大手メーカー作なのに異例の“パッケージなし” カプコン『祇:Path of the Goddess』がゲームシステムと流通で見せた革新性とは

『祇:Path of the Goddess』の革新性とは

 7月19日、『祇:Path of the Goddess』が発売となった。

 好調ぶりを見せるカプコンの完全新作は、どのような評価を獲得していくだろうか。概要から同タイトルのエポックメイキングな姿へと迫る。

和の世界を舞台にした穢れ払いの物語『祇:Path of the Goddess』

『祇(くにつがみ):Path of the Goddess』 Launch Trailer

 『祇:Path of the Goddess』は、独創的な和の世界観を特徴とするアクションゲームだ。舞台となるのは、穢れに覆われてしまった神住まう自然豊かな地「禍福山(かふくやま)」。プレイヤーは主人公の「宗(そう)」を操作し、穢れ払いの力を宿した巫女「世代(よしろ)」を導きながら、山の各地に存在する村々の平穏を取り戻すための旅へと出かける。

 特徴となっているのは、「昼」「夜」という2つのフェーズを繰り返していくシステム。昼にはともに戦う村人たちの布陣を整え、夜にはそのようにして準備した布陣と自身のアクション操作によって、襲い来る敵「畏哭(いこく)」から巫女を護ることを目指す。公式の謳うゲームジャンルは「神楽戦略活劇」。その名からもわかるとおり、同タイトルは日本に古来から伝わる神事をベースにした世界観を無二の個性としている。

 対応プラットフォームは、PlayStation 5、PlayStation 4、Xbox Series X|S、Xbox One、PC(Windows/Steam)で、価格は税込4,990円(※)。Xboxプラットフォームにおいては、サブスクリプションサービスのGame Passにも対応している。

※パッケージ版は販売されておらず、ダウンロード版のみの展開

ビジュアルと世界観、システムに集まる高評価

『祇(くにつがみ):Path of the Goddess』 1st Trailer

 「バイオハザード」シリーズや「モンスターハンター」シリーズ、『ストリートファイター6』などが高評価を獲得していることにより、ゲームコンテンツの送り手としてこれまで以上に盤石の地位を築きつつある開発・発売元のカプコン。そのような背景もあり、『祇:Path of the Goddess』はその存在が明らかとなったときから、界隈の大きな注目を集めてきた。コアなゲームフリークのなかには、同タイトルが持つビジュアルや世界観を、おなじく同社から発売され、アクションアドベンチャージャンルの金字塔に数えられることも多い人気作『大神』のそれに重ね合わせていた人も少なくなかったのではないか。これらの要素は特にわかりやすい『祇:Path of the Goddess』の特徴、魅力とされている面がある。

 一方のシステムでは「アクション×タワーディフェンス」という珍しい取り合わせにもチャレンジしている。タワーディフェンスとは、ストラテジーに分類されるサブジャンルのひとつ。プレイヤーは味方ユニットなどを防衛エリアへと配備することで、自陣に侵攻してくる敵の迎撃を目指す。思考力を駆使しながら、じっくりと腰を据えてプレイすることが求められる分野で、どちらかと言えば、スピード感を特徴とするアクションとは対極とされやすい。そのようなシステムに支えられたゲーム性が『祇:Path of the Goddess』の最大の個性だろう。

 その反面で、相反するとも言えるジャンルの要素を組み合わせたシステムには、ゲームとしてのまとまりを欠くのではないかという懸念もあったように思う。取って付けたような仕上がりでは、目の肥えたコアゲーマーたちの評価を獲得するのは難しく、「凡作」さらには「駄作」といった不名誉な称号を与えられかねない、ある意味で“両刃の剣”のゲームデザインであった。

 しかしながら、同タイトルは現時点で当初の注目に恥じない評価を得ている。海外の主要なレビューサイトでは、軒並み80点以上という高得点を獲得。各プラットフォームの商品ページに寄せられたユーザーレビューでも、称賛が相次いでいる状況だ。彼らの声は概ね、上述の「ビジュアル」や「世界観」「システム」の良さへと着地する。そうした意見を踏まえるかぎり、カプコンの挑戦は成功だったと考えられるのではないか。『祇:Path of the Goddess』は良い意味でオールドスクールなインプレッションをプレイヤーにもたらすが、ことシステム面で見せた新たなアプローチはエポックメイキングであるとも言える。ゲームカルチャーという面から見ても、同タイトルは昨今のゲームづくりに一石を投じていたように感じた。

異例のパッケージ販売なし。ダウンロード専売は今後のスタンダードとなるか

 『祇:Path of the Goddess』について、特筆すべき事柄はほかにもある。それは同タイトルが大手ゲーム会社が送り出す注目作でありながら、ダウンロード版のみの展開となっている点だ。かつてのゲーム業界では、ソフトの販売と言えばパッケージ版が主流だったが、ここ10年ほどで状況は一変。今日ではパッケージ販売以上にダウンロード販売が消費者に受け入れられている実態がある。

 PlayStationプラットフォームを展開するソニー・インタラクティブエンタテインメントでは、2017年3月期に27%だったダウンロード販売のシェアが、それから6年後の2023年3月期には67%まで拡大した。Nintendo Switchを展開する任天堂も同様で、2018年3月期に20%弱だったシェアが2023年3月期には50%弱まで伸びている。そうした動向にともない、カプコンを含む大手ゲーム関連企業の売上高における営業利益率も、ほぼ右肩上がりで伸長してきた。つまり、プラットフォーマーやメーカーにとっては、パッケージ版よりもダウンロード版のほうが、同じ販売本数であっても実りが多いというわけだ。ここには、販売店へのインセンティブが不要であったり、ユーザーの遊び終えたソフトが中古市場に出まわらず、販売機会を損失しにくかったりといったさまざまな事情がある。『祇:Path of the Goddess』のパッケージ版が展開されていないのも、こうした市場の状況を鑑みてのことなのだろう。

 少なくともこれまでは、こと大手ゲーム会社が送り出す注目作では、パッケージ版とダウンロード版の両方が展開されるのが一般的だった。しかしながら今後は『祇:Path of the Goddess』のように、ダウンロード専売でソフトを展開していくケースが増えていくのかもしれない。その意味においても、(エポックメイキングとするにはやや大げさだが)同タイトルの発売は市場にとってひとつのターニングポイントのようなものとなっていく可能性がある。

 ゲーム市場、ゲーム文化に対する提起的な要素を内包する『祇:Path of the Goddess』。やや荒削りであると指摘がある項目についても、今後のアップデート次第では、長所として生まれ変わっていく可能性がある。同タイトルは支持を拡大し、新たな人気シリーズとなれるか。ここにまたひとつ、カプコンの快進撃を象徴するタイトルが生まれた。

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