“シリーズ19年間の沈黙”を通して考える『F-ZERO ファルコン伝説』が目指したもの

『F-ZERO ファルコン伝説』が目指したもの

 「やあ、今日の『F-ZERO ファルコン伝説』は面白かったかな?」(バート・レミング)

 気が付けば、10月4日でテレビアニメ『F-ZERO ファルコン伝説』の放映開始から20年、11月28日にはゲーム版『F-ZERO ファルコン伝説』の発売からも20年の節目を迎えた。

 数ある任天堂のゲームタイトルの中でも、コアなユーザーからの支持が厚いレースゲーム『F-ZERO(エフゼロ)』。そんな『F-ZERO』は後にシリーズ化を遂げるも、2004年発売の『F-ZERO CLIMAX』を最後に長きに渡って新作展開が止まってしまった。

F-ZERO 99 [Nintendo Direct 2023.9.14]

 2023年9月、Nintendo Switchで配信された『F-ZERO 99』でようやくその流れは断たれたものの、過ぎ去った期間は実に19年。もはや『F-ZERO』というゲームを知らない世代が居ても全然不思議ではない期間だ。一応、その間にも同シリーズの主人公格に当たるキャラクター「キャプテン・ファルコン」は『大乱闘スマッシュブラザーズ』(スマブラ)シリーズにゲスト出演している。しかし、当人の主演作が全く発売されないことから、いまやスマブラのキャラクターとしてのイメージの方が勝ってしまっているのは否めないだろう。

 その沈黙直前に展開された新作のひとつが、まさに『F-ZERO ファルコン伝説』だった。当時もコアなユーザーからの支持が厚い『F-ZERO』がアニメ化というインパクトを持って出迎えられた『F-ZERO ファルコン伝説』。その狙いは低年齢の新規層の開拓にあったことは当時、『コロコロコミック』で漫画が連載された事実からも考えられる。

 だが、『F-ZERO』が19年も沈黙したという事実が出来上がった2023年現在。『F-ZERO ファルコン伝説』には、『F-ZERO』の将来的な”ゲームとしての”危機にも立ち向かった作品としての見方もできるようになったと感じる。

『F-ZERO』が抱え続けた“技術”にフォーカスされたゲームデザイン

 『F-ZERO』の将来的なゲームとしての危機。それは同作が技術ありきのゲームデザインをセールスポイントにしていたことによる行き詰まりだ。技術ありきのゲームデザインというのは、最新ゲーム機の性能によって実現した映像、演出といった表現を活用した遊び全般を指す。

 最初の『F-ZERO』が発売されたのは1990年11月21日。当時における任天堂の最新ゲーム機『スーパーファミコン』のローンチタイトルのひとつとして、『スーパーマリオワールド』と一緒に世に送り届けられたシングルプレイ専用のレースゲームだった。

『F-ZERO』(『スーパーファミコン Nintendo Switch Online』より)
『F-ZERO』(『スーパーファミコン Nintendo Switch Online』より)

 『F-ZERO』は、この初代の時点で技術ありきのゲームデザインがセールスポイントのひとつになっていた。ファミリーコンピュータ(ファミコン)を始めとする、旧世代のゲーム機では実現できなかった時速400キロ超えの圧倒的なスピード感、そしてスーパーファミコンの特徴である回転・拡大・縮小機能を活かした迫力ある演出がそれだ。スーパーファミコンではファミコンからどのようにゲームが変わるのか?そんな疑問に最も分かりやすく、鮮烈な形でプレイヤーに訴えるタイトルとして、『F-ZERO』はまさに最良の一作だった。

『F-ZERO X』(『NINTENDO64 Nintendo Switch Online』より)
『F-ZERO X』(『NINTENDO64 Nintendo Switch Online』より)

 8年後の1998年に発売された『F-ZERO X』でも、技術ありきのゲームデザインは継承されている。2023年現在では珍しくなくなった、秒間60フレームによって実現した1000キロ越えのスピード感がそれだ。また、30台ものマシンが処理落ちもなくサーキット上を同時に走行する表現もそのひとつである。とりわけ秒間60フレームは『F-ZERO X』のセールスポイントとしてアピールされていた。こと3D作品では2023年現在と違い、秒間60フレームがまだ珍しかった時代。それもあって『F-ZERO X』の映像的なインパクトがいかなるものだったかは明らかだ。

『F-ZERO for GAME BOY ADVANCE』(Wii U バーチャルコンソール版)
『F-ZERO for GAME BOY ADVANCE』(Wii U バーチャルコンソール版)

 『F-ZERO X』以降にも『F-ZERO for GAME BOY ADVANCE』、『F-ZERO GX』と新作が展開されていったが、やはりそこでも技術ありきのゲームデザインが際立っている。前者は携帯ゲーム機ながらスーパーファミコン並のスピード感と高速スクロール、後者は『F-ZERO X』のときは技術的な関係で犠牲にせざるを得なかった背景の深化を図っての秒間60フレームの実現だ。いずれも、前世代のゲーム機では困難だった表現を実現させ、それによって生まれる体験をプレイヤーに提供する作りとなっている。『F-ZERO GX』のように、アーケード版『F-ZERO AX』との連動という新しいチャレンジに挑んだ作品もあったが、やはり最も目立っていたのは当時の技術を駆使した表現とそこから生まれる遊びであり、それが『F-ZERO』の確固たる象徴として確立されていた印象だ。

 しかし、逆に言えばこれは『F-ZERO』というゲームの大きな弱点だった。2023年の現在が物語る通りだが、特に『F-ZERO X』が表した秒間60フレームはもはや珍しいものではない。それどころか、レースゲームでは当たり前のものとなってしまっている。

『マリオカート8 デラックス』より「ミュートシティ」
『マリオカート8 デラックス』より「ミュートシティ」

 同じ任天堂のレースゲームで、幅広い層から絶大な支持を得ている『マリオカート』シリーズも、いまとなっては秒間60フレームが基本。つまり、時代が進んでしまえば、セールスポイントとして機能しにくくなる。

 また、時速400キロ超えのスピード感を省けば、『F-ZERO』はレースゲームとしては割とシンプルな構造をしている。特にレースの勝敗はすべてプレイヤーの操縦技術と判断・瞬発力がものをいう設計。『F-ZERO X』以降には相手マシンを破壊できる要素も備わったが、それもタイミングに合わせてボタンを入力することが必要とされるなど、テクニックの重要性を出している。『マリオカート』のアイテムのように、対応するボタンを1回押せばそれだけで簡単にスピードアップができる、ライバルへの攻撃ができるといった直感的な対抗策は作りにくいのだ。加えて時速400キロ、作品によっては1000キロ超えのスピードである。慣れるまでは取っつきにくさがあるのは否めない。

 なので、最も強いセールスポイントを生み出す技術がありきたりになれば、ストイックなレースゲームとしての姿が前面に出てしまう。新要素を足そうにも、アイテムによるサポート要素は『マリオカート』で実現済み。しかも、『F-ZERO』と同じ方向性を持つレースゲーム『ワイプアウト』シリーズなどが先行してやってしまっていることから、やろうとすれば二番煎じになりかねない。ゆえにシリーズ化するにも限界があり、よほどのアイディアが出てこなければ将来的にゲームとして行き詰まる。そのような危機を生まれながらにして抱えていたのが『F-ZERO』というゲームだったのだ。

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