ゲームクリエイターの創作ファイル:TGS出張版
ユーザーとの「呼吸」が支えた『勝利の女神:NIKKE』の躍進 開発キーマンが語る“意図された経験”の重要性
SHIFT UPが開発し、Level Infiniteが配信するスマートフォンゲーム『勝利の女神:NIKKE』(以下、『NIKKE』)が、2024年11月4日にリリース2周年を迎えようとしている。
今回は、9月26日~29日にかけて開催された『東京ゲームショウ2024』にて、会場を訪れていた『NIKKE』開発チームのキーマンたちにインタビューする機会を得られたので、そこでの模様をお届けしたい。
応じてくれたのは、SHIFT UPの代表を務めるキム・ヒョンテ氏と、『NIKKE』のディレクターを務めるユ・ヒョンソク氏。開発中の印象的なエピソードや、互いに対して思うこと、“ゲーム作り”や社長業において重要視していることなどを聞くことで、ふたりのゲームクリエイターとしての真髄へと迫っていく。
ユーザーと開発チームの二人三脚で歩んできた『NIKKE』の2年間
――『NIKKE』のリリースから今日にいたるまでの約2年間を振り返って、とくに印象深かった出来事を教えてください。
ユ・ヒョンソク:真っ先に思い浮かぶのは、1年目のハーフアニバーサリーイベント(0.5周年記念)として実装した「OVER ZONE」ですね。節目のイベントといえば、お祝いムードが漂う明るい雰囲気のコンテンツをリリースするのがよくあるパターンだと思いますが、「OVER ZONE」は非常にダークなストーリーを描くコンテンツでした。
社内では“このタイミングで「OVER ZONE」を実装すべきか?”と、何度も議論しました。しかし、結論としては「我々が得意とするものをお届けしよう」ということになり、ハーフアニバーサリーでのリリースに踏み切りました。
「そうした我々の姿勢を、ユーザーのみなさんにもどうか理解していただけますように」「この雰囲気を楽しんでくださいますように」と、祈るような気持ちもありましたが、結果として多くの方が「OVER ZONE」の見どころや、楽しめるポイントに気付いてくださっていたと思います。我々としても、素晴らしい経験になりました。
キム・ヒョンテ:『NIKKE』をリリースしてから現在にいたるまでは、まるでユーザーのみなさんといっしょに“呼吸”をしているような日々だったと感じています。
ユーザーのみなさんからは、ゲーム面についてさまざまなご意見を頂戴しましたし、キャラクターについてもたくさん語り合ってくださいました。そうしたご意見・ご要望を取り入れることはもちろん、皆さんのファンアートやコスプレや二次創作のアイデアをゲーム内に逆輸入させていただいたこともありました。
このように、ユーザーのみなさんと開発チームとがお互いに良い影響を及ぼし合いながら、二人三脚で『NIKKE』を作り上げていけたことは非常に意義深いことだと思いますし、強く印象に残っています。
“意図された経験”を積み重ねるからこそ、過去から学びを得られる
――『NIKKE』の開発を通して、おふたりの信頼関係も深まったことかと思いますが、お互いの尊敬している部分や、いまだからこそ話せるお互いへの要望などがあれば教えてください。
キム・ヒョンテ:私からユさんをはじめとする開発チームに対して、これ以上望むことはありません。本当に、「そこまでやってくれるの!?」と驚くくらいに、きめ細かく仕事をしてくれていると思います。
たとえば、開発の初期段階では武器のリロードモーションを省略する方針だったんです。それにもかかわらず、いまこうして『NIKKE』にリロードモーションが存在するのは、ひとえにスタッフたちの愛情のおかげなんですよね。このような事例はほかにも無数にありますので、開発チームの愛情の深さには毎度驚かされます。
ユ・ヒョンソク:SHIFT UPに入社した時点では、社長に対して特別なイメージは持っていなかったのですが、いまでは“私がゲームクリエイターとして最も尊敬する人物”になりました。
キム・ヒョンテ:ふだんは、そんなこと言ってくれないじゃないですか(笑)。
ユ・ヒョンソク:こういった機会じゃないと面と向かっては言えないですね(笑)。
ちなみに尊敬する理由は2点あって、ひとつ目は「素敵なゲームを作りたい!」という気持ちがものすごく強いことです。私がお会いしてきたどの開発者よりも、強い熱意を持っていると感じます。
そしてふたつ目は、素敵なゲームを作るためのセンスも非常に鋭いこと。これほど鋭い感覚の持ち主を私は知りません。ゆえに「彼のもとで仕事をするなかで見習うべきところは数多くあるだろうな」と感じましたし、実際、すでにたくさんのことを学ぶことができました。
――ゲームクリエイターとして、ユさんがゲーム制作においてとくに重要視しているポイントを教えてください。
ユ・ヒョンソク:大前提として、ゲーム作りに対する愛やゲームに対する愛情は重要だと思っています。そして、それに負けず劣らず重要だと思うのが、“意図された経験”を提供することです。
ゲームをリリースするということは、歴史を作り上げていく過程でもあると思います。そのゲームの歴史にも過去・現在・未来があるわけですが、“いきあたりばったり”を積み重ねた過去から良い学びを得ることはできません。“意図された経験”の積み重ねがあってこそ、過去から学んでより良い未来へとつなげていくことが可能になるのです。
仮にあるチャレンジが失敗に終わったとして、それが“意図してやったこと”であったならば、結果から逆算して「この意図のどこが間違っていたのだろう」と反省することができます。ゲームとして目指すべき正しい方向性に進むための糧になるわけですね。従って、“意図された経験”を提供し、失敗した過去から学ぶことは非常に重要だと考えています。
――闇雲にチャレンジするのではなく、“意図された経験”を積み上げるべきであると。
ユ・ヒョンソク:そうですね。「闇雲なチャレンジ」と似たようなお話で、たとえば何かを作りたいとなって「なぜ作るのか?」を考えたときに、「他者の手で作られた前例があり、それが好評だったから」というのは理由にはならないと思っています。
ゲームクリエイターが何かを作るときには、必ず相応の理由が必要です。理由がなければ、作ったそれが成功か失敗かの判断もできません。自分たちが作っているゲームがどういったものなのかを理解したうえで、しっかりと“意図された経験”としてのサービスを提供することが必要不可欠です。
“求められているもの”を常に見つめ直しながら3年目へ
――キムさんは社長業とゲーム開発の二刀流で活躍されていますが、SHIFT UPの立ち上げや維持・発展において苦労したことがあれば教えてください。
キム・ヒョンテ:もともと私はイラストレーターとして活動していましたが、ゲーム開発現場に関わるなかで徐々にゲーム開発者の知り合いが増えていきました。そのようなご縁が、SHIFT UPの設立を強力に後押ししてくれたことは間違いありません。
ただ、会社を経営するには開発チームのスタッフ以外にも、経理や人事や総務などのバックオフィスを担当するスタッフが必要となります。バックオフィスの分野について私は専門外なので、何が正しくて何が正しくないかの判断ができませんでした。
ですので、そういった判断ができる詳しい方と出会って、その方からの紹介でまた新たな方と出会い……と、たくさんの方とお会いするなかで知識と経験を蓄えること。そして、素晴らしい出会いと巡り合うための運も必要でした。そういった意味では、私はとても運が良かったと思っております。
おかげさまで、ゲーム開発に対して深い理解を持ち合わせながら、自ら望んでバックオフィス側のお仕事に進んだ方々といっしょにビジネスをスタートすることができて、彼らを通じて人脈を広げることもできました。結果、開発チームが開発だけに集中できるような環境を構築できたと思っております。
――ユさんは、『NIKKE』について「二次元ゲームのテーマパークのような作品」と形容されていましたが、“テーマパーク感”を醸成するうえでの工夫やこだわりについて教えてください。
ユ・ヒョンソク:その思いはいまも変わらずに持っていて、たとえば多種多様なミニゲームをリリースしていることであったり、多彩なテーマのイベントをお届けしていることであったりも、“テーマパーク感”を意識した部分です。
ただ、最近とくに気をつけていることが、“そのテーマパーク感はユーザーのみなさんが求めているものなのか?”というところなんです。「これまで通り多様性のあるコンテンツを提供していくべきか?」「もしかしたら統一性を保つべきなのではないのか?」と、そのときどきに応じてバランスをうまく取ることを重視するようになりました。
デベロッパーノートにおいても同じようなお話をたびたびさせてもらっているのですが、多彩なお楽しみ要素を盛り込みつつも、『NIKKE』の軸となるシューティングゲーム要素&シナリオとのバランスをしっかり取っていくことに、いまは注力しています。2周年に向けての、そしてその先の『NIKKE』の歩みにもぜひ期待していただけますと幸いです。
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