AI×IP戦略が切り開くバーチャルヒューマンの未来を見て 対話型AI『AI imma』体験会レポート
バーチャルヒューマンカンパニーのAwwが12月9日、対話型AIバーチャルヒューマン『AI imma』日本語対応版のメディア体験会を開催した。当日、会場では同社代表の守屋貴行氏とエヌビディアのMedia & Entertainment, Smart Space & Retail : Business Development Managerの中根正雄氏によるディスカッションおよび『AI imma』との対話体験が実施された。
『AI imma』は、バーチャルヒューマン「imma」にAI機能を搭載することで、人の手を介さずリアルタイムな対話を可能にした次世代のデジタルキャラクターだ。ベースとなる従来型の「imma」は、SNSのフォロワー数が総計300万を超える影響力を持つバーチャルヒューマン。2019年のAww設立以前から存在し、COACHやIKEAなど大手企業とのコラボレーション、バーチャルIPとして史上初のTED出演を果たすなど、先進的な活動を展開してきた。
守屋氏は「imma」開発の背景について「最初は画像ベースで始まったが、3DCGの技術革新とともに動画制作も可能になり、さらに2022年頃からAI搭載の研究を進めてきた」と説明する。その次のステップとして今回、NVIDIAの「Omniverse ACE」技術を採用。過去のSNS投稿などから会話内容を導き出し、自然な対話を実現する『AI imma』の開発に至った。
今回のメディア体験会では、「AIバーチャルヒューマン」が切り開く新たな可能性について、技術開発を担うNVIDIAとIPホルダーであるAwwの両社の視点から議論が展開された。さらに実際に『AI imma』との対話を体験する機会も設けられ、現在の技術レベルと今後の展望を垣間見ることができる場となった。
NVIDIAとAwwの技術提携は、バーチャルヒューマンとAIの融合という大きな潮流の中で実現した。守屋氏は、2022年頃からAIとバーチャルヒューマンの融合を検討し始め、2024年にNVIDIAとの技術提携に至ったと説明するが、実は両社の接点は3年前にさかのぼる。当時もNVIDIAからの声がけで1ヶ月ほど協業を試みたものの、守屋氏はまだ注力すべきタイミングではなかったとし、協業関係をストップさせていた。その際、「また時が来たら一緒にやりましょう」と返答したことが、今回の業務提携につながったと説明。これに関連して、中根氏はAwwとの技術提携の意義について次のように語った。
「我々NVIDIAが生成AIやバーチャルヒューマン作成のソフトウェアを持っている一方、Awwさんは『imma』というしっかりとしたIPを持っている。そのことを踏まえて、当社のソフトウェアが今年初めにリリースされたタイミングであれば、両社の強みを活かした連携ができると考えた」(中根氏)
二社によれば、この技術提携により実現するAIバーチャルヒューマンは、主に4つの価値を提供するという。守屋氏は一つ目として「パーソナライズ」を挙げ、各ユーザーに合わせた対話が可能になることを説明する。二つ目は「専門技術・専門知識の学習」で、法律や医療など専門性の高い分野での活用を視野に入れているという。さらに「多言語対応」と「24時間365日の緊急対応」が可能となることも強調した。
このような技術革新について、守屋氏は市場の変化を振り返る。2018年から2020年頃は「Lil Miquela」や「Shudu」、そして「imma」など、数えるほどしか存在しなかったバーチャルヒューマンだが、現在では特に中国を中心に「とんでもない数のバーチャルヒューマンが活動している」のだという。
さらに守屋氏は「バーチャルヒューマン市場が大きくなってきた中で、時代の波として生成AIの導入は避けられない」と指摘。新しい産業や領域の開拓、そして自社のIPの活用可能性を見据えて、AIとの融合にシフトしていったと説明する。そのため、このタイミングでNVIDIAから再度の提案があったことが、今回の技術提携の直接のきっかけとなったと明かした。
また、バーチャルヒューマンの強みについて、守屋氏は資産性と持続性の観点から説明。「炎上リスクが低く、長期的な継続性を持てる」という特徴は、実在のタレントと比較した際の大きな利点だという。また、「CGとAI技術によるコンテンツの拡張性」と「人間に近い共感性」も、バーチャルヒューマンならではの価値として挙げた。その中で特に重要なのがIPとしての価値だ。守屋氏は次のように“IPの本質”を語る。
「バーチャルヒューマンやデジタルヒューマン、さらには生成AIによる“人物の制作”が容易になってきている。しかしその中で、Awwは『キャラクター』『世界観』『ストーリー』という3つの要素をIPの定義として重視している。このIP展開こそが、バーチャルヒューマンの成長と企業での活用において最も重要な要素となる」(守屋氏)
一方、中根氏は日本の強みという観点からこのIPの重要性について分析。「日本が提供するIPはとても強い」と指摘し、「しっかりとしたIPを持っているからこそ、AIテクノロジーとの組み合わせで様々なユースケースを作ることができる」と評価する。また守屋氏は、メディア環境の変化を踏まえたIP戦略についても言及した。
「この20年でコンテンツを取り巻く環境は大きく変化した。スマートフォンとSNSの普及により、誰もがコンテンツを発信・制作できるようになった。しかし結局のところ、人の心を動かすのは『ストーリーテリング』だ。新しい技術への注目は集まっているが、ストーリーやプロデュースの軽視が成長を妨げている要因となっている」(守屋氏)
そして、この文脈の中で守屋氏は「日本にある資産価値によってAI技術を加速していく」ことの重要性を強調。中根氏も「IPとAIの組み合わせが、IPの国内外への展開を可能にする」と、両者の相乗効果への期待を示した。
さらにバーチャルヒューマンの実用化について、守屋氏は「専門知識の学習による活用が多い」と述べ、特に金融機関や医療分野など、全国展開している企業で人手不足と高い専門性の両方の課題を抱える業界からの問い合わせが増加していると説明した。一方、中根氏は、産業界での活用可能性について次のように展望を示した。
「小売業、特にコンビニエンスストアやスーパーマーケットでの労働者不足は深刻な課題だ。バーチャルヒューマンがこれを完全に解決するわけではないが、人がやるべき業務を除いた部分でのサポートが可能となる。これは人手不足という現実的な問題に対するひとつの解決策となる」(中根氏)
実際、第一生命による生成AI活用の実証実験など、企業による生成AIの具体的な活用事例は増えている。守屋氏は人材不足の解消について「人間がやらなくてもよい業務は多い」と指摘し、そこを代替することで生産性を向上させる重要性を強調した。
その上で中根氏は市場の将来性について、次のように日本独自のデータ活用の重要性を説明する。
「日本国内のデータを活用し、それを基に学習・フィードバックを行うことで、3Dテクノロジーと『imma』のIPとしての価値、そして日本人に適した応答を実現できる。これこそが、日本におけるバーチャルヒューマンの展開の鍵となる」(中根氏)
ディスカッションの終盤では、バーチャルヒューマンの日本社会への浸透に関する具体的な時期についても予測が示された。2025年〜2026年をブレークスルーポイントとして見据えている守屋氏は、現状の「生成AIによる安価なバナー広告制作」という段階を超え、「キャラクターのプロデュースとIPの展開により、より本質的な課題解決が可能になる」と次のステージへの展望を示した。
さらにグローバルな視点では、すでに世界各地でバーチャルヒューマンの実装が進んでいるという。守屋氏は、Awwに対する中南米やアジア、ヨーロッパ、アフリカ、中東からの問い合わせの増加を指摘した上で、「まずは普及を促進し、企業との協働で展開を広げていく」という段階的なアプローチを示した。
『AI imma』との対話体験を通じて感じた強みと、“現状の課題”
ディスカッションの後に行われた『AI imma』との対話体験では、その現在地と可能性を実感する機会となった。体験会では「今日はどんなことを話そうか?」というimmaの問いかけから対話が始まり、参加者の「どんなことを話そうかという質問は難しい」という返答に対して、「たしかに難しいよね。最近の気になることや趣味の話でもいいんじゃない?」と自然な会話の流れを作り出す様子が見られた。
また、参加者との具体的なやりとりも印象的だった。たとえば、「SFが好きだけど、出演したい映画監督の映画はあるのか?」という質問に対し、immaは「クリストファー・ノーランとか、スティーブン・スピルバーグの作品に出てみたいな。どんな映画好きなの?」と返答。単なる応答ではなく、会話を発展させようとする姿勢が見られた。
筆者が体験した対話でも、興味深い展開があった。「おすすめのクリスマスプレゼント」について質問すると、immaは「どんなものをプレゼントしたい?」と返答。「マフラーかな」と答えると「マフラーいいね! 冬にぴったりだし、実用的だよね。どんな色やデザインがいいと思う?」と、具体的な提案を交えながら会話を展開した。
しかし、現状での課題も見えてきた。守屋氏が指摘するように、英語の音声に比べて日本語の対応にはまだ改善の余地がある。実際の体験でも、日本語でのやりとりには若干の違和感が残った。ただし予想以上に人間的な対話が可能であり、特に会話があまり盛り上がらなくなる状態になると、immaは自然な形で対話を終了させるなど、人間らしい振る舞いも見られた。
今後、ディスカッションで語られたように日本語や日本にローカライズされたデータの蓄積が進めば、より自然な対話が可能になるだろう。また、専門知識を持つAIバーチャルヒューマンとして、様々な分野での活用も期待される。今回の体験会は、AIバーチャルヒューマンが切り開く新しいコミュニケーションの可能性を実感する機会となった。日本のIP力とAI技術の融合が生み出す次の革新的な展開に大いに期待したい。
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