周防パトラ独立に、本山らの復帰。大手もいろいろ起きたVTuber業界あれこれ

周防パトラ独立など揺れるVTuber業界

周防パトラ独立。「大手からの独立」がもたらす影響とは

 VTuber業界にまた大きなインパクトが起きた。『ななしいんく』所属の周防パトラが、5月9日付で同事務所から離籍し、個人活動に転向することを発表したのだ。

 スマッシュヒットを叩き出したASMR作品を送り出したこともあり、『ななしいんく』の中でもトップクラスの知名度を誇る一人が、独立を発表したことはなかなかに衝撃的だ。今後はASMR作品の制作、グッズやマイク開発など、さらに活動の幅を広げることが発表されており、クリエイティブあふれる彼女にとってはより大きな飛躍となるだろう。

 独立にあたって、アバターやYouTubeチャンネルなどはそのまま引き継がれるとのことで、 IP関連を個人が買い取ったことが示唆される。この手の「IP買取による事務所離籍」はVTuber業界にも前例があるが、彼女ほどの規模となると前例はだいぶ少ない。同時に、「この規模でもIP買取離籍が成立する」という大きな事例ができたということでもある。VTuberというあり方の多様化につながるだろう。

 『ななしいんく』としては、大きなタレントが一人離れるのは純粋に痛手ではあるだろう。また、直近では当の周防パトラの単独ライブ開催時に連携トラブルも起こしており、事務所に対するファンからの印象はだいぶ悪化している。「風通しの良さ」を示す事例でありつつ、「離れやすい風土」はプラスにもマイナスにも作用し得る。新体制となって間もないが、今後の舵取りはかなり慎重にならざるを得ないだろう。

「ラノベ好き」から「電撃文庫の編集者」へ。1年ぶりの本山らの復帰は大きな転身とともに

【復活】本山らの、電撃文庫編集者になりました。【自己紹介】

 周防パトラ独立の報からほどなくして、なつかしい人物がVTuber業界に戻ってきた。昨年に活動を休止していた、黎明期から活動してきたラノベ好きVTuber・本山らのだ。5月10日、1年ぶりに現れた彼女は、「電撃文庫の編集者」という肩書を引っさげて復帰を果たした。

 昨年に大学卒業に合わせて活動を休止した彼女は、実は4月の時点でKADOKAWAに入社し、5月時点で電撃文庫編集部に所属。編集者としては2年目で、文庫書き下ろし作品を担当するまでに至っており、良い頃合いとして復帰したと経緯を説明している。今後は担当作品の紹介や、作家へのインタビューなど、「電撃文庫編集者 兼 VTuber」としての活動に意欲を見せている。

 「ライトノベルのファンが憧れのライトノベル編集部に加入する」という流れはまさにサクセスストーリーだが、その過程としてVTuberという媒体が関わっているのは興味深いところだ。やりたいこと、目指したいことを、名前や見た目からデザインできるのがVTuberのいいところだ。埼玉県バーチャル観光大使となった春日部つくしなど、近年は自らの夢を叶える個人VTuberが着実に増えている。

待望の3D化に、新スタジオ建設や詐欺事件――大手事務所動向

 大手企業事務所を見てみると、ついに『ぶいすぽっ!』からタレント3D化発表があったのが大きいだろう。早速、5月12日に一番手として胡桃のあ、英リサ、花芽すみれの3名の3Dお披露目配信が行われた。ここから6月半ばにかけて、全5回・総勢15人の3Dお披露目が行われるとのことだ。タレントの牽引力が強力な『ぶいすぽっ!』のメンバーが、ほぼ全員一気に3D化されることで、さらなる活動が今後期待されるだろう。

 『ホロライブ』運営のカバーは、テニスコート約10面以上の広さの、新たなスタジオを建設した。モーションキャプチャー機材「VICON」の最新機種「VALKYRIE」を約200台完備しており、建設に約1年半・総工費27億円も費やされた、国内トップクラスの設備になっているとのことだ。業界トップランナーだからこそなせるアクションだろう。その一方で「運営レター」という情報発信も新たに行うことを発表しており、ファンへの配慮も意識していることがうかがえる。

 『にじさんじ』運営のANYCOLORからは、「所属VTuberの名を騙る詐欺事件」が起きたと発表。「当社所属ライバーをはじめとした当社関係者は、取引関係にない方に対して金銭の支払を要求することはいたしません」と注意喚起を行った。まるでよい話ではないが、こうした事件で名前が引き出されるくらいの知名度を、VTuberも得てきたのかもしれない……という見方もできる。とはいえ、こうした事件はないに越したことないが。

 いい話も補足しておくと、「VTA(バーチャル・タレント・アカデミー)」の出身タレントが3D化したり、新たな公式番組『にじビアの泉』が発表されたりと、『にじさんじ』の動きは相変わらず活発だ。

 特に『にじビアの泉』は、グウェル・オス・ガールとフミの個人企画だったものが、「個人では手に負えないクオリティになったため運営に委任」という形で公式番組化したものとのことだ。こうした“適切な分業”が成立し、タレントがタレント活動に専念できることが、事務所のよいところなのだと思わされる。

 個人も企業所属も一長一短。それぞれがベストな形に気づくことが、幸福なVTuber活動の近道だろう。

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