先天性の障がいに絶望も、VRに救われ“世界の舞台”へーーVRパフォーマー・yoikamiが目指す「アカデミー賞のその先」(前編)

VRダンサー・yoikamiインタビュー(前編)

VRでのリハビリが“異常”なまでの回復につながる

――そんな中、ダンスの一歩を踏み出すにあたって、現実のダンススクールではなくVRでの練習を始めたのはなぜですか?

yoikami:最初は現実で練習したかったんですが、車椅子で、左半身麻痺があり、しかも声も出ない状態でしたので、ダンススクールの受け入れ体制的にも難しかったんです。なので最初はYouTubeでダンス動画を見ていたんですが、ある日VRでダンスをやっている海外の方と偶然お会いし、ダンスを教えてもらえることになって。その方が偶然にも、「International Dancers Association(※)」に所属しているダンサーだったのは幸運でした。

(※International Dancers Association(IDA):『VRChat』内外のダンサーが参加する、世界的なVRダンスコミュニティ)

――その時期のお話はプライベートでお聞きしたことがあります。麻痺がある左手に、包帯でコントローラーをぐるぐる巻きにして固定し、その上でダンスをされていたとか。

yoikami:当時、左手の握力は空っぽの紙コップを保持するのがやっとでしたからね。包帯でコントローラーを固定し、親指だけは操作のために動かせるようにして……という状態でした。左腕は上がらないし、左足も置くだけ。右足で立って、右手一本で踊っていましたね。

――そんな状況から、いまやyoikamiさんは全身を見事に動かしていらっしゃいます。VRでのダンスがリハビリに良い影響を与えたのでしょうか。ご自身ではどう感じていますか?

yoikami:とてつもない、と思いました。「好きこそものの上手なれ」とはよく言ったものだと思いますね。病院でのリハビリは、「できて当たり前のこと」をこなすものなんですよね。自分の場合、片足が動かなくても、動かない足をつっかえ棒にして動かせば100mは動くだろうと見込んでいたんです。

 身体麻痺というと、力が入らなくなって動かなくなるというイメージをもたれがちですが、実際には筋肉のコントロールが効かない状態もあって、「力が入りすぎてしまう」「意に反して逆に動く」みたいなことも多く、やはり困難でした。

 いかに人間が完成された体で動いているのかを痛感しつつ、「もうこの距離も歩けないんだな。もう自分はダメだ」と、既存のリハビリでは無力感に苛まれてしまったんですよね。また、歩行訓練以外には「ドミノを立てる」というようなものもあったんですが、これは純粋に面白さにかけていました。

 対して、『VRChat』でダンスを学んでいたころは、ダンスの練習はもちろん、海外の方とも交流していましたから、ボディランゲージを使って意思疎通をしようと、どうにか身体を動かそうとしていました。あまり動きはしないんですが、「動かした結果」が誰かとのコミュニケーションにつながるので、達成感があったんですよ。まったくの無力じゃなく、「まだまだ動かないけど、今日はちょっと動いたな」って。

 VRの友人たちも、そんな自分をよく見ていて、麻痺がある左手で何気なく拍手を2〜3回できただけでも「yoikami! きょうは今日は左手がすごく動いてるね!」ってほめてくれました。両腕を上げる動きをこなせた時には、感動して抱きしめてくれましたね。言葉がわからなくても、たくさんの激励をくれていることが伝わるので、無力感は皆無でした。そんな彼らからエナジーを受け取っていって、やりたいことがどんどん増えていったんです。

 それに、『VRChat』って普通の人ですら「どうやって操作するんだ?」と思うくらい、未知の場所じゃないですか。だから、「この場所でなにかできないこと」に、無力感を感じにくかったんですよね。マイナスが少なくて、すごくポジティブになれるリハビリ空間がそこにはあったんだな、と振り返って思ってます。

――大きな視点の転換ですね。「当たり前のこと」をできるようにするのではなく、「まだ誰もできないこと」をできるようにする、と捉えることで、リハビリに対して積極的になれると。マイナスからではなく、ゼロからスタートできる場所なんですね。

yoikami:おかげさまで、VRを始めてから半年ほどで、リハビリの成果が出てきました。もともと「左手では物を持つことも難しくなるだろう」と伝えられていたのに、ペットボトルを持つことも、文字を書くこともできるようになったんです。

 お医者様からとても驚かれた……どころか「医学的におかしい」とすら言われました(笑)。5年くらい毎日リハビリをがんばればできるかもしれないことを、こんな短期間で成し得るのは異常事態、だと。「演劇における思い込みの力を使っているのでは」と、一度精神科で精神鑑定を受けさせられたほどですから(笑)。前例がないだけで、VRにはそのぐらいの可能性があるのだなと、自分では思っています。

 

――実際どのような効果があるのか、医学的な研究に発展していってほしいですね。

yoikami:つながっていってほしいですし、自分からも発信していきたいですね。

 やはり、健常者からなにを言っても、障がい者には届きにくいところがあると痛感しています。「少しでもがんばったらどう?」と健常者の方に言われても、その「少し」が自分にとっては大変なんだと、塞ぎ込んでしまう。リハビリも嫌になってしまいます。でも、障がい者同士ならば、当事者なので通じるところがあるんです。私自身が、「イル・アビリティーズ」に元気づけられたように。

 今後も、自分は障がいがあることを隠すことなく活動することで、障がいがある方や、塞ぎこんでいる方、将来に不安を抱えている方を勇気づけていきたいなと考えています。

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