重要なモチーフとなったとなったという。作品制作について「アーティストはSFを作るようなもの」と語るリンゼイ氏だが、その時期に見た明晰夢について次のように説明する。

「パーキングメーターが意識を持って、日本全国に広がっている無数のパーキングメーターがネットワークで繋がり、それが人間に対して何かいたずらをするように働いていく。そういった夢を見た」(リンゼイ氏)

 この体験を経て4年半後、リンゼイ氏は建仁寺両足院での個展を実現。そのきっかけとなったのは、両足院の副住職との「AIが感情を持つことができるのであれば、AIは意識を持つことができるのか? そこから“悟りを得る”ことはあるのか?」という対話だった。パーキングメーターは、リンゼイ氏にとってAIの象徴的存在となった。なぜなら日本全国に存在しながら、人々の目に留まることの少ないパーキングメーターは、「いたるところに存在していくようになるであろうAIと同じ」だと考えたからだ。

 リンゼイ氏の両足院での個展は、9月下旬にサンフランシスコで開催された個展に続くものだ。ちなみにサンフランシスコでの展示では、AIの専門家や数学者を招いてトークセッションを実施し、「演算のみで意識が生まれるわけではない」「AIは人間を上回るものと考えるべきでない」という専門家たちの指摘を得た。また、両会場では、『Sora』に禅の詩を入力して生成された映像や、「ネアンデルタール人の足」というプロンプトから生まれた想定外の映像などを展示。また、AMANO社から各会場1台ずつ提供されたパーキングメーターを「時間と空間を売るもの」として捉え、京都では特に禅の精神を表現する枯山水の上に配置した。こうした作品制作において特に興味深かったのは、『Sora』による映像生成のプロセスだとリンゼイ氏は次のように語る。

「このような動画は、私が『Sora』を手にする以前であれば、ハリウッドのスタジオなどで多額の資金をかけて作られていた。今は私1人でラップトップを使うだけで作れる。これは本当にすごいことだと思う」(リンゼイ氏)

 一方、真鍋氏は、画像や動画の真贋性の判別が困難になってきた現状について、「ここ3年ほどで実写なのか、CGなのか、あるいはAIが作ったものなのか、区別がつかなくなってきた」と指摘する。そんな真鍋氏は2020年頃からGPT-2を活用した作品制作を始めていた。

 この時期、真鍋氏は多くの作品を制作していたが、コロナ禍により計画の大半がお蔵入りに。その経験から、コロナ禍でのメディアの在り方を考察するため、ニュースサイトのコメント欄をスクレイピングしてファインチューニングを行い、テキストベースの作品を制作。さらに、没になった企画書などからテキストの断片を取り出し画像生成を行った。これが生成AIを用いた表現への本格的な取り組みの始まりとなった。このように先駆的に生成AIを活用してきた作品制作経験から真鍋氏は昨今のAIの進化について、次のように分析する。

「2021年ごろは精度はそこまで高くなかったが、すぐにもっと精度の高いものが出るだろうと考えていた。現在、同じプロンプトを使用しても、はるかに高精度な生成が可能になっている。そして今は『Sora』に同じテキストプロンプトを入力することで、その内容に沿った動画生成が実現できる」(真鍋氏)

 真鍋氏は『Sora』の特徴的な機能として、「ジェネレートストーリーモード」を挙げ、短い文章入力だけで『Sora』が脚本を作成できる点を評価。そのような作業は、これまではChatGPTなどで行っていた作業だが、『Sora』では同機能が搭載されたことで、より直感的な動画制作が可能になったという。

 ただし現状では、作りたい映像を得るまでには試行錯誤が必要だ。真鍋氏は「作りたいものを決め打ちで指示しない場合は、良い結果が出るまで“ガチャ”を引くような面がある」と説明する。また、現時点では10秒程度の動画しか作成できず、クリエイティブの現場で使うにはまだ非力で実用的ではないと分析。しかし、来年には映画一本を作れるようなツールが登場する可能性も示唆した。

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