メタバースで人はプリミティブになる? バーチャル美少女ねむ×本郷 峻が霊長類の性行動から考える“人類の未来”

バーチャル美少女ねむ×本郷 峻対談(後編)

メタバースの未来の姿を、霊長類たちに見る

ねむ:将来、メタバースがどういう社会になるか考えたら、霊長類の「ボノボ」の社会にたどり着くのではないかと考えました。「ボノボ」は相手の性別を気にせず性行動をしたり、争いや格差が少ない社会を作る、と文献に書いてあったので、私たちも「ボノボ」のように将来メタバースの人みんなで平和な社会を作っていけるかも、と思いました。「ボノボ」の社会って、実際はどうなんですか?

本郷:たしかに、ボノボの社会は平和的です。群れ同士の争いもないし、メス同士での性行動もみられますが、実はよく言われるような平和的な面ばかりではありません。たとえば、オスとメスでは明らかにメスの方が優位なんです。明確に性別の差があるからこそ、性行動が群れ内でのコミュニケーションになっている面もあります。

 ほかにも、立場の弱いメスと強いメスのコミュニケーションとして性行動を使うとか、ぎくしゃくして緊張した関係を緩和するために性行動をするとか。一見平和的でも、その裏には性別の差や序列が明確にあって、性行動を戦略的に使っているんです。

 ねむさんの考えるメタバースの将来とボノボの社会には、共通している点もあると思います。ただ、丸ごとモデルにできるかと言われたら、少しずれている気もしますね。

ねむ:なるほど……。

本郷:むしろねむさんの考えは、もっと古い種類の「原猿」と呼ばれるサルたちの社会に近いような気がします。原猿は同じ種で同じ地域に住んでいても、個体ごとに社会のパターンが違うようなんです。独りで行動する個体もいれば、ペアをつくる者もいて、群れる個体もいるというような。

 そもそも夜行性なので、コミュニケーションの手段は音とにおいに限られます。だから見た目による区別がほとんどできなくて、オスメス間で見た目がほとんど変わらないんです。

 今は研究が不十分ですが、今後原猿とメタバース内の社会とを比べれることは、将来を予想する手がかりになるんじゃないかと思います。

ねむ:メタバースの人類に見られた行動が原猿にも見られた、なんてことがあったら面白いですよね。数千万年前に別れた別の霊長類から、人類の未来のビジョンを見出せるかもしれません。

メタバースでも「人目につかない場所で」が基本

ねむ:最後に性行動の話が出たので、メタバース内での性行動の話をしますね。メタバース内でも、アバターを介した性的コミュニケーションがあるんです。もちろん、現実の体同士が触れ合うわけではありません。

 そうしてメタバース内での性的コミュニケーションのデータを分析したところ、興味深いことがわかりました。メタバース内で過ごした時間が長いほど、性的コミュニケーションの経験率が増えていくんです。

バーチャルセックスとプレイ時間 - ソーシャルVRライフスタイル調査2023

 やっぱり長い時間過ごすと、その分だけ色んな相手や状況にめぐり合う機会が増えるのかなと思います。人間同士の営みだから、そこは現実世界と同じなのかもしれません。

本郷:なるほど。そういう性的コミュニケーションをする時は、やはり人目につかない場所を選ぶんですか?

ねむ:そうですね。メタバースには、性的なことを人目に付くところで行わないようにと規約で決められている場合もありますし、イベント内のマナーとして避けるようにというルールができている場合もあります。いずれにせよ、そういう時は隠れた場所で行うことが大前提です。

本郷:仮に規約やルールがなければ、隠さなくなるんでしょうか?性的コミュニケーションを他人から隠すのは、ヒトの他の霊長類にはない特徴だと言われています。近縁種も含めた霊長類の多くは、性行動を群れの他の個体の前でもよくします。むしろ隠さないことで、自分の序列を示すこともあります。

 ただ人間の場合は隠そうとする。他のメンバーから性行動を隠すことで、決まった性的パートナーの家族を保ちながら、より大きな共同体で暮らす、という難しい状況を維持しているんです。メタバースでも現実でも、性行動を隠す行動は変わらないんだな、と思いました。

ねむ:統計的な裏付けがある訳ではないですが、仮に規約が許すなら人前でやるという方も中にはいる気がします。例えば、見た目が人間型のアバターだと行為には生々しさがありますが、動物型のアバターだと「交尾」だと見なせる、みたいな認識のハックを使えば、常識の枷を外して、よりプリミティブな本能を引きだせる可能もあるかもしれません。

メタバースから現実の倫理が変わっていく?

本郷:現実世界とメタバースの世界では、倫理観が変わっていく可能性がある、ということですね。メタバースの倫理観は現実と違うから、性行動を隠すっていう行為がなくなっていく気もします。

ねむ:こうしてみると、私たちの倫理観は生物としての性行動や本能に大きく縛られているんだ、と実感します。逆に言えば、アバターを変えることで本能的をある程度ハックできるなら、常識や倫理観がこれから大きく変化していく可能性もあると思っています。

本郷:メタバース内のパートナーの考え方や、性行動の常識が変わっていくと、現実世界にも影響する可能性はありますね。

ねむ:今はまだどんな影響が出るかはわかりませんが、極端な話、人間が現実世界での性的コミュニケーションを止めてしまったら人類は滅びてしまうかもしれない。逆にアバターとしての経験を活かすことで、現実世界も今より良い社会にリデザインできるかもしれない。メタバースが行動に及ぼす影響ってそれくらいのインパクトのある話だと考えていて、今より平和的で楽しい社会を作れれば、と思います。

本郷:そうですね。研究者の目線では「大きな問題や不幸が起こっていなければOK」だと思います。自然科学では事実や証拠を示すことはできても、倫理的なことや価値観についてまでは決められませんから。

ねむ:メタバースで生きている人は、より原始的に、プリミティブになっていくというか、本能に対してまっすぐになっていく気がするんですね。自分の欲望によって姿、アバターを変えられるようになると、内面もそれによるフィードバックを受けていく……このループが続いて、メタバースの住人はどんどん自分の根源的な欲求に迫っていくことができるのかな、と思っています。

本郷:やはり、コミュニケーションする体を自分でデザインできるのが大きいですね。自分で作ったアバターに人格が引っ張られていって、今までの常識を変えていきそうというか。社会はこうだ、人はこうだ、という認知を変えていく可能性は大いにあると思います。

(出典:「ソーシャルVRライフスタイル調査2023」

【特集】アフターメタバース ~進化論のその先へ~

2023年。既に全世界で数百万人もの人々がオンラインの3次元仮想世界「メタバース」に没入し人生を送っている。かつてSF作品で”フ…

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる