「イラストレーター 兼 VTuber」という存在に見る、多様なバーチャルタレントの在り方
イラストレーターとVTuber・バーチャルタレントは、いまのシーンが形成される頃から現在に至るまで、不可分を保ってきた。
そもそもVTuberやバーチャルタレントのビジュアルを描くのは多くの場合イラストレーターであり、基本的に自室での作業をすることの多い彼らにとって、「手や顔をネットに出すことなく、まったく新しい角度から自分のスキルをアピールできる発信手段として「バーチャルの姿」を持つことが注目されたのだ。
ポジティブかつ勇猛な腹積もりでスタートするひとがいれば、まったく異なる理由によってバーチャルタレントとして活動する人もいる。「ネットカルチャーとして面白かったから」「暇な時間が多く配信活動をしようと思っていたから」などなど、人によってさまざまな動機やキッカケが絡んでいるのだ。いくつかの代表的な事例・人物を見ていこう。
2023年に望外の大ブレイク しぐれういの活動を改めて振り返る
2023年において「イラストレーター 兼 バーチャルタレント(VTuber)」を代表する存在といえば、やはりしぐれういになるだろう。
おもにライトノベルの挿絵やゲーム作品のキャラクターデザインやイラスト制作などをつとめ、芳文社が出版していた(現在は休刊扱い)漫画雑誌『まんがタイムきららミラク』において『かんきつパンチ!』を連載していたこともあるイラストレーター/漫画家だ。
そうした活動のなかで、ホロライブから2018年にデビューしたバーチャルタレント・大空スバルのビジュアルを担当することになったしぐれうい。ホロライブでも頭抜けて明るく、活発的な彼女につられ、配信内にたびたびゲストとして登場することになった。
当初はアバター(立ち絵)のみの登場であったが、2019年1月の配信に登場した際、大空スバルに「動いてるかーちゃんが見たい!」と言われ、一念発起。自画像をもとに『Live2D』モデルを用意し、ほどなくVTuberとしてデビューすることになった。
「人前でしゃべるのも得意だと思っていないので、たぶんスバルに誘われなければ、自分でやろうなんて考えなかったと思います。でも私は本当に周りの人たちに恵まれていて、Live2Dを作らなくちゃとなったときも、知り合いに詳しい人がいて作ってくださったんですよ」
(引用元:イラストレーター・しぐれうい、VTuberデビューのきっかけは「大空スバル」の一言!「ういママ」の魅力に迫る【インタビュー】)
2020年のインタビューで、彼女はこのように答えている。
「大空スバルのママ」という形で徐々にホロライブファンに知られていくようになると、娘である大空スバルにも引けを取らないアグレッシブな一面、思わずツッコミをいれずにはいられないほど低いゲームスキル、タレ目/薄金色の髪色といったビジュアルに甘い声色があいまった愛らしいムードで、ホロライブファンからも注目を集めるようになる。
彼女のYouTubeチャンネル登録者は順調に伸び続け、さまざまなタレントとも交流を深めていき、「バーチャルタレント・しぐれうい」としても名を知られるようになっていったのだ。
そんな彼女の活動で特徴的なのは、「VTuberは趣味、本業はイラストレーター」というスタンス・意識が一貫しているところだ。基本的に彼女のライブ配信は週1度のみ、ひと月で4回か5回ほど。毎日のように配信をしている専業VTuberと比較すれば、マイペースに活動を続けているといえよう。
さまざまな魅力を備えている彼女だが、2023年はとある楽曲がヒットしたことにより、より大きなフィールドに飛び出していくことになった。2022年5月に発表したオリジナルアルバム『まだ雨はやまない』、その収録曲である「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」のミュージックビデオが、約1年4ヶ月後の2023年9月10日に公開されたのだ。
そして、このMVがホームラン級のヒットを記録する。
楽曲の内容は、9歳のしぐれういが登場し、身内ノリをまじえて“ロリ文化”を風刺するというもの。古のインターネットカルチャーを思わせるジョークと感性を封じ込めた楽曲だ。この曲が特異点となった要因はその歌詞ではなく、サウンドとアニメーションにあると筆者は考えている。
上海アリス幻樂団「東方Project」のアレンジ楽曲に始まり、アニソンやVTuberの楽曲も数多く手掛けてきたIOSYSによる同曲のサウンドは、いわば“電波ソング”のそれだ。軽快かつアッパーなシンセサウンドのなかで、機敏にクルクルと踊っては決めポーズをする「しぐれうい(9歳)」のアニメーションはネットミームとなって一気に広まり、海外で大きなバイラルヒットを記録することとなった。
始めはアニメーションと音楽を合わせた動画から、次第に音楽のみを使った動画、そしてつぎはアニメーションのみを使った動画へ。TikTokやInstagramなどでのショート動画を中心にどんどんとミーム化していった「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」は、なんとランボルギーニやロータスの公式TikTokアカウント、BMWモータード(BMWの二輪自動車部門)の公式Instagramなどにも使用される事態に。大手モビリティメーカーが発信するPRの一端を担うこととなったのだ。
@lamborghini Nobody can resist to our Huracán STO. #Lamborghini #lolidance
@lotuscars Blue or yellow 👀 Emira ForTheDrivers
なぜ???????? https://t.co/uH7KSRZw6d
— しぐれうい🌂 (@ui_shig) October 31, 2023
こうした事態に至るまでの経緯を説明すると、同曲のアニメーションに注目したとあるネットユーザーが、アメリカのギャングスター・ラップグループのMemphis Cult「9MM」の音源と関連映像に合わせた動画を制作・投稿。アメリカのギャングスタらしい一面をクリップしたノイズ混じりの映像のなかで、軽快にフリフリと音に合わせて踊るしぐれういというギャップがウケたのだ。
ギャングスタ・ラップといえば、バイオレンスな歌詞や表現が注目されるが、そこに必要となるのがやはり車。その後「ロリ神のサウンド×9MMの音源」を使ったさまざまな映像がSNSに投稿されるなかで、そのサウンドとダンスに合わせるように走行中の車とかけあわせた動画が多数誕生。結果、自動車メーカーまでたどり着いたというわけだ。
ネットミーム/カルチャーは、一瞬であれ非常に大きな熱を持つ。そのことは筆者も重々にわかってはいたが、ここまでの流れがわずか数ヶ月のうちに出来上がったことは特筆すべき点であろう。
関連して『YouTube Music』や『Spotify』などで再生数がグンと増加し、著名なチャートやプレイリストにも入ることに。しぐれういのYouTubeチャンネル登録者数も165万人までふえ、自身の娘である大空スバルを超えるほどの登録者数となった。
ここまでの盛り上がりがありながら、しぐれうい自身は至って平然とした面持ちなのが活動から伝わってくる。SNSでの投稿でも積極的に話題に触れることはあまり無く、配信活動が増えるといったこともない。あくまで「VTuberは趣味、本業はイラストレーター」というスタンス・意識であることにかわりはないようだ。
「トレス動画を作っても良いですか?」等のメッセージをいくつかいただきまして、
公式さんから許可いただけたので、ちょっとこちらにBB素材置いておきますね…!><; pic.twitter.com/O06n0cbkr2— ががめ@ … (@utsugame) September 27, 2023