生成AIが席巻した2023年 スピーディな実装を推し進めたアドビはどこへ向かう?

生成AI実装を推し進めるアドビとその未来

 テクノロジー業界において昨年・今年もっとも注目されたワードはなにかと問われれば、やはり「AI(人工知能)」になるだろう。「Stable Diffusion」「Midjourney」といった画像・イラスト生成用のモデルから、「ChatGPT」のような自然言語処理に特化したもの、先日から話題になっている音楽生成AIの「Suno AI」など、数多くの実用的・先進的なAIプロダクトが登場した。

 しかし、テキストを処理する「ChatGPT」が数多くの製品・サービスへ活用されるなか、画像生成AIのクリエイティブ活用には多くの人びとから懸念が示された。

 最大の原因は、やはり学習モデルへの不安が挙げられる。「Stable Diffusion」「Midjourney」など、先行して注目されたモデルはインターネット上から「億」単位で画像をスクレイピング(抽出・収集)しているが、著作権で保護された画像を同意なく学習させることが問題視されており、そうしたモデルを利用することに対する法的・倫理的な議論が今も継続しておこなわれている。

 そこで注目を集めたのが、アドビが2023年3月に発表した『Adobe Firefly』だ。学習に使用するデータは『Adobe Stock』の画像や一般公開されているライセンスコンテンツ、著作権が失効しているパブリックドメインコンテンツを学習対象としているため、安心して商業利用が可能となる。

 

 もともと『Adobe Sensei』を中心に「クリエイティブ×AI」の可能性を模索しつづけてきたアドビが、満を持して発表した学習モデルに大きな注目が集まった。その後も「コンテンツに応じた塗りつぶし」の発展形ともいえる「生成塗りつぶし」など、数多くのAIを活用した機能群がAdobe製品に実装されてきた。

 アドビがどれほど「AI活用」に注力しているかは、ことしの『Adobe MAX 2023』を振り返れば一目瞭然である。キーノートにおいては「AI」「生成」という単語が繰り返し登場し、「生成塗りつぶし」「生成拡張」から「テキストからベクター生成」といったものまで、『Adobe Firefly』を搭載・活用したさまざまな機能が紹介された。

 これらの機能がベータ版を経て搭載されるまでに要した期間は短く、3月の『Adobe Firefly』発表から5月に『Adobe Photoshop』へ、6月には『Adobe Illustrator』『Adobe Express』へAIを活用した生成機能を実装、9月にはベータテストを終了し、一般提供を開始している。

 『Adobe Express』への生成AI搭載に関しては、『Adobe MAX 2023』において一部記者から「そもそもノンプロ(非クリエイター)向けの製品だったのでは?」という質問が投げかけられていた。しかし、これはむしろアドビからすれば「だからこそ搭載するんです」という思いがある。

 イメージ通りのアセットやイラストを自分で用意するハードル、テンプレートや用意されたフォントに頼らない文字デザインなど、制作の「せ」の字もわからない人からすれば、それらはどこから手をつけていいかわからない未知の世界だ。しかし、生成AIを活用すれば「こんな雰囲気で、色はコレで」とテキストプロンプトで指定してやるだけでプロレベルのクリエイティブが手軽に作れる。

 これはアドビが当初から掲げる「すべての人に『つくる力』を」というミッションと矛盾しない。

 そしてこうしたアドビの傾向は今後も続きそうだ。今後Adobe製品に搭載予定の機能を“チラ見せ”する「Sneaks」。同コーナーにおいて発表された機能を見てみると、クリエイティブに対するハードルをさらに一段下げようとしていることがよくわかる。

 発表された機能の一部を振り返ってみると、オブジェクト(被写体)を認識して画像の編集画面上で移動・削除をシームレスにおこなえる「Project Stardust」や、生成塗りつぶしの動画バージョンにあたる「Project Fast Fill」などが登場した。

 また多言語の吹き替えをAIの力でおこなう「Project Dub Dub Dub」など、画像にかぎらず動画・音声の分野でもAI活用をおこなっていく方針なのだろう。あらゆるメディア・クリエイティブを誰もが作れる/扱えるようにしていくことは、アドビが長年掲げる大方針でもある。

 来年以降、Adobe製品へ具体的にどんな機能が追加されるのかについては、今後の動きを注視したいところ。クリエイティブ業界をリード(あるいは牛耳る)アドビがAIを積極的に活用・推進することで、生成AIのユースケースは今後どんどん増えていきそうだ。

 個人的には「Firefly Image 2」でより写真に近い画像を生成できるようになったように、日本のアニメ調のイラストを生成可能なモデルが将来的に開発されれば、冒頭のような諸問題解決の糸口になるのではないかと考えている。しかし、アドビ主導でクリエイターと連携を取ることが求められるし、しばらくはクリエイターに生成AIツールを浸透させていくことに専念していくのだろう。

『Firefly Image 1』(左)と『Firefly Image 2』(右)の比較
よりフォトリアルな犬の画像が生成されている

 その先にはきっと、権利関係にそこまで詳しくないアマチュアのクリエイターも安心して使うことができ、セミプロ/プロのクリエイターも自身の権利を侵害されることがない“安心して使える生成AI”が待っているかもしれない。そんな未来を期待して、本稿を締めくくりたい。

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