オーディオ評論家・野村ケンジ氏に聴いた「2023年印象的だったメーカー&ガジェット」

2023年印象的だったオーディオガジェット

 リアルサウンドテック編集部による連載「エンタメとテクノロジーの隙間から」。ガジェットやテクノロジー、ゲームYouTubeやTikTokまで、ありとあらゆる「エンタメ×テクノロジー」に囲まれて過ごす編集部のスタッフが、リレー形式で毎週その身に起こったことや最近見て・試してよかったモノ・コトついて気軽に記していく。

 第8回は年末企画のひとつとして、ガジェット担当の小川が「2023年のオーディオガジェットで印象的だったモノ・コト」についてお届け。

 本日、12月30日は旧暦だと大晦日。売掛け(ツケ払い)が当たり前だった江戸時代には、この大晦日に各所で商人と町人の売掛け金バトルが繰り広げられたという。そんな光景を揶揄して「大晦日、首でも取ってくる気なり」「大晦日、首でもよければやる気なり」なんて川柳が読まれたりしたらしいが、毎年のように年末進行で「先生、年末迄に原稿を......無理ならせめてコメントだけでも.......」と懇願している編集者としては、江戸時代の川柳に妙な親近感を覚えてしまう。

 という訳で今回は特別にVGPライフスタイル審査委員でもあり、リアルサウンドテックでも連載記事を寄稿いただいているオーディオ・ビジュアル評論家の野村ケンジさんと共に、気になったガジェットやメーカーについて振り返りました。

ーーまさに年末のお忙しい中、ありがとうございます。まず今年も数多のガジェットを目にしたと思いますが、実際にどの位の数をご覧になってきたのですか?

野村:今年に限った訳ではないですが、関連アイテムを含めると年間300以上ものオーディオ(ビジュアル)ガジェットには触れてますね。特にVGPの選考期間では一気に跳ね上がります。2023年も良いオーディオガジェットに満ちてましたよ。

ーー300以上! そんな野村先生にとって、特に印象深いメーカーやアイテムはございましたか?

野村:各メーカーがどれも優れたアイテムを出しているので、優劣ではなく個人的な印象という意味だと、JBLが頑張っていたと思いました。まず、おっと思ったのはワイヤレスイヤホンのJBL『TOUR PRO 2』。タッチパネルが付いているケースが画期的で、これによりiOSやAndroidのアプリがなくてもBluetoothで接続できるようになった。しかも、スマホ用アプリ「JBL Headphones」と同等の細かい操作まで可能となっている。他にも機能面の充実ぶりはリアルサウンドテックの記事で詳細に書いているので是非ともご覧頂きたいのですが、個人的にいちいちスマホを取り出して......という動作がなくなったのは嬉しかったです。JBLだと、あとは『SOUNDGEAR SENSE』ですかね。

ーーこちらはどのようなガジェットになりますか?

野村:これは秋口に発売されたオープンイヤー型の完全ワイヤレスイヤホンで、オープンイヤー型イヤホンの課題だった音漏れと低音の細さを解決したJBL独自の技術が光るアイテムですね。ANC(アクティブノイズキャンセリング)機能を応用したものですが、逆位相の音を活用することで音漏れと低音の細さを同時に解決。特に低音に関しては、JBLらしいチューニングもあって素晴らしい音質を実現してます。今年のVGP2024年ライフスタイル大賞に選ばれておりますが、それも納得の完成度の高さでした。なお、オープンイヤー型については各メーカーからも続々と良いガジェットが発売されていて、その辺の情報も記事にまとめてますので是非、ご覧いただければと。

ーーほかに印象的だったメーカーやガジェットはございましたか?

野村:今年は老舗メーカーの活躍もめざましいところでした。BOSEなどもそうですが、特に日本メーカー、例えばパナソニックのTechnicsブランドから発売された『EAH-AZ80』など。こちらTechnicsの完全ワイヤレスイヤホンのフラッグシップモデルですが、音質の面で非常に高い完成度を持っており、特にクラシックなど、聴き応えのあるサウンドを楽しませてくれました。ほかにも「3台マルチポイント接続」(3台のBluetooth機器と同時接続)や、ノイキャン&マイク性能も注目。独自の通話音声技術が投入されているのですが、実はコードレスフォン時代から培ってきた技術が投入されているんです。その辺は流石、パナソニック(Technics)という感じで、仕事から音楽鑑賞までハイレベルで使える一台だと思いますよ。

 あと、日本のメーカーだとオーディオテクニカも印象的でしたね。レコード時代からオーディオガジェットを製造してきたメーカーですが、いまやマニア層だけでなく、エントリー層まで幅広く手にとれるガジェットを展開してますね。そんなオーディオテクニカだと今年発売された『ATH-SQ1TW2』はエントリー層にも嬉しいガジェットだったのでは思います。人気だった『ATH-SQ1TW』の第2世代にあたり、カラバリやデザイン、装着感に目が行きがちですが、低音域も初代に比べてぐっと良くなっているなど、実は音質もしっかりしています。音も機能もよし、それでいて価格はかなり抑えてありコスパも良い。オーディオテクニカらしい絶妙なバランス感が光るアイテムでした。

ーー老舗系とは逆に新興系だと気になるメーカー、ガジェットはありましたか?

野村:HiFiMANですかね。2005年設立と比較的若いメーカーになりますが、今月発売されたばかりのワイヤレスイヤホン『SVANAR WIRELESS LE』は注目でした。R2Rラダー方式のDACシステム、独自の「HYMALAYA DAC」を搭載しているのですが、一般的には据置型高級モデルのオーディオ機器に搭載されるR2Rラダー方式のDACシステムをどうやってワイヤレスイヤホンに搭載したんだろうと興味をひいた独自技術を投影したガジェットですね。実はこのガジェットにはLDAC対応の『SVANAR WIRELESS』という兄貴分がいるのですが、プライス面を含めてマニア向けといえる製品でした。「HYMALAYA DAC」を搭載しつつプライス面を解決したのが『SVANAR WIRELESS LE』で、高音質・高機能さはそのまま。コーデックがAACという部分が違いますが、iPhoneで聴くという人にはむしろぴったり。Androidスマートフォン&LDACコーデックなら『SVANAR WIRELESS』、iPhoneや非LDACの方は『SVANAR WIRELESS LE』が最適解になるのではと思います。

ーー今年もあとわずかになりましたが、来年のオーディオ業界動向についてはいかがでしょうか。

野村:それに関しては各メーカーの動向や注目ガジェットはわかっているのですが、まだ出せない情報も多いので(苦笑)。2024年1月以降のリアルサウンドテックの連載でじっくり書いていきたいと思います。是非、来年も私の連載をご覧下されば嬉しいです。

野村ケンジ

オーディオビジュアル評論家 イヤホン・ヘッドホンなどのポータブルオーディオをメインに幅広いジャンルで活躍するジャーナリスト。V…

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