紅白出場のこっちのけんと YouTubeで見せる“視聴者との絶妙な距離感”

 今年は、いたるところで「ギリギリダンス ギリギリダンス(踊れ)」というフレーズを耳にしたことも多かったのではないだろうか。このフレーズは、アーティスト・こっちのけんとが2024年5月27日にリリースした「はいよろこんで」という楽曲のワンフレーズである。こっちのけんとのYouTubeチャンネルに「はいよろこんで」のミュージックビデオが投稿されているのだが、公開からたった1か月で1000万回再生を突破。そして2024年12月現在は、1億4千万回再生と、脅威的な数字を叩き出している。

 そしてミュージックビデオでも登場している、“ギリギリダンス”がTikTokを始めSNSで大バズり。曲、ダンス、ミュージックビデオなど、すべての方面で話題を呼び、『第66回 輝く!日本レコード大賞』(TBS)では新人賞を受賞。そして『第75回NHK紅白歌合戦』(NHK)へ初出場することも決定した。

 間違いなく今年の顔となった、こっちのけんと。本記事では、こっちのけんとのYouTubeチャンネルから、ヒットの要因について深掘りをしていこう。

 こっちのけんとは2012年12月にYouTubeチャンネルを開設。当初は歌ってみた系の動画を投稿しており、2022年8月には、1stシングル「Tiny」のミュージックビデオを公開。その後はブレイクのきっかけとなった「はいよろこんで」のミュージックビデオなども公開し、2024年12月現在でチャンネル登録者数は72万人になる。

とりいそぎご報告

 チャンネルでは楽曲以外に、語りメインのトーク動画なども投稿している。またたく間に話題となった「はいよろこんで」についての感想も、リリースしてから約2週間後に感想について語った動画を投稿。動画を通してすぐ反応を返すレスポンスの早さも、こっちのけんとがYouTubeチャンネルを個人的な活動の場として運営していたからだろう。「はいよろこんで」の「本当はバージョン違いも出したかったけど、(ヒットするのが)早すぎで無理だった」といった制作の裏側を知ることができるのも、ファンとしては嬉しく感じるのではないだろうか。

1億回再生?

 再生回数が1億回を突破した際も、こっちのけんとはリアクション動画を投稿している。「手が震えている」「実感ないねんもん」とリアルに戸惑う姿を見せつつ、徐々に涙声に。視聴者に「生きた心地がしなかったので」「本当にありがとうございます」と感謝を伝え感極まったのも束の間、かき消すように運動会のBGMが流れるところでクスッと笑ってしまう。伝えていることはアーティストなのだが、動画自体にも面白さがあり、満足度が高い内容となっている。

【公式】1時間耐久 - はいよろこんで / こっちのけんと

 ほかにも、こっちのけんとのYouTubeチャンネルはアーティストらしからぬ独自の使い方が見られる。たとえば「【公式】1時間耐久 - はいよろこんで / こっちのけんと」では、一般的にファンの手によってつくられることが多いループ動画を、自身のチャンネルで投稿した。

 耐久動画は、中毒性があり癖になるリズムやフレーズが使われている楽曲をもとに作られることが多いが、こっちのけんと自身、「はいよろこんで」という楽曲と耐久動画の親和性があることを理解しており、かつループ動画にファンの需要があることに気付けているのだろう。コメントからは「公式が1時間耐久出してくれるの助かる」「需要理解してるの天才」「公式からの供給がほんとに充実しててありがたい」といった声が集まっている。このように、こっちのけんとのYouTubeチャンネルはいい意味で“公式感のない雰囲気”が、視聴者との距離を縮めているように感じる。

【1000万回記念】MVに来たコメントが鋭いから発表します。【はいよろこんで】

 ほかにも、ミュージックビデオにきた鋭いコメントについて取り上げる動画も投稿している。「【1000万回記念】MVに来たコメントが鋭いから発表します。【はいよろこんで】」では、ミュージックビデオに来た楽曲を考察するようなコメントにアンサーを返している。

 また、こっちのけんとは“鋭い”と感じた視聴者のコメントに「おっ」とコメントをするというアクションを起こしている。また視聴者も、こっちのけんとから「おっ」がついたコメントには高評価をつけ、「上げろ上げろぉ」と、より上位に表示させるというサイクルも生まれているのだ。

 多くのYouTuberはコメントにお気に入りをして終わることが多いが、それだけではなく「おっ」コメントがつくことによって、視聴者はより本人に刺さった嬉しさを感じることができるのではないだろうか。また、ほかの視聴者もそのコメントを見ることでより曲への理解が深まるという、とてもいいコミュニケーションのひとつとなっている。

 そして自身のワンマンライブの告知も、動画として投稿している。ライブ名を『よいとこせ』と名付けた理由や、グッズの詳細についても雑談ベースで詳細に解説。アーティストではあるものの、人間性が垣間見えるトークでも、魅力的な面を見せてくれた。

 総じてこっちのけんとは、アーティストでありながらも、YouTubeを通して視聴者と近い距離感でコミュニケーションをとっていることがわかる。コメントからも、「この人マジトーク上手い」「こんなオモロい人なんやwww」「ラジオ感覚で過ごせた」と、素の姿にも定評が集まっている。中毒性のある音楽で多くの人を魅了し、YouTubeでよりコアな一面も知ってもらう。良さを知ってもらう入り口をいくつも設けているからこそ、こっちのけんとは愛されるアーティストとなっているのではないだろうか。

 動画クリエイターに限らず、どんな職業でもセルフプロモーションが鍵を握る時代。こっちのけんとはこれからどんな方法で魅せてくれるのか、2025年も活動を楽しみにしたい。

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