華々しいRTAを彩る“解説者”とは? 陰の功労者に聞く、タイムアタック競技の魅力と注目ポイント
ゲームクリアまでの実時間を競う遊び、RTA(リアルタイムアタック)。『RTA in Japan』などを始めとする多くのイベントが開催されてきたことで、年々視聴者が増している一大コンテンツだ。
今回はそんなRTAを専門とする“解説者”をお呼びし、その魅力や大変さについてお話を聞かせていただいた。RTAという遊びの細かいルールから、ただただ最速を求める人々が垣間見せる熱きドラマまで、縦横無尽に語っていただいたのでぜひともチェックしていただきたい。(各務都心)
――まずは自己紹介をお願いします。普段どういったことをされていますか?
ぼぶそん:「ぼぶそん」という名義でゲームコレクターをしており、最近はコントローラーや周辺機器を中心に集めています。また、RTAにイベント運営や解説者として関わることもあります。
Xアカウント:https://x.com/BOBSON27
――本題に入る前に、少し脱線になるのですが、コントローラーや周辺機器の収集とは具体的にどういったことをするのでしょうか?
ぼぶそん:もともとゲーム関連の変わったものを集めるのが好きで、その延長で特徴の強いコントローラーや周辺機器を集めている感じです。最近のお気に入りだと、Nintendo 64のコントローラーなのにサターンパッド風のボタン配置であるものとか、変形してガンコンになるコントローラーなどがあります。
――RTAについてあらためて概要を教えてください。
ぼぶそん:Real Time Attack(リアルタイムアタック)の略で、ゲームを実時間計測でどれだけ早くクリアできるかを競う遊びです。
同じゲームでRTAをするとしても、使っていいバグ技・裏技やクリア条件などによってカテゴリが分かれていたり、そもそもクリア以外を目指す場合もあったりしますが、なるべく早いタイムを目指してゲームを研究し、プレイの精度を上げることを総称します。
――RTAにおいてよく見る、Any%やグリッチありなどといったタイプ分けについてもお聞かせください。
ぼぶそん:タイマーストップの条件とプレイの制約でタイプ分けしたものを「カテゴリ」と呼びますね。よくあるカテゴリは「Any%」で、クリアさえすればバグ技でもなんでもアリ。「100%」は収集要素も含めた完全クリアを目指します。
一見してAny%より100%の方が難しそうですが、たとえば「ロックマン」シリーズのようなアイテム収集がキャラ強化につながる場合、100%のほうがキャラクターが強化された状態で進めるのでRTAを走りやすい場合が多いです。any%はさして強くない状態で進めなければならないうえに高度なゲーム知識やプレイ精度、バグ技が必要だったりします。
結局、どんなゲームの何のカテゴリだろうと、タイムを詰めるには相応の知識と技量が必要です。
――また、RTA解説についても概要を教えてください。
ぼぶそん:複雑な知識と鍛え抜かれた技量が必要なRTAを、一般人がいきなり見てもなんとなくしかわからないので、RTAを多くの人に見てもらうイベントでは走者のプレイについて解説がつくわけです。解説は走者本人がする場合もありますが、さすがに喋りながらは走れないとか、緊張してしまうからといった理由で、解説者を立てることがあります。
解説者や走者の説明に関して、イベント運営側は関与しないのが一般的なので、内容はさまざまです。プレイや作品についてひたむきに語る人、有識者の知り合いと雑談する人などなど……ただ、イベントに出ている以上、どの方も「このRTAを多くの人に見てほしい」という考えなのは一貫しているところでしょうね。
――RTAの魅力とはなんなのでしょうか?
ぼぶぞん:走る側の魅力は、タイムを詰めるための工夫と練習、そして目標に到達した際の快感が挙げられるでしょう。どんなバグ技があろうとも結局ゲームが上手くないとタイムは縮まらないし、新しい手法が見つかっても安定しなかったら使えないなど、実際はかなり泥臭い遊びです。
しかし、かと思っていたら発想ひとつで一気にタイムが縮まったり、自己ベストが掛かった場面で最善のプレイを通せたりもします。最終的にタイムという絶対的な記録が残るのもうれしい点ですね。
RTAを見る側としては、ゲームに対する価値観の転換や、研究とプレイ精度によって追及された“効率の美”でしょうか。クリアにはおおよそ不要である「早さ」という指標をゲーム全体で貫くことで、通常のプレイから大きく価値観や考え方がねじれてゆくことはとても愉快だと思います。
そして、そこまでしてタイムを詰めようとする走者の気迫に満ちたプレイには、やはり興奮してしまいますね。
――ぼぶそんさんはどういったゲームを遊ばれますか? また、ご自身でもRTAはされますか?
ぼぶそん:普段はアクション要素が多めのゲームを好んで遊んでます。2D・3Dアクションをはじめ、レースやシューティング、音ゲーあたりが好きです。インディーゲームを追いかけるのも趣味なので、最近はアドベンチャーやパズルにも手を出すようになりました。
RTAについては、ここ数年でイベント運営や解説者側に回ることが増えたうえに、RTAの練習に集中すると流行のゲームを追いかける時間がなくなってしまうので、両者を天秤にかけた結果、辞めてしまいました。たまに戯れで10分くらいで済むタイトルを走ってみるくらいです。
――RTA解説の難しさと面白さ、それぞれお聞かせください。
ぼぶそん:私の場合は、本番でどれだけイレギュラーな事態を説明しきれるかという点が難しいですね。
解説請負という立場をとっているので、ほとんどの場合、解説をするゲームとカテゴリはほとんど知らず、走者の方ともはじめましてからスタートします。この状況からイベント本番までに、ゲームの知識・RTAのチャート・解説用の思考回路・走者への理解を深めていく訳です。
本番で、走者の横に解説者として座っても恥じない人間になることが目標です。この過程がめちゃくちゃ楽しいんですよね。もともとがゲームコレクターなので、ゲームの知らないジャンルや作品の世界を掘るのは大好きですし、さらにその知識を問う相手として、ゲームに精通した走者が目の前にいる環境ですから、やりがいしかありません。私の場合、イベント本番で話す内容を一字一句台本に記載しています。
ただ、どんなに頑張っても絶対に越えられない壁が2つあります。RTAの歴史把握と、走者との信頼関係です。走者が何人もいるゲームのRTAにはチャートや知識の歴史があり、大抵の走者はこれらを基礎知識として持っています。これらはイベント本番にミスやトラブルが発生した際のリカバリーとして活用されることが多く、解説請負で少し関わった程度の自分ではまったく太刀打ちできません。
また、走者とどれだけ打ち合わせをしたとしても、同じゲームでしのぎを削る他の走者に比べると、会話のテンポは劣ります。なので、本番でイレギュラーが発生した際にどれだけ自然につなげられるかという問題にいつも悩まされています。
なぜ走者はそのリカバリー方法をとったのか、いまの心境はどうなのか、さっきのミスは励ますべきか、冷静に流すべきか、今後のプレイにどう影響するのか。解説請負をやっていて一番難しく、かつ楽しい瞬間はここかもしれません。
――RTA解説をはじめたきっかけはなんでしょう?
ぼぶそん:所属しているゲームのRTAコミュニティにて日本一を決める大会が開かれたのですが、そこで私が実況担当になったことがきっかけです。
それまでに私ひとりでRTAイベントに出て走者兼解説をやったことは何回かあったのですが、他人のプレイを実況解説するとなると責任感が違うなと思ったんです。かなり大きなチャンネルで配信されるし、下手なことはできない。じゃあ、別口でRTAの解説者に挑戦してみよう……となったんです。
――12月25日からはに『RTA in Japan Winter 2024』が開催されますが、どういった点に注目して観るのがよいですか?
ぼぶそん:プレイの上手さはもちろんですが、会場の空気にも注目してほしいです。
最近のRTA in Japanはオフラインイベントであることを大切にしているようです。オンライン開催という選択肢もあるんですけどね。本イベントではオンライン参加の走者でも手元を配信の画面に映しているんですよ。
山場を越えた瞬間や、走り終わってタイムを確認する際のリアクション、それを観た観客席の様子など、会場のさまざまな空気はすべて、画面に映る走者のプレイが生み出しているんだと考えると、より深くイベントを味わえるのではないでしょうか。
――RTAに向いているタイトル、あまり向いていないタイトルは何が違うのでしょうか?
ぼぶそん:RTAを走っていて楽しいかどうか……は大きいと思います。タイムの詰め甲斐がないとか、そもそも通常プレイがつらいゲームやカテゴリは、競技人口が少なくなりがちです。
ただ、そういうゲームでも、誰かと並走して一発勝負をすると楽しかったりするので、やり方次第とも言えますね。
また、練習しやすいゲームかどうかも大事です。セーブデータが複数個作れたり、チャプターセレクト機能があるとか、そういうところです。
最近だとRTAを意識して専用のモードを用意しているゲームも多いです。ゲーム内にタイムアタック機能があるということですね。もちろん、リーダーボードに申請する時には記録動画が必要になるのですが、ひとまず楽しむだけならソフト一本で済むというのは気楽です。
――リーダーボードとはどういうものなんでしょうか?
ぼぶそん:RTAの記録を管理しているウェブサイトのことです。最大規模だと海外の有志サイトであるSpeedrun.comがそれにあたります。
Speedrun.com:https://www.speedrun.com/ja-JP
世界中からあらゆるタイトルとカテゴリの記録が申請・管理されているので、見ているだけでも面白いと思います。あらゆるRTAの記録動画が並んでいるのはもちろん、カテゴリごとの細かいルールや、大きいコミュニティなら走るための解説資料も置かれています。ちなみに、よく勘違いされるのですが、RTA in Japanは記録の管理とは関係ありません。
RTAを走りたくなったら、まずは配信や記録などとは関係なく、個人でタイマーを用意してゲームをプレイしてみてください。これだけで十分成立するし、RTAの醍醐味も味わえると思います。
そこからちゃんとやりたくなったら、走る際の環境設計や、リーダーボードへの申請方法などを記事にまとめてくださってる方がいるのでそちらを参考にしたり、speedrun.comの要項を読んでゲームやカテゴリのルールを確認したりしてみてください。細かいところは同じタイトルを走っている走者に聞いてみるのも良いです。走者の配信にお邪魔してコメントすれば、おそらく気さくに答えてくれると思いますよ。初心者が興味を持ってくれるのはうれしいことなので。
――これまでに解説していて印象深かったタイトルや出来事はなんでしょうか?
ぼぶそん:2022年12月に開催された、初代ロックマンシリーズの世界トップ走者12名によるリレーイベントですね。計12作品が発売順に披露され、私は『ロックマン&フォルテ』『ロックマン9 野望の復活!!』『ロックマン10 宇宙からの脅威!!』『ロックマン11 運命の歯車!!』で解説を担当しました。
「ロックマン」シリーズは「X」や「エグゼ」なども含めてほぼ全作品遊ぶくらい好きなシリーズなので、単純に関われたことがうれしかったです。解説請負は解説者がいなくて困ってる方に頼まれることが多いので、ロックマンみたいな有名で競技人口の多いタイトルの解説は一生できないと思っていたんですよ。
また、解説の面でも非常に勉強になりました。歴史の長いRTAなのでとにかく情報密度が濃く、台本作りと実況の技術がかなり成長しました。1作品30分ほどの中で、各作品が持つ個性とRTAの特性を説明しつつ、秒単位で繰り広げられるスーパープレイの説明もして本番ではイレギュラー対応もしないといけません。
私のRTA解説は「走者の思考を見ている人に伝える」をモットーにしているので、高速プレイに追いつけるよう基礎知識を伝えたうえで高速実況を楽しんでもらおうと考え、台本構成もしゃべりもかなり詰め込みました。
面白かったのは、4作品の台本をひとつずつ完成させていって、全部完成した後に最初の作品の台本を見直したら、内容がひどすぎると感じたことです。4作品分の台本を書く内に文章センスとRTAを紐解くセンスが上がってたんです。結局、ひどく感じた台本はいちから書き直したんですが、筆も早くなってたので、最初は1週間かかっていた台本も、書き直しは1日で終わりました。
また、他の解説者がどのようにロックマンを解説をするのかという点も勉強になりました。12作品あってもロックマンの型はほぼ一緒なので、そのなかで何を拾ってどう表現するのか、自分が解説で目指すものは何なのか、みたいなことを真剣に考えるきっかけにもなりました。
本番まで1月半で4作品の解説を仕上げるという厳しい納期のイベントで、主催者の方と話すといまだに頭を下げられるのですが、私としては感謝しかないイベントなので、こっちが頭を下げたいくらいです。本当にありがとうございました。
――RTA解説を通じてどんな出会いや学びがありましたか? また、ゲームを見る目が変わることはありましたか?
ぼぶそん:解説依頼をくださる走者の方と、走るタイトルについて深い話ができるのがうれしいですね。
解説依頼をくださる方は大半が初めてお会いする方なので、全然違う角度からゲームの濃い情報をいただけるのが楽しいです。そのおかげで、ゲームやジャンルを細かく分析して取り入れるスキルは間違いなく上がりましたし、遊べるジャンルの幅も確実に広くなりました。
――RTAに限らず、今後こういうことにチャレンジしてみたい、というのはありますか?
ぼぶそん:RTA解説を通しておしゃべりや発声の楽しさに気づいたので、声を使った別のことで表に立ってみたいですね。発声練習として、ストレートナレーション(※抑揚を入れずに情報だけを伝える発声法)や朗読を行うことはありますが、それだけなので。
あとは、きちんとゲームコレクターとして名乗れるように、知識を付けたり情報のアウトプットをしたりしたいですね。ありがたいことに、自分の周りにはゲームに詳しい方がたくさんいるので、彼らからいただいた分を誰かに返したいです。今年初めてzine(※個人出版の小冊子)を作りましたし、WEBに載せる文章ももっと書きたいと思っています。
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