好調のテレ朝公式YouTube、原点は『お願い!ランキング』 “テレビとYouTubeの現在”をプロデューサーに聞く

テレ朝『動はじ』の裏側

 新型コロナウイルスの影響で多くの芸能人がYouTubeデビューを果たした2020年。タレントのインターネットへの露出が増えたことにより、メディアのYouTube進出も加速し、テレビ局自体がYouTubeチャンネルを持つことはもはや当たり前となった。連載企画「テレビとYouTubeの現在地」では両メディアに関わりを持つ有識者に、テレビとYouTubeは今後どんな関係性を築いていくのかをインタビューし未来を予測していく。

 テレビ朝日が運営する『動画、はじめてみました』を率いるのは『お願い!ランキング』の立ち上げに携わり、現在もプロデューサーを務めるテレビ朝日の船引貴史氏。1996年に入社し、長らくテレビ番組の制作畑を歩んできた船引氏は、2020年7月から動画制作部の企画戦略担当部長も務める。

 動画制作部は、テレビ朝日としてネット動画制作に力を入れようとする中、様々なチャレンジをしていた『お願い!ランキング』チームの船引氏を中心に新しく組織され、その取り組みからスタートした部署だ。船引氏は現在もテレビ番組の制作に携わりながら、テレビ朝日の公式YouTubeチャンネル『動画、はじめてみました』のコンテンツ制作および運営を指揮している。

 テレビ番組制作とYouTube動画制作、二足の草鞋を履く船引氏が、兼務しているからこそ見出してきたものとは。『動画、はじめてみました』のこれまでの歩みから、テレビ局が運営するYouTubeチャンネルが押さえるべきポイントなどを聞いた。(鈴木梢)

テレ朝公式YouTubeは、『お願い!ランキング』のいちコーナーから始まった

―― まずは船引さんの経歴から伺えればと思います。

船引貴史(以下、船引):1996年にテレビ朝日へ入社し、4年間編成局編成部に所属しました。それ以降はずっと制作の部署で、担当していたのは、『パパパパパフィー』や『ミュージックステーション』、あとは『堂本剛の正直しんどい』や『裸の少年』といったジャニーズさんの番組が多かったです。2009年に『お願い!ランキング』に立ち上げから携わり、現在はプロデューサーをしています。基本的にはずっと制作畑の人間ですね。

―― 『お願い!ランキング』に最初から携わられていたんですね。

船引:実はテレビ朝日の公式YouTubeチャンネル『動画、はじめてみました』も、『お願い!ランキング』のいち企画として立ち上げたものでして。2019年の年末くらいの『お願い!動画アカデミー』という企画で、「テレビマンはバズるネット動画を作れるか」をテーマにネット動画のプロが厳しく審査するものがあり、そのなかでYouTube動画を制作していたのが発端でした。今でこそあらゆる公式動画コンテンツを配信するポータルのようになっていますが、成り立ちや経緯はちょっと特殊かもしれません。

―― それから現在は専門部署が立ち上げられたと。

船引:2020年7月頃、テレビ朝日でネット動画に力を入れていく動きの中で、動画制作部という新たな部署ができました。僕はテレビ番組を制作しながら、動画制作部の企画戦略担当部長としてオリジナルコンテンツを開発しています。それ以外に他の番組に協力してもらい、ネット限定コンテンツや、収録の切り出し動画など、様々なコンテンツを配信している状況です。

―― 『動画、はじめてみました』の開始当初は、どんな企画があったのでしょうか。

船引:ディレクターが夜のお仕事をするキャストさんの出勤前に出待ちして、土下座して「すっぴん見せてくれませんか」と打診するような企画だったり、女子プロレスラーさんに技をかけていただいたり……(笑)。ディレクターたちの瞬発的なアイデアや創意工夫で企画をやっていました。それからアナウンサーたちが自由に伸び伸びやりたいことを動画にしていこうと、色々企画していく中で、最初に大きな反響があったのが田中萌アナのダンス動画です。初めて100万再生を超える動画になりました。

【不協和音/欅坂46】テレ朝 田中萌アナが本気でフル尺踊ってみた【女子アナダンス部①】

―― アナウンサーの方々がYouTubeならではの企画に挑戦する動画は、2019年時点ではまだ新しかったのではないでしょうか。

船引:そうですね。アナウンサー自身も、聞いてみるとやりたいことがけっこうあることがわかりまして。それこそ田中萌アナなら「ダンスをしたい」とか、三谷紬アナであれば「ダイエットに興味がある」と、普段地上波でできないことを楽しくやっていこうと思い、お試しのつもりでアナウンサーに協力してもらって始めたところ、予想以上に反響がありました。

―― それ以降は現在のように様々なコンテンツを出されるようになったんですね。

船引:たとえば『激レアさんを連れてきた。』では、毎週オードリー若林正恭さんと弘中綾香アナとのオフトークを出してもらうなど、今は本当にいろんな番組に協力してもらっています。中田花奈さんの麻雀企画のような我々チームが独自に制作している動画もあり、現状大きく10種類くらいに分けられます。

【激レアさんを連れてきた。】「若林&弘中アナの超のびのびトークpart3」/2020.5.9放送

「個」と「技」の掛け合わせを意識

―― 『動画、はじめてみました』で公開されている動画を拝見していると、テレビ番組の良さとYouTube動画の特長をちょうどいい塩梅で掛け合わせた企画が多いような印象を持ちました。何か必ず押さえるようにしているポイントなどはあるのでしょうか?


船引:「YouTubeらしい見せ方」みたいなところはまだまだ素人なのですが、オリジナルコンテンツについては、「個」と「技」の掛け合わせを意識しています。どなたと一緒にコラボして、その方の持ち味をどう活かすか。そこをすごく意識しています。

 一方で番組コラボの動画はまた違って、よく観ていただいている『激レアさんを連れてきた。』のオードリー若林さんと弘中アナとのトークですと「収録前のアイドリングトークが、実はすごく面白いよね」というスタッフの着想から作られました。いちから新しいものを作るというより、すでにある中から「実はこれ、面白いのでは?」と思ったものを配信する形ですね。裏側やオフなものを変に手を加えずそのまま出すというのは、YouTubeと親和性があるのかなと。

―― 動画サムネイルが非常にYouTubeらしいことにも驚きました。

船引:会議のときに、YouTubeに詳しい方もお呼びして、アドバイスをいただいています。もともとネットに関しては僕ら素人なので、「サムネの作り方がなってない」みたいなことを言っていただいて。「サムネイルは動画の8割を決める」とすら言われているので、日々改良しています。

―― 動画を制作される際に、何か既存コンテンツで参考にされているものはありますか?

船引:ルーティン的に日々いろんな動画を観ていますね。トレンドは日々変わっていくので。パパラビーズや川口春奈さん、仲里依紗さんのチャンネル、あとは僕は音楽畑で育った人間なので、名古屋ギター女子部やハラミちゃんなども観ています。そういった動画の中から、たとえば「最近はひとりで何かやっているところに後から自分でナレーションを入れるのがトレンドなのかな」など、エッセンスを探っていますね。

―― YouTube以外のプラットフォームをご覧になることはありますか?

船引:『今夜、誕生!音楽チャンプ』という番組をやっていたとき、全国の歌がうまい人を探しているなかで、TwitterやTikTokにアップされている「歌ってみた動画」は、本当に目を皿のようにして観まくっていました(笑)。2020年4月の特番で優勝した上田桃夏さんには、スタジオでフル歌唱していただいたのですが、テレビでは編集されてどうしても短くなってしまうため、フル歌唱バージョンを『動画、はじめてみました』にアップしたところ、非常に多くの方に観ていただきました。テレビとネットを行き来する中で、日々そういった発見がありますね。 

―― たしかに、両方の制作をされているからこその発見ですね。

船引:先ほど「個」と「技」というお話をしましたが、やはり感情移入ができて質の高いものはYouTubeに適しているので、「良質なものをアーカイブ化する」という発想がYouTubeなのかなと。地上波のテレビだけやっていても思いつかなかったので、新たな発見でした。『林修の今でしょ!講座』という番組でエクササイズ本特集を組んだときも、エクササイズのやり方の部分だけ切り出して放送後にアップしたところ、かなり多くの方に観ていただきました。情報価値が高いものは動画として切り出してアーカイブ化することに非常に価値があり、視聴者サービスにもつながるのだと実感しています。

―― たとえば「テレビのいいところを切り出してネットにあげてしまうと、視聴率が下がる」などの懸念をされるスタッフもいるんじゃないかと思うのですが。

船引:テレビで見るのとネットで見るのとでは見方がそもそも違うので、あまりそういったことは考えていません。コアなファンがいるような趣味特化型のコンテンツはYouTubeで、広い層に観ていただけるファミリーターゲットのものはテレビ、といったように、ウチの部署自体がネットとテレビどちらも柔軟に動ける部署ですし、発想の自由度が比較的高い環境にいるのかなとは思っています。

―― テレビの番組を制作しながらYouTubeの動画も制作する、両輪プロデュースしているからこその強みもあると感じました。

船引:一番組のスタッフが総合チャンネルを運営することって、他ではあまりないと思います。制作チームが運営しているからこそ、単に番宣のみの動画はボツにしますし、面白いものは伸ばしていきます。『お願い!ランキング』という番組の原点が、『ちょい足しクッキング』や『美食アカデミー』など、「アイデア1本で面白いものを作る」というものだったので、そういった工夫には慣れているところがあります。

 いろんな動画をどのタイミングでどうアップするか等、チャンネルのレイアウトも含めて自分たちでコントロールできることは、たしかに強みなのかもしれません。

 一方、YouTuberの方々ってすごく努力されてひとつのチャンネルを作りあげられているじゃないですか。それと同様に番組単体でそれぞれチャンネルを持つ考え方もありますが、チャンネル運営は本当に大変なので、我々はいろんな番組に協力を仰ぎながら、強いコンテンツを取捨選択できている強みがあると思います。

―― 余談なのですが、『家事ヤロウ!!!』のInstagram(https://www.instagram.com/kajiyarou/?hl=ja)で、番組内で紹介された簡単料理のレシピを公開されているのを見るのが好きです。YouTubeで料理動画を公開する、という案はないのでしょうか?

船引:料理動画はやったことがあるのですが、あまり伸びなかったんです。料理動画は、料理をしながら動画を止めたり戻したりするのがけっこう面倒で、意外と静止画のほうが利便性が高いのかもしれないなと思いました。まだまだ研究が必要だなと思っています。

―― 伸びにくい動画のお話を伺いましたが、逆に「これは伸びる」とある程度予測できるものはあるんですか?

船引:先ほど歌唱動画の話をしましたが、やっぱり歌ものは強いですね。去年のステイホームの時期に『音楽チャンプ』の全国のプロを目指す高校生たちでKANさんの「愛は勝つ」をリモートで歌ったんですが、その動画の再生数がすごくて、歌が持つ力をあらためて実感させられました。

 まとめると、「質が高いもの」「情報価値の高いもの」がYouTubeに適していると思います。テレビだと一過性になってしまいがちなものを、YouTubeに置くことでちゃんとアーカイブとして観てもらうことが重要だと考えています。

―― 番組からの切り出し動画では、トーク以外にどんなものが観られていますか?

船引:声優さんのスゴ技動画ですね。『お願い!ランキング』では長く声優さんとお付き合いさせていただいているのですが、その関係性もあって、テレビとYouTube両方でコンテンツを展開させてもらっていて。声優さんはおひとりで何役も演じられるじゃないですか。それを一気に披露していただくという「技」をおひとり10分くらいの動画にして公開したところ大好評で、再生数ランキングベスト3にずっと入っています。1位は約350万回再生で松岡禎丞さん、2位が山寺宏一さん、3位が関智一さんだったと思います。

【松岡禎丞】瞬時に演じ分け!伊之助・キリト・御手洗翔太・ペテルギウス・空・創真

―― 近頃は音声配信サービスもトレンドで、音声コンテンツも注目されていますね。

船引:ずっと映像の仕事をしているので、音声だけという見方をあまりしたことがなかったのですが、日本テレビさんが『有吉の壁』で移動中のロケバス車内を配信されているじゃないですか。ああいったものは画を観なくても成立するところがあるので、新しい使い方だなと思いました。逆に画メインの作業中動画などもあったり、どちらにしてもYouTubeは、テレビとは違った発想で活用できるメディアなんだなと思います。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる