ァネイロ×melonade「一龠」タッグが語る、ボカロの特性を由来とする“ロジカルシンキングな楽曲創作論”
楽曲制作・ァネイロと映像制作・melonade、互いから見た互いの強みとは
——おふたりがタッグを組み始めた経緯についても訊かせてください。最初はどこで出会ったのでしょうか?
melonade:面識ができたのは去年の2~3月ぐらいだったと思います。
ァネイロ:最初はフロクロさんが立ちあげている、DTMクリエイターの交流・情報交換用Discordサーバーで知り合ったんです。もともと、そのサーバーのボイスチャットに僕がずっと入り浸っていて。楽曲制作の様子を画面配信したり、こんな曲作ろうとしてるけど映像どうしたらいいかわからない、みたいな悩みを発信したりしていて。
そうしたらmeloさんから「この前言っていた映像の件、もしかしたら協力できるかも」と連絡を頂いたんです。僕としては、そんなのもう“是非も是非”という気持ちで。むしろ、「言いましたね? 逃がしませんよ?」という勢いでお返事させてもらいました(笑)。その流れで映像をお願いして、そこからですね。一緒に制作するようになったのは。
——その後もたびたび共作しているのは、やはりお互いの作品に魅力を感じているからかと思いますが、お互いの魅力について教えてください。
ァネイロ:まず、meloさんの「プログラミングを映像制作に使う」という発想が、良い意味でヘンというか、斬新ですよね。プログラミングを使うことで、見た目もよくなるし、普通に取り掛かると1週間、下手すれば1ヶ月以上もかかるような映像が、2時間くらいで「出来ました」って出てくる。しかも、それがまたすごい映像が出てくるんですよ。これはやっぱり、プログラミングにしかない大きな魅力だと思っています。そして、meloさんの強みはやっぱり、良い映像を作る発想力や、それを実現する知識量かなと。「今回の作品はアレが使えそうじゃない?」みたいな発案・提案もそうですし、アイデアの引き出しがとにかく多いんです。
melonade:ありがとうございます(笑)。ただ、プログラミングで全部が全部効率化できるかというと、実はそうでない部分もあって、万能ではないんですよ。
たしかに、ァネイロさんがおっしゃったような1週間〜1ヶ月かかる作業が2時間で終わるというケースもありますが、プログラミングを使って普通の映像制作ソフト的な作業をしようとすると、非効率なこともあります。いわゆる競合を起こすというか。
たとえば曲の構成に合わせて映像の展開を組もうとすると、普通はAメロでこう動いて、サビでこう画角が切り替わって……みたいな形で作ると思うんです。ですが、自分の場合は“MV全体”を生成するスクリプトを組むので、全体を一度に出力できる代わりに、細かい部分の調整は難しいんですよね。
その影響が顕著に出る部分として、自分が作るMVは楽曲中で全体の画面構成が大きく変わらないという特徴があります。「一龠」はまだ変化がある方ですが、「アイサイト・ラブ」は2構成しかないですし。あれはプログラミング的な難しさが原因ですね。
——とはいえ、少ない構成で魅せるという意味では、創意工夫のし甲斐もありそうですが、その辺りはいかがでしょう。
melonade:最小構成で魅せる、いわばデザインの勝負、ですね。それもまた別種の難しさがあって、デザインをちゃんと考え始めるとまったく畑の異なる知識が必要ですし、プログラミングでもなかなかどうにもならない部分なんです。良いデザインの傾向や法則といったものはたしかに存在しますが、それでも人間の感覚に依存する部分が大きいですから。
この悩みの原因は、やはり自分の技量不足もあるので、そこは今後の改善点として頑張っていきたい部分ですね。
感情ではなく“理屈ベース”で音楽を作るロジカルシンキングな楽曲制作
——melonadeさんから見たァネイロさんの楽曲の魅力は何でしょう。
melonade:ァネイロさんの楽曲の良さは、ひとつは作詞にあると思っています。とくに、詞を感情ではなく“理屈ベース”で作る所に魅力を感じますね。その作業に関しては、自分もツールを作成して手伝ったりもしています。サウンド面だと、ァネイロさんといえばやっぱり「アゴゴ」の印象が強いかな。
——アゴゴ、ですか?
ァネイロ:僕が一貫して全曲に使ってる音に、「リリースカット・アゴゴ」と名付けているものがありまして。アゴゴという打楽器のリリースを切って、たくさんディストーションをかけたら、いい感じの自分好みの音になって、ずっと愛用しています。
なので、音楽面に関してはそのリリースカットアゴゴを生かすフレーズとか、音の隙間、音の鳴る瞬間と鳴らない瞬間を意識した作曲などが大きなこだわりになりますね。まだまだ精進しているところではありますが。
——先ほどmelonadeさんが仰った「理屈ベース」が、まさに今回のキーセンテンスですね。これまでの音楽制作って、特に作詞面は感覚や感情で行われてきた部分も大きいと思っていて。ですがおふたりはプログラミングや理屈ベースの作詞といった“理詰め”で曲を作っていて、そこが従来の手法に対してすごくユニークだな、と。その一致も相性の良さの一因なんでしょうね。
ァネイロ:そうですね。ルーツが近いのもあるし。
melonade:やりたいことが似てるんでしょうね。シンプルに言うと「変なものを作りたい」という目標が共通しているというか。変という言い方も少しふんわりしているか……独自性が近い表現ですね。そもそもプログラミングを使った映像制作は人口も少ないですし、ただそのおかげで面白いことができたり、新しいものが作れていると思っています。
記事を投稿しました。MVの技術的な解説が7割です
一龠/MV解説|melonade @melodynade #note https://t.co/YUbaHMs0Zj
— melonade (@melodynade) February 23, 2024
ァネイロ:僕の場合は「新しいことをやりたい」という気持ちが原動力かもしれないです。「いいものにはしたい」の気持ちももちろんあるのですが、人がやってないことをやりたい、という、いわば“逆張り”の精神は大きいですね。
——楽曲のみならず、イラストを使わない文字のみの映像表現を突き詰めた点も新規性・独自性だと思います。おふたりの中で、「言葉」自体への関心も共通の要素としてあるんでしょうか。
ァネイロ:言葉というか、僕はもともと作詞・作曲をする時に「何を軸に作るか」ということを一番最初に考えるんです。基本的には「ギミック」「コンセプト」「メッセージ性」の3軸から、それぞれのバランス感やどれを一番大事にして曲を作るか、ということを決めていく。それこそ、「一龠」は“詞の漢字を繋げる”ギミックを主軸にした曲です。
ただ、「一龠」に関してはもっと元を辿ると、音楽と映像の「総合芸術」を作りたいという思惑があって。それで、映像の力で漢字のビジュアル面を突出させつつ、コンセプトやメッセージ性も捨てずに形にする、という塩梅で作りました。
——ギミックに乗っ取って作った歌詞を視覚化する、が当初の主題だったと。
ァネイロ:はい。くわえて、「一龠」では詞の語感にもかなり重きを置いてます。最近のポップスや人気曲は、HIPHOPのように韻を踏む歌詞が結構多いと思うんですが、個人的には言葉って、要はたくさんの発音種類がある“楽器”のようなものだとも思っているので。
——歌詞のミーニングに焦点を当てるのでなく、言葉の発音・発話を音や楽器として捉えるんですね。その発想はなかなか興味深いです。
ァネイロ:これは、僕たちが向き合っているのが「VOCALOID」という機械だから、というのはあるかもしれません。人の歌って、歌声に乗せられる感情や表情の量がとんでもないので、だからこそメッセージ性や思いがより濃く光ると思うんです。ボカロは逆にそのステータスが少ない分、人の歌では出せない、「VOCALOID」ならではの面白味を見出せるのかなと。
——シーン全体を見ても、直近はそのような傾向の曲が支持を集めている風潮も感じます。昔のようにVOCALOIDをキャラとして見るのともまた少し違い、彼女たちを正しく“無機物”として創作ツールにするというか。
ァネイロ:フロクロさんもおそらくそうなのではないかと思っているのですが、こういった無機物系の曲への支持は、たしかに体感としてありますね。ただ、そうかと思えば「のだ」や「匿名M」みたいな曲がヒットすることもあって、やっぱりシーン全体で着々と盛り上がってる感じがしますね。
melonade:個人的には、キャラクター性のあるボカロ楽曲も大好きですし、リスナーだったころはむしろそういう楽曲を好んで聴いていました。意外と、自分がクリエイターとして好んで作るものと、リスナーとして好んで受け取るものは全然乖離があるんだなと。それはそれでいいと思っています。