国内外アーケードからインディー作品まで 音ゲーライターが選ぶ2023年の「音楽ゲーム楽曲」10選
音楽ゲームアプリ
8. Skyrocket
アーティスト:uraboroshi
ゲームタイトル:Hexa Hysteria
メーカー: Wiseye Studio
インディー系の音楽ゲームは、2023年もその勢いを増しており衰えを知らない。ここ1~2年の要注目作を並べ立ててみれば、たとえば『Phigros』で知られる中国Pigeon Gamesの新作『Rizline』、『Lanota』『WACCA』『MUSIC DIVER』ライクな円環型音ゲー『Liminality』、新鋭デベロッパーTunerGamesによる『Paradigm: Reboot』、インドネシア発の『SparkLine』、オーストラリアから創発し本年Switch版もリリースされた『Spin Rhythm XD』、韓国の動作検知型音ゲー『DanSparkling』、『CROSS×BEATS』文脈でリリースされNAOKIこと前田尚紀が変名義祭りを披露した『DeltaBeats』、もと『陽春白雪(Lyrica)』制作チームが立ち上げた浮光遊戲(Dusklight Games)による新作『Gadvia』、際限が見えずこのあたりで止めておく。
『Hexa Hysteria』は台湾Wiseye Studioが2022年にリリースした、ストーリー要素と楽曲解禁システムの融和が特徴のインディーゲームだ。その展開の初期から、セガ『CHUNITHM』発のイロドリミドリにも楽曲提供歴のあるbassyこと石橋弘史のユニットNyaronsや、アンビエント/エレクトロニカ作家Sweet Doveといった、国内外のインディーズアーティストに対する鋭い選曲眼を見せていた。
本稿で取り上げる「Skyrocket」は、2023年9月に『Hexa Hysteria』へ収録された楽曲。ゲームボーイ用の音楽エディタLSDj(Little Sound Dj)の扱いを得意とするチップチューンアーティストuraboroshi(ウラボロシ)による楽曲で、元はSoundcloud上で2021年に公開されていたものである。ハードコアの疾走感と重低音に押し支えられた高密度のチップサウンドが広音域を遊びまわり、音の渦に叩き込まれ翻弄されるチップブレイクの極みだ。
Wiseye Studioからは、ピアノをモチーフにした新作音楽ゲーム『リリーファンタジア』のリリースも予告されている。音楽制作を手掛けるのはP3-Studio音樂工作室。台湾出身音ゲーアーティストの雄PYKAMIAと3R2が共同設立、かつてRayarkのサウンドディレクターを務め現在は『Starri』のNex Team Incにも所属するIceや、『Cytus』『VOEZ』『Lanota』『KALPA』『太鼓の達人』等でも知られるボーカリスト・薛南らを擁するサウンドチームだ。的確なサウンドディレクションと信頼のおける音楽制作陣によるまだ見ぬ新曲たちに、いまから期待も膨らむばかりである。
9. アイムマイン
アーティスト:halyosy
ゲームタイトル:プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク
メーカー:セガ/Colorful Palette
2000年のヤマハ「DAISYプロジェクト」に端を発する音声合成技術VOCALOIDを用いて、クリプトン・フューチャー・メディア社が「MEIKO」「KAITO」に続いて2007年に発売した「初音ミク」が、UTAUなど後続ソフトウェアと共に形成したボーカロイド文化。同年中にはすでにクリプトン社との交渉を開始していたセガが、「初音ミク」発売1周年となる2008年8月31日に発表、翌2009年にリリースした『初音ミク -Project DIVA-』から、令和のいまなお続くボーカロイドと音楽ゲームの蜜月は幕を上げた。『初音ミク and Future Stars Project mirai』、『ミクフリック』、『初音ミク VRフューチャーライブ』……10年以上にわたるボカロ×音ゲーの潮流における最新形態として2020年にローンチされたのが『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』だ。
ゲーム内ユニットの担当声優とボーカロイドのコラボによる既存ボカロ曲カヴァーや、持続的な楽曲コンテスト企画であるプロセカNEXT、クリエイターとファンの架け橋となるイベントであるクリエイターズフェスタなどの施策を通して、それ自体が新しい音楽を生み出すプラットフォームとしても本作は機能してきた。そしてアニヴァーサリーにはボカロ界の大御所ミュージシャンによる書き下ろしの記念楽曲が公開されるのが定番となっており、1~2周年の機会にはEve「群青讃歌」、DECO*27「Journey」がそれぞれ生み出されてきた。
3周年を迎えた本年には記念曲・じん「NEO」に加え、ゲーム内の各ユニットへの書き下ろし曲が公開された。「アイムマイン」は、初音ミク、鏡音リン・レンらボカロ文化黎明期を支えたキャラクターらが在籍するユニットVirtualSingerのために制作された楽曲。制作を担当したのはhalyosyこと森晴義だ。森は笹原翔太、中村博とのバンドabsorbでの活動の傍ら2007年12月に発表した、ryo(supercell)によるボカロ文化黎明期の代表作「メルト」のカヴァーでブレイク。オリジナル曲「桜ノ雨」が全国各地の高校で卒業式の定番曲として広がるなど、ボカロ曲がニコニコ動画の枠をはるかに超えた支持を得て一般社会へ広がってゆく潮流へ大いに寄与した、ボカロ界のレジェンドアーティストの一人である。
「桜ノ雨」「Blessing」「Flyway」といった自身の代表曲を引用しつつ、メロディ重視のソフトロックに乗せたテンポの良いラップ・ポップスが繰り出すのは、いままさに駆け出そうとするクリエイター志望者の背中を押す応援歌だ。プロデューサーであるColorful Paletteの近藤裕一郎は『プロセカ』開発の動機について、ボーカロイドやインターネット発の音楽を若い世代の人たちへと伝え、次世代にとってのボカロ文化への入り口となることを望んだものと語る。元ボカロPでもある近藤が『プロセカ』への中長期的な目標として掲げていた、ネットの音楽シーンが盛り上がり、また楽曲のクリエイターが増えてゆくようにとの願い。時代の先駆者としてボカロ界を牽引し見守ってきたhalyosyが、その想いを汲み上げて見事に具現させた一曲だ。
10. Gunners in the Rain
アーティスト:Mili
ゲームタイトル:Deemo II
メーカー:Rayark
ニコニコ動画を契機としてつながったカナダのボーカリストCassie Weiと国内コンポーザーYamato Kasai(葛西大和)らによる国際ユニット、Mili(ミリー)。インディーゲームデベロッパーProject Moonによる『Limbus Company』『Library Of Ruina』や、Binary Haze Interactive『ENDER LILIES』に高品質なテーマソングやBGMで貢献。日本国内でもアニメ『ゴブリンスレイヤー』『処刑少女の生きる道』での主題歌担当などメジャーシーンでの知名度をますます高めつつある。
Miliとしての遍歴のごく初期から、彼女らはモバイル音ゲー発展期を代表する台湾Rayark社の諸作に貢献を続けてきた。とりわけ作品全体を貫くストーリーを音楽ゲーム体験と融和させる現在のトレンド形成に寄与した重要作『DEEMO』には、2013年のリリース当初から「Nine Point Eight」「YUBIKIRI-GENMAN」といった傑曲の数々を提供し、同ゲームが世界のコミュニティへと広がる一助を担ってきた。
『DEEMO』の直接の続編としてRayarkが2022年にローンチした『Deemo II』にも、Miliは立ち上げと同時に「Dandelion Girls, Dandelion Boys」「Bento Box Bivouac」の2曲を提供、あわせてフルサイズの楽曲をシングルとしてリリースしてきた。2曲は『Deemo II』初期の精選となる1stサウンドトラックの収録曲にも選出されている。そして2023年になって同作へと新たに提供したのが「Gunners in the Rain」。ミドルテンポで紡がれる思弁的な歌詞に情緒を翻弄される、ジャジーなシティポップである。
Rayark社による『Deemo II』はスマホ音ゲー業界中でも最上に属するサウンドディレクションの技量が光る、コンテンポラリーピアノ楽曲集としての観点からも至高の作品だ。2023年もkidlit「memories of love」「Symphony Blue for 2 Pianos」、Yu_Asahina「HarvestSeason!」、Feryquitous「MirageStation」、technoplanet「Antikythera」、Elliot Hsu「Unwavering Spirit」、かねこちはる「bAllAd」……取り上げきれないほど収録された傑曲たち。ベテランMiliがその魅力を最大限に発揮した「Gunners in the Rain」は、そのなかにおいても一つ群を抜いた、同ゲームタイトルのまさに白眉と捉えたい一曲だ。
音楽ゲームシーンはもっと面白くなる
以上、今年も筆者なりの価値基準と独断をもとに10曲を選出した。なんらかの統計に基づいたランキングではなく、観測範囲とリスニング傾向の異なるリスナーごとに、選はまったく異なるものになるだろう。ここまで目を通してくださった読者のみなさまにおかれましては、それぞれのベスト選曲をぜひ教えていただきたいと願っている。
音楽ゲームシーンは2023年も盛況を極めた。本稿で語られた以外にも、Tango Gameworks『Hi-Fi RUSH』の爆発的ヒットとCEDEC AWARDS 2023サウンド部門最優秀賞受賞、セガ『サンバDEアミーゴ』のまさかの続編作『サンバDEアミーゴ:パーティーセントラル』リリース、アーケード音楽ゲーム各社による垣根を超えた合同ライブイベント「AMUSEMENT MUSIC FES 2023」の開催はじめトピックスが満載だ。
来年も各社アーケード作品の新バージョンが期待されると共に、PCやアプリにおいてもインディー作品のリリースや大型アップデートが多く予定されている。主だったところだけでも、例えばDÉ DÉ MOUSE、細江慎治、そしてなんとコトリンゴまでが楽曲を担当することが明かされている、AREA 35社の『Felicity’s Door』。cosMo@暴走PやTOKOTOKO(西沢さんP)らボカロPを招いてのオリジナル曲収録が予告されているフィットネスリズムゲーム『Fit Boxing feat. 初音ミク -ミクといっしょにエクササイズ-』。そして2月に豪華陣容による楽曲収録の数々が予告されるもゲームエンジンUnityの騒動がらみで延期されていた、開発者Tommy Liによる『polytone』のバージョン2.0あたりは目が離せない案件である。
来る2024年、世界の音楽ゲームシーンはますます面白くなるだろう。まだ見ぬ楽曲たちもまた、ただ一人のリスナーでは全容の把握すら難しいほど出現することにまったく疑いはない。シーンのさらなる発展を心待ちにしたい。
アーケード音楽ゲーム史に残る“夢の饗宴” 『AMUSEMENT MUSIC FES 2023』の衝撃
11月25日、アーケード音楽ゲームの祭典「アミューズメント エキスポ」内で、「AMUSEMENT MUSIC FES 2023」…