オーディオ評論家・野村ケンジがオススメする、最新「オープンイヤー型イヤホン」事情

最新「オープンエアー型イヤホン」事情

 現在、AirPods ProをはじめとするTWS(完全ワイヤレスイヤホン)が、イヤホンの主流であるばかりかポータブルオーディオ機器全体の主流製品となっているのはみなさんもご承知のことと思う。ワイヤレスかつ小型軽量なので屋外で扱いやすく、機能性の進化によりスマートフォンとの相性が抜群のTWSは、この先しばらくイヤホンの主流であり続けることは間違いない。

 そのいっぽうで、骨伝導など新たな潮流がいくつか生まれ始めている。なかでも、いま高い注目を集めているのが“耳を塞がない”オープンイヤー型と呼ばれるワイヤレスイヤホンだ。

 空気電動方式などと呼ばれることのある、以前は耳掛け型の1バリエーションと分類されていたこのジャンルの製品は、骨伝導とは異なり普通のドライバーを搭載しつつも耳穴を塞がないスタイルを持つことが特徴となっている。2022年2月に発売されたSONY『LinkBuds WF-L900』あたりから注目を集めるようになり、2023年後半には各社から様々なタイプの製品がリリースされ始めているオープンイヤー型最大のメリットは、耳穴を塞がない基本構造のため周囲の音が聞き取れ、屋外でも比較的安全に活用できることだろう。

 また、骨伝導イヤホンのようなユーザーによる向き不向きがさほど大きくなく、特に低域の量感が確保しやすいため、バランスのよい音が聴けるという特徴もある。また、カナル型イヤホンの装着感が苦手な人にも好評で、かつ聴覚への負担が少なく長時間使い続けられる点も好評だ。

 もちろん、デメリットもある。特に音漏れについては、耳を塞がない構造のため致し方のないところ。それでも、骨伝導イヤホンよりは音漏れしないという印象で、ラッシュ時の電車内でもなければ周りに迷惑をかけず使えるし、最新上級モデルのなかには音漏れに配慮した製品も登場している。ということで、今回はオススメできるオープンイヤー型ワイヤレスイヤホンを5モデル紹介しようと思う。

迫力のJBLサウンドが存分に楽しめる完成度の高い製品
JBL『SOUNDGEAR SENSE』
形式:オープンイヤー型完全ワイヤレスイヤホン

 先日発売されたばかり、最新オープンイヤー型TWSのなかで特に注目を集めているのがこちらのJBL『SOUNDGEAR SENSE』だ。ドライバーを内蔵する本体に耳掛け型のフックが付属する、オープンイヤー型としてはスタンダードなスタイルを採用しているが、この製品ならではの特徴がいくつかある。

 最大の特長は「音漏れ防止機能」だ。ドライバーから出ている音と逆位相の音を発生させることで、音漏れを低減させる機能を持ち合わせている。いわゆるANC(アクティブノイズキャンセリング)機能と同じ仕組みだが、これを音漏れ低減のために利用しているのはとてもユニークだ。

 もうひとつ、装着性についてもいくつかの工夫が盛り込まれている。まず、フック部分は4段階で角度調整が可能となっていて、自分にピッタリの装着感を得ることができる。加えて、脱着式ネックバンドが付属されており、イヤーフック先端に装着することでネックバンド型のイヤホンとしても活用することもできる。完全ワイヤレスでは少々不安、という人にも配慮された製品となっている。

 そのほか、IP54の防塵防滴性能やマルチポイント(2つの機器と同時接続&切替が可能)接続対応、4マイクによる良質な通話音声など、使い勝手の面でも充実している。

◯野村ケンジ的オススメポイント

 音漏れ防止機能はとても便利。オープンイヤー型は耳の上に本体を置くスタイルであるため、ストレスフリーな装着感を持つメリットと同時に音漏れするデメリットがある。それを最小限に抑えるためのシステムだが、これによって実際の音漏れが大分低減されている。ラッシュ時の電車内はまだしも、普通に屋外で活用できるのは大変ありがたい。

 とはいえ、いちばんの魅力はそのサウンドだ。16.2mm口径のダイナミック型ドライバーの採用や独自のBASSエンハンスメント(低音強化アルゴリズム)、JBLならではのサウンドチューニングにより、メリハリがよくパワフル、それでいてヴォーカルがしっかり耳に届く絶妙なサウンドを楽しませてくれる。特に低域の量感に関しては、骨伝導タイプはもちろん、オープンイヤー型のなかでもいちにを争う量感の高さを持ち合わせているので、“普通”のイヤホン然としたサウンドが楽しめる。使い勝手のよい、完成度の高い製品だ。

パワフルな低音と小型軽量な筐体を両立
oladance『OWS Pro』
形式:オープンイヤー型完全ワイヤレスイヤホン

 軽量コンパクトなボディサイズを実現しつつ、独自ドライバーや独立アンプ、低音増強アルゴリズムなどにより、迫力の低音を実現している製品。

 オープンイヤー型であることに加え、素材にチタン合金やシリコンを採用することで片側13.8gという軽量設計によって快適な装着感を実現。専用ケースも(オープンイヤー型としては)薄型デザインが採用されていて、屋外への持ち運びも容易だ。それでいて、イヤホン本体で16時間、専用ケースからの充電を含めると58時間という、かなりタフネスな造りともなっている。

 ドライバーユニットは、「ルチマグネット回路高解像度スピーカー」と呼ぶオーカムサークルデザインの平面駆動型ユニットを搭載。また、第2世代となる低音増強アルゴリズム(Virtual Bass 2nd)を搭載することで、低域の量感を高めるだけでなく音質的にも向上させている。加えて、特定方向音場アルゴリズム技術により、内部への正確な音声伝達と外部への音波漏れ抑制の両立も実現している。

 いっぽうで、マイク性能にもこだわりが。片側3マイクずつ搭載、そのうち1つを風低減タイプとすることで、バイクで26km/h走行していても通話がはっきり聞こえるとアピールする。

◯野村ケンジ的オススメポイント
 とにもかくにも、軽量ボディによる快適な装着感が魅力。長時間にわたり装着し続けても、ストレスを感じることはまずない。何よりも、音の迫力が素晴らしい。オープンイヤー型とは思えない充分な低域の量感を確保しており、メリハリのよいパワフルなサウンドを楽しむことができる。音漏れもないとまではいえないが、このタイプとしては少ないほうで、音量を控えめにすれば屋外でも周りを気にすることなく楽しめる。最新世代ならではの高い完成度をもつ。多くの人にオススメできる製品だ。

ニーズに合わせた3バリエーション展開を用意
Cleer Audio 『ARC II』
形式:オープンイヤー型完全ワイヤレスイヤホン

 この秋次々と登場している耳掛けフック付オープンイヤー型の先駆けとなったCleer Audio「ARC」が第2世代へと進化。音質やユーザビリティなど基礎体力面を高めつつ、同時に「MUSIC」と「SPORTS」、「GAME」という用途に合わせた3つのエディションをラインアップしている。

 角度調整可能なスピーカー部にイヤーフックが付属する基本デザインはそのままに、装着感や使い勝手を向上させるためのディテール変更が行われている。機能面では、Qualcomm製最新世代SoC「QCC3071」を採用し「Snapdragon sound」認証を取得。高音質コーデックaptX adaptiveに加え、新世代コーデックLE Audioにも対応する。さらに、6軸モーションセンサーによる空間オーディオ機能も採用し、首の動きだけでイヤホンを操作できるインタラクティブコントロール機能も持ち合わせている。このほか、IPX5の防水性能やマルチポイント接続対応など、使い勝手の面でも充実した内容を持つ。連続再生時間はイヤホン本体で最大8時間、専用ケースからの充電を含めると最大35時間の使用が可能となっている。

 スタンダードモデルの「MUSIC」に対して、「SPORTS」は専用ケースが紫外線照射機能を搭載したタイプにアップグレード。充電時に雑菌を99.9%除菌し不快な匂いを抑制することができる。いっぽう「GAME」は、59msの低遅延を実現するUSB Type-Cドングルが同梱されている。また、正確に敵味方の位置を把握するための「FPSモード」、より広い空間表現を生み出す「RTSモード」の切り替えが可能となっている。

◯野村ケンジ的オススメポイント
 総じていえば、迫力よりも質感に重きを置いたサウンドキャラクターが特徴。特に高音質コーデックaptX adaptive(96kHz/24bit)への対応がありがたく、最新のAndroidスマートフォンでアレはかなり良質なサウンドが楽しめる。この音質のよさが、この製品の大きな魅力となっているのは確かだ。

 機能性については上級クラスのTWSとほぼ同様、ANC機能以外は充分以上のものを持ち合わせている。使い勝手もよく、装着感のみ耳のかたちや好み次第といったところだろうか。

 オススメは「GAME」エディション。ドングルを利用することでかなりの低遅延ワイヤレスを実現してくれるので、ガチの競技FPS勢や音ゲープレイヤー以外はこれで充分だろう。逆に、映画など映像コンテンツ視聴の際も遅延が少ないため、映像系をメインに楽しんでいるという人にもオススメしたい。

バランスのよいサウンド、装着感も良好
1MORE『S30』
形式:オープンイヤー型完全ワイヤレスイヤホン

 1MORE初のオープンイヤー型完全ワイヤレスイヤホン。こちらの『S30』はスタンダードモデルに位置づけされていて、上位モデルとして『S50』もラインアップされている。落ち着いたデザインのイヤホン本体は、シリコンで全体を覆っているわけではないものの、さらっとした表面のおかげか良好な装着感を持ち合わせている。その内部には14.2mm口径DLC(ダイヤモンドライクカーボン)振動板採用のダイナミック型ドライバーを搭載。低音強化アルゴリズムの採用によって、深みのあるビートを感じられる、パワフルなサウンドを実現しているという。また、指向性サウンドを持つことで、音漏れも最低限に抑えているという。

 連続再生時間は、イヤホン本体が10時間、専用ケースからの充電を含めると30時間使い続けることができる。Bluetoothはバージョン5.3に準拠することで安定した接続性を確保。コーデックはSBCとAACに対応する。マイクは左右合わせて4つ搭載し、AIアルゴリズムを活用することでクリアな通話音声を実現している。イヤホン本体の連続再生時間は10時間で、専用ケースからの充電を含めると30時間使い続けることが可能となっている。

 スマートフォン用アプリ「1MORE MUSIC」も用意されており、こちらを利用してタッチコントロールをカスタマイズすることが可能だ。イヤホン本体の防水性能はIPX5を備えている。カラーはブラックとホワイトの2色展開となっている。

◯野村ケンジ的オススメポイント

 オーソドックスなデザインといえるイヤホン本体のスピーカー部分は、最新モデルのなかにあってはやや大柄に感じるが、片耳10gの軽量設計となっているおかげか装着感はなかなか良好。ケースも約70gなうえ横長タイプなので、持ち運び時は便利に感じる。

 いっぽうで、サウンドバランスのよさが光る。レンジ幅はややナロー、高域の伸びがそれほどではないものの、大柄なスピーカー部分が耳穴近くに置きやすいこともあってか低域に充分な量感を持つ。結果として、帯域バランスのよい、自然な音色のサウンドが楽しめる。同価格帯のカナル型と同じ、とまではいえないが、エントリークラスのTWSに対して同等以上のサウンドを確保できているのは確か。価格以上の価値を持つ、絶妙な造りの製品だ。

低価格なれど装着性も音質も本格派
SOUNDPEATS『GoFree2』
形式:オープンイヤー型完全ワイヤレスイヤホン

 手頃な価格とコスパの高い音質やANC性能が好評のSOUNDPEATSのオープンイヤー型完全ワイヤレスイヤホン『GoFree』の第2世代モデル。11月発売予定で、想定売価が8000円未満という(オープンイヤー型としては)かなりの低価格モデルとなっている。

 それでいて、LDACコーデックに対応していたり左右4マイク構成を採用していたりと、機能性に関してはいっさいの手抜かりはない充実した内容を持ち合わせている。イヤホン本体はフック部分が細身で重さも片側約9gと、かなりの軽量さを誇っているため良好な装着感となっている。専用ケースも比較的薄型なデザインが採用されているため、持ち運びにも便利だ。連続再生時間はイヤホン本体で最大9時間、専用ケースからの充電を合わせると最大35時間使い続けることができる。このほか、マルチポイント接続対応、IPX5の防水性能を持ち合わせるなど、使い勝手に関わる機能性能は充実した内容が盛り込まれている。

◯野村ケンジ的オススメポイント

 細身で柔らかなフックを持つため、装着がとても簡単で扱い易い。スピーカー部分の位置調整がし易いことも魅力的に感じる。また、全体がシリコンで覆われていることもあって、長時間の装着時も快適だ。

 大半のAndroidスマートフォンとLDACコーデックで接続してくれ、良質なサウンドで楽しめるのも嬉しいかぎり。iPhoneとのAAC接続でもなかなか良質なサウンドが楽しめる。総じて軽やかなBGM的なサウンドだが、音質がよいため充分に楽しい。なかでも解像度の高さについては、カナル型イヤホンに勝るとも劣らない実力を持ち合わせる。帯域バランスも含めて、女性ヴォーカルとの相性がよい。デザインや機能性、そして音質と、価格以上の価値を持つ製品だ。

逆相波形を使った独自の「PSZ技術」が注目
NTTソノリティ『nwm MBE001』
形式:オープンイヤー型完全ワイヤレスイヤホン

 NTTグループ内で音響機器の研究開発を行うNTTソノリティの独自ブランドnwm(ヌーム)のオープンイヤー型完全ワイヤレスイヤホン。再生している音に対して180度位相を反転させた波形(逆相)を重ねるという独自技術「PSZ技術」を採用することで、音楽等の音漏れを防いでいる。こちら、簡単にいえば周囲の騒音を防ぐANC(アクティブノイズキャンセリング)機能を音漏れ対策に活用したもので、これによりかなりの音漏れを防ぐことができ、プライバシーを確保することができるという。

 基本的なスタイルはフック付オープンイヤー型完全ワイヤレスイヤホンだが、フック先端、耳の後ろ側に来る部分にバッテリーやシステムが搭載されスピーカー部分は最小限のサイズに抑えられているなど、装着時の快適性には独自の考え方に基づく最大限の配慮が為されている。

 音楽再生時間は最大6時間で、充電時間は約2.5時間となっている。専用ケースにはバッテリーが搭載されておらず、本来の意味での収納ケースとなっている。その分、厚みが薄く軽量コンパクト、持ち運びはし易い。Bluetoothのバージョンは5.2、コーデックがSBC、AAC、aptXに対応する。イヤホン本体の重量は片側約9.5gと、比較的軽量だ。

◯野村ケンジ的オススメポイント
 独自デザインの装着感はなかなかいい。耳の上が大きく塞がれたり耳たぶのどこかが押され気味だったりしないため至って快適、長時間装着し続けても不快に思うことはない。装着感とともに、サウンドも自然な印象だった。音響ARという表現が妥当だろうか、リアルの世界に音楽の広がる空間が重なり、調和してくれている。おかげで、世界と音楽との区別がつきにくくなるほど。見えないスピーカーが設置されたオーディオ空間にいるかのようだった。

 もちろん、音質面では“イヤホン”であることを意識するが、空間表現がとても自然なため、ついつい錯覚をしてしまうのだ。数多あるオープンイヤー型完全ワイヤレスイヤホンのなかにもこの感覚に近い音空間を持つものもあるが、あくまでも“両耳にイヤホンがある”ことを意識させられる空間表現となっているものが大半。絶妙であり、お見事と呼べる音場表現だと思う。個性的、かつ魅力的な製品だ。

 このように、オープンイヤー型完全ワイヤレスイヤホンは今や数多の製品が登場し、それぞれ特徴的な個性をもつオーディオジャンルとなっている。音質を重視するか、装着感を重視するか。音漏れを気にするか。今回の記事を参考に、自分好みの製品を見つけ出してほしい。

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