"実在しない人物"の活用は広告の革新か、あるいは「バーチャルヒューマン」は「いらすとや」になるか?

「バーチャルヒューマン」は広告の革新か?

 海外向けのデジタルマーケティングを展開する株式会社セカイエと香港のスタートアップ、Phantheon Labが共同で開発したバーチャルヒューマン技術が脚光を浴びている。Phantheon LabのAI技術によって写実的な人の顔を生成し、実在する人物の姿に合成することで、広告写真や動画を製作するサービスだ。今回はこうしたサービスの可能性と、普及における課題について考えてみる。

 この技術によって生成された人物をセカイエ社は「リアル型バーチャルヒューマン」と称している。セカイエ社のWEBサイト(※1)によると、

"私たちのサービスで提供するAIによるリアル型バーチャルヒューマンは、Pantheon Lab社のフォト・リアリスティックなバーチャルヒューマン合成技術、50カ国以上の言語に対応するリアリスティックなリップシンク(lip sync)ダビング技術、顔認識シフティング(Face identity shifting)・再現映像技術、ボイスクローニング・音声合成技術といった最先端のAI技術によって生み出され、CGI(コンピューターグラフィックス生成技術)や3DCGでつくられたバーチャルヒューマンとは一線を画します。"

 とのことで、写真を見てもこの人物がCGによって合成されているとは信じがたい。今年の夏には「ライブアクション」が導入され、ライブ配信なども可能になるという。Instagramで「バーチャルインフルエンサー」がライブ配信をする未来はそう遠くなさそうだ。

「株式会社セカイエ」プレスリリースより

 ところで昔、インターネットで「ハローキティは仕事を選ばない」という文言を見たことがある。調べてみるとハローキティは多種多様なタイアップを行っており、布団やレトルトカレー、自転車など、さまざまなジャンルの製品やサービスとコラボレーションしている、こうした状況をたとえたものだ(実際にはもちろん、仕事は選んでいるのだろうが)。

 広告を作る上でキャラクターは強い力を持っている。たとえすでに有名な製品でも、愛らしいキャラクターとのコラボレーションによって新たな客層に届けたり、製品のイメージをガラッと変えたりといったことができるからだ。

森永製菓「バナナ甘酒」(左)や、X JAPAN・YOSHIKIとコラボした『yoshikitty』(右)

 「バーチャルヒューマン」は"居ない人物”を作ることで広告に活用する技術であり、キャラクターのタイアップ広告とは意味合いが異なるものの、ここで生成される人物が"実在しない"という点でキャラクターと近しい部分もある。特に、実在するタレントが抱えるリスクを負うことなく製品を訴求できる点で、バーチャルヒューマンとキャラクターは近しい。

 そしてキャラクターにせよ、バーチャルヒューマンにせよ、こうした施策を取り入れる際に広告主が求めているのは「商品・サービスが売れること」であり、広告主は、それがキャラクターであること、バーチャルであること自体を求めているわけではないというのも共通している。

「株式会社セカイエ」プレスリリースより

 将来的にはライブ配信も可能になるということで、コマーシャルには特に有効に活用できそうだが、それが消費者の心を掴むようなCMになるかはわからない。タレントやキャラクターを起用したコマーシャルとはある意味真逆の、"居ない人物"によるCMは、求心力を獲得できるのだろうか?

 面白いが少し不気味にも思えるこうした技術が広く受け入れられるためには、どうすればよいだろうか。真っ先に思い出したのは“お絵かきAI”の流行だ。今回取り上げた「バーチャルヒューマン」はセカイエ社の独自のサービスとして展開されているが、こうした技術がもっと手軽に扱えるようになれば、“お絵かきAI”が脚光を浴びたように、バーチャルヒューマンも多くの場所で見かけるようになるだろう。ガイドラインに基づいた形で安価にAPIを活用できるような仕組みが生まれ、個人のユーザが"実在しない人"の姿を活用する時代が来るかもしれない。

「株式会社セカイエ」プレスリリースより

 スキャンダルや"炎上"のリスクが低い、フォトリアルな「バーチャルヒューマン」。低価格で導入できるようになれば、インターネット広告はバーチャルヒューマンだらけになってしまう可能性もある。”魅力的な人物の写真は、見たら実在を疑え”なんて、まるで映画のような状況でやっぱり不気味だと感じてしまうが、実現したら「いらすとや」が普及したときのように、案外チープなのかもしれない。その世界は少し見てみたい気もするので、実際には素朴な技術革新であることを祈りたい。

※1:https://www.sekai-e.jp/aivirtualhuman

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