2024年は「AI PC」「AIを活用するPC」で生産性向上がテーマとなる時代に
2024年、PC業界はどこへ向かうのだろうか。アメリカのネバダ州で行われた電子業界向けの見本市であるCES(Consumer Electronics Show)の現地視察をおこなったばかりのITジャーナリスト・笠原一輝氏に動向を伺ってみた。
ーーまずは『CES 2024』で最新のPC動向もご覧になった感想を教えてください。
笠原:PCに関しては前年よりも話題が多かった、というのが正直な感想ですね。今年はインテルもAMDも「AI PC」が話題の中心で、AIをどのようにPCにインプリメントしていくかという話が多かったです。ただ、「AI PC」ってすごく難しくて明確な定義はないのです。一応業界としては、クラウドでおこなわれているAIの処理をデバイス上で実行可能にするのが「AI PC」だと位置づけしていますが。
ーー昨年末くらいから話題になりつつある「AI PC」ですが、具体的なメリットとはなんでしょうか?
笠原:大きく2つあり、 ひとつはレイテンシー(遅延)問題の対処、それからもうひとつはセキュリティ面の対処ですね。まず前者に関してですが、例えば現在のAIアプリなどでは、質問を投げると応答までに時間がかかりますよね。それはネットに繋いで応答を持つクラウド型の弱点というか宿命でもあるのですが、「AI PC」(ローカル側)でAIを演算する場合、遅延はほぼなくなるんです。
後者のセキュリティ面に関しては前者の話にも連動してますが、社外秘のデータなどをクラウドで演算させるのは危険であるというクラウドAI禁止の会社は結構多いです。AIが有用でもクラウドってだけで使えない場合もあったのですが、それをローカルで処理することにより、セキュリティ面の不安も回避できるというわけです。
ーーなるほど。その「AI PC」で気になったメーカーや製品はありましたか?
笠原:基本的に、マイクロソフトのWindowsが動く高性能PCという意味ではどれも一緒なので、性能的に特定メーカーだけがすごく飛び抜けてているという感じではないです。ただ、半導体に関してはIntelが昨年末に投入した第14世代のCPUである「インテル® Core™ Ultra」の影響力が大きく、「AI PC」は勿論、デザインなどにも反映されているなと感じました。
今年は他の半導体メーカーも今後、新型を投入するかと思いますので、今年は「AI PC」はますます盛り上がるジャンルになるのではないでしょうか。
ーーありがとうございます。「AI PC」だけでなく、少し範囲を広げて「PC」で「AI」を活用するという部分でもトピックはありますか?
笠原:そのあたりに関しては、MicrosoftがCES直前に「Copilotキー」のローンチを発表したのが印象的でした。このキーは簡単に言うと現在はWindowsキーが左のAltキーの隣にありますが、今度はそれと対をなすように右のAltキー側に「Copilotキー」を付けるということです。そのキーを押すと「Copilot」が起動する。シンプルに言うとそれだけの話なのですが、将来的にマイクロソフトが考えているのは、そのCopilot in Windowsを起動して、そこから文章を書き始めたり、あるいは画像を描き始めたりするっていう、今でいうところのスタートメニューみたいに近い形で仕事や創作活動に役立てるという感じですね。
ワークスタイルが変わっていく可能性を秘めているので、PC関連だとかなり大きいトピックスだなと思います。
ちなみに既に搭載されている『Copilot for Microsoft 365』という法人版(Microsoft 365に生成AIの機能を追加したもの)では、例えば統計データを基にパワーポイント資料を作ってくれるくらいのポテンシャルがあるのですが、そのコンシューマー版・Copilot Proも発表になりました。コンシューマーユーザーも生成AIの機能をオフィスアプリケーションの中で使えるようになるので、PCの使い方がどんどん変わっていく予感がしますね。今までだったら生成AIみたいな機能は一般ユーザーには縁遠かったのですが、オフィスアプリケーションに付与することで一気に距離が縮まり、それによって生産性も大きく向上していくかと。
例えば、僕のワークフローを例に挙げると、海外取材などで自動文字起こしソフトを使ってメモを取っているんですが、昔みたいにいちいちテープから文字起こしをしなくなった。この文字起こしをやると30分位の内容で下手すると数時間かかることもありましたが、今はAIが一気にやってくれる。ワードの翻訳機能を使うと英語の文章をそのワードに読み込んできてワードで 日本語に変換するってことができるので、個人的にはもうAIなくして仕事が成り立ちません。
ーーAI活用でPCでの作業も大きく変わりますね。
笠原:僕がAIを活用していて感じることは、「今後、もっとクリエイティブに対して生きていかないと、仕事を奪われる可能性が出てくる」ということです。人間はもっとクリエイティブにならないとAIと戦っていけないし、お金ももらえなくなる。そんな時代がもう目の前に来てると思いますね。その為にも寧ろ、積極的にAIと関わっていかないとならない。
ーー各メーカーは今後、「PC」 と「AI」の関連性の中で、どのような独自色を出していく事になりますか?
笠原:それは良い質問ですね。今、PCメーカーが考えているのは AIのキラーアプリケーションとしてMicrosoftの「Copilot」を据えているのは間違いないのですが、その他にPCメーカーが自分で工夫したアプリケーションを実装しようとしてるってのが最近のフェーズですね 。
例えばレノボは独自チップをコンシューマー向けのPCに載せることを発表してますが、これはPCの熱効率を独自にAIが管理してくれて、ファンの回転数やCPUの負荷などを調整してくれるというもの。これまで、僕みたいなパワーユーザーがメモリを開放しようと、バッテリー駆動時間を伸ばすために特定のアプリケーションを落とそうとか、マニュアルでやっていたのが、AIが全自動でやってくれる時代にもなってきた。
ーーなるほど、各社独自の工夫も既に始まりつつあるとのことで注目したい所です。少しテクノロジー面から離れて、デザイン面など外形的な部分で2024年のPCで、気になることはありますか。
笠原:CESベースで語ると、今回もノートブックがますますデザインコンシャスになってきたなと。Dellの「XPS」シリーズが13/14/16って3サイズでお洒落なデザインで発表されてましたね。あと面白かったのは16型でもかなり軽量なLGの『Gram』など、ノートブックはどんどん軽くてかっこいいという方向に行ってる気がします。
ASUSは独自のデザイン設計だったり、ユニークな製品を数多く発表してて個人的にはイノベーションリーダーという感じになってるなと。これまでASUSはそういうメーカーではなかったというのが個人的な感想ですが、一昨年ぐらいから一気に変わってきたように感じます。
後はHPが持ち運びできるデスクトップや一台で何役にも使えるフォルタブルPCを出したりしてて、非常に完成度が高いですよね。冒頭でもお話しましたが、半導体メーカーの活発的な動きがあって、それを受けて各メーカーが2024年はデザインを含めて大幅に刷新しているように見えます。
ーーちなみに日本のメーカーはいかがでしたか?
笠原:CESは主にグローバル発表会なので、日本のメーカーで出展していたメーカーは少なかったですが、これからの春モデルや秋モデルでコアウルトラを採用した「AI PC」が徐々に出てくるかと。
ーーこれからの春商戦、国内外メーカーの最新アイテムが出揃ってくるということですね。新社会人、新入生など中心にユーザーへのアドバイスなどはありますか?
笠原:性能やデザインだけでなく価格面もあるかと思いますので、その辺も踏まえて考えますと、新社会人なら思い切って「AI PC」で仕事のスタートダッシュを切るのもありでしょう。もちろん学生さんにもオススメですが、値段的に厳しいという場合もあるかと存じます。その際は「AI活用もできるPC」として、メモリが16GBのものを買ってほしいです。正直、8GBのものを買うなら、2万円ほど足して16GBの製品を買った方が幸せになれます(笑)。
ーー笠原さんの総論として、2024年のPC業界動向はどのようになると思いますか?
笠原:やっぱり基本的には「AI PC」(「PCでAIを活用する」)で、ユーザーの生産性が上がる年になると思いますね。今年は今までAIに関係ない、自分では活用できないと思っていた人もぜひAIを使ってもらって、とても有用で便利であると感じてもらいたいです。
「AI PC」などを活用すれば、これまでPCでやっていた同じ作業でも確実に効率的になる。その時間は休憩に当ててもいいわけですし、延長線上には我々の働き方も変わる世界も見えてくる。どのようにAIを使いこなすかが重要となり、その可能性を最大限に引き出してくれるPCに注目する動きが、益々加速するでしょう。
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