究極のTWSが半額に!? 音もデザインも極上のモデルHIFIMAN『SVANAR WIRELESS LE』
まるでアクセサリーのように洗練されたデザインを持ち、同時に、独自の「HYMALAYA DAC(ヒマラヤ・ダック)」やトポロジーダイヤフラム採用ドライバーなどの採用によって格別のサウンドを実現したHIFIMANのハイエンド完全ワイヤレスイヤホン『Svanar Wireless』。2023年の春に登場して以来、デザインとサウンドの両面で大いに注目を集めているモデルだが、その弟モデルとも呼ぶべき製品が今冬登場した。それがHIFIMAN『SVANAR WIRELESS LE』だ。
弟モデルとはいってもその差はわずか。コーデックがLDAC非対応となりSBCとAACのみになったこと、イヤホン本体に採用されていたカーボン素材が合成樹脂に変更されたこと、専用ケースのワイヤレス充電機能が省かれたことくらいで、デザインも音質面で重要となるパートもまったく変わらず。それでいて価格が4万円台と、オリジナルモデルの半額近くになったのは驚くばかり。特にiPhoneなどLDACコーデックが利用できないスマートフォンにとっては大差のない、圧倒的なコストパフォーマンスを持ち合わせる製品となっている。そんな『SVANAR WIRELESS LE』ならではの魅力を、様々な側面から紹介していこうと思う。
『SVANAR WIRELESS LE』の主な魅力は3つ。まるでアクセサリーのように見える美しいデザインと、完全ワイヤレスイヤホンであることを忘れてしまいそうになる良質なナチュラルテイストのサウンド、そしてコストパフォーマンスの高さだ。
イヤホン本体は、“バータイプ”と呼ばれる一般的なスタイルだが、その形式から想像するようなカタチとは大きく異なっている。上質さや使い勝手が徹底追求されたデザインは、美しくも細やかなデザインが作り込まれ、まるでシルバーアクセサリーのよう。似たようなデザインが多い完全ワイヤレスイヤホンのなかでは、ひと目でそれとわかる存在感を示してくれる。 また、「SVANAR」という名前の由来となった有線イヤホンと同じく、エルゴノミックデザインを採用するインナーハウジング(耳側の部分)は、カーボンから合成樹脂へと素材が変更になったものの軽快さは変わらず、人によっては肌触りはこちらのほうが好みと思うかもしれない。
専用ケースのデザインも特徴的だ。三角形の面で構成されたデザインは他に類のないものだし、クラムシェルのように開く蓋を持ち上げると、ジュエリーケースのようにシルバーカラーのイヤホン本体が登場する。なかなかに憎い演出だ。また、大柄なイヤーピースを付けてもしっかり収納&充電できたり、イヤホンが取り出しやすかったりと使い勝手についても細かい配慮が施されている。オリジナルに対してワイヤレス充電機能が省かれたこと、カラーがブラウンに変更されているが、質感についてはまったく変わらない。イヤホン本体も専用ケースも、所有欲をくすぐる完成度の高い製品に仕上がっている。
また、機能性に関しても充実しているのが『SVANAR WIRELESS LE』の特徴だ。高級モデルのお約束であるANC(アクティブノイズキャンセリング)機能は、フィット感の高さと高精度なシステムとの相乗効果で、最大-35dBもの騒音低減能力を持ち合わせている。実際に試してみたところ、電車内では暗騒音がしっかり押さえられているのか音楽が聴きやすく、室内のファンノイズ等も気にならないレベルに。強烈とまではいかないが、充分以上の効果が確認できた。
このほかにも、装着センサーによる音楽の再生停止やIPX5の防水性能など、最新の上級モデルならではの充実した機能性もしっかりカバーしている。とはいえ、音質に徹底したこだわりを持つHIFIMANだけに、最大の特徴となるのが音質だ。オリジナルモデルと同じく、圧倒的ともよべる規格外の音質を持ち合わせている。なかでも驚きなのが、R2Rラダー方式のDACシステム「HYMALAYA DAC」と、独立したバランス出力ヘッドホンアンプが搭載されていることだろう。
大多数の完全ワイヤレスイヤホンは、Bluetoothチップに内蔵されているDACやアンプを利用することで、あのような軽量コンパクトなイヤホン本体に纏め上げている。音質を追求するため独立したアンプモジュールを搭載する製品も存在しているが、あくまでも少数派だし、そうすることで本体のサイズがかなり大きくなってしまい、みなデザインに苦労していたりもする。
そんな状況のなか、HIFIMANはR2Rラダー方式という“どうやったらそんなものがTWSに積めるんだろう”と疑問に思う程の独自システムでそれぞれ独立して搭載、さらに+-それぞれにパワーアンプ部を配置する別体のバランス出力アンプを採用している。ちなみに、R2Rラダー方式のDACシステムとは、1bitごとに精密抵抗を配置することでマルチビットDACを実現するもので、一般的には据置型高級モデルなどに採用されている。
音のよさとDACチップの供給不足から近年採用が増えてきているタイプだが、特性の揃った質のよい多数の精密抵抗を並べる必要があったり、前段にFPGAチップの配置が必須のため、どうしても広いスペースが必要となる。HIFIMANでも『EF400』や『EF600』などの据置型ヘッドホンアンプで採用されているが、その簡易バージョンが搭載されていると考えていい。とはいえ、完全ワイヤレスイヤホンに搭載したのは驚きでしかない。
それだけでも既存のTWS製品とは一線を画す、特別な製品といえるだろう。また、『SVANAR WIRELESS LE』では格別のシステムを活かすため、HIFIモードなるものが用意されている。音質最優先の動作を行うことで、ベストなサウンドを楽しむことができるようになっている。その分、バッテリー駆動時間は通常モードの約7時間に対して約5時間になってしまうが、専用ケースからフル充電3回がおこなえ約20時間使えることを考えれば、特に不満を感じることはないはず。ちなみに、バッテリー持続時間はオリジナルに対して多少延びていたりもする(『SVANAR WIRELESS』のHIFIモードは約4時間)。
さて、肝心のサウンドはというと、iPhoneで接続したかぎりオリジナルと大きな差はない。『SVANAR WIRELESS』の弟分らしく、一聴しただけでは有線イヤホンを聴いているのかと錯覚するくらいの良音質サウンドが楽しめる。音色としては、クリアであり、同時にナチュラルであるといった表現が的確か。AndroidスマートフォンとLDACコーデックで接続した『SVANAR WIRELESS』には流石に解像度の高さで敵わないものの、AACコーデックというマイナス要因をほとんど感じることのない良質なサウンドを聴かせてくれる。
野村ケンジ氏が動画でも分かりやすく解説
具体的には、低域はまずまずの量感だがフォーカス感が高くクリアなイメージ、高域は伸びやかなのに尖っておらずあくまでも自然な音色を聴かせてくれる。おかげで、ヴォーカルの歌声も生楽器の演奏もリアルに感じられて楽しい。たとえば宇多田ヒカル『BADモード』はちょっとハスキーで大人っぽい歌声を聴かせてくれ、バックの演奏も自然。音場的な広がりや各楽器の定位がしっかり伝わってくれるのもいい。安月名莉子『かたち』はのびのびとした印象的な歌声を聴かせてくれるし、左右に振り分けられた楽器の定位がしっかり定まり音色も自然だ。サラ・オレインの声も伸びやかで、ヌケのよさも手伝って普段よりも印象的に感じる。
いっぽう、ニュートラル志向の音色のお陰か、男性ヴォーカルも良好だ。米津玄師は高域が伸びやか、かつ深みのある歌声が楽しめる。『M八七』と『KICK BACK』のどちらも魅力的なサウンドを楽しめる製品はまれだが、得手不得手がない『SVANAR WIRELESS LE』ならではの恩恵か、雄大な表現の『M八七』、ノリノリの『KICK BACK』といったように、それぞれの楽曲のよさが存分に楽しめた。
このように、『SVANAR WIRELESS LE』は音よしデザインよしの優秀機に仕上がっている。加えて、オリジナルモデルの半額近いプライスタグは大いに魅力的だろう。完全ワイヤレスイヤホンでも音質にこだわりたい人にオススメ、一聴の価値ある製品だ。
❍参考サイト
SVANAR WIRELESS LE
https://www.hifiman.jp/products/detail/332
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