スマホ版『VRChat』の登場がもたらす、“巨大な変化”とその未来

VRChatスマホ版がもたらす変化と未来

スマホ版『VRChat』は爆発的変化を起こすかも?

 つまり私の予想はこうだ。『VRChat』がスマホ版に対応することで、『VRChat』には「空間的コミュニケーション」を目的とした通話アプリとして使うユーザーが大量に流入し、VRを含む既存のユーザーこそが少数派になる。

 現在、『VRChat』のピーク時の接続数は全世界合計で8万人。うちPC-VRが1.5万人、デスクトップPCが2.5万人。残りの4万人程度がQuest版であることが各種統計から見て取れる。一方でAndroidのユーザー数は日本だけで5000万人を超え、高校生は300万人いるのだ。Androidユーザーの100人に1人(=50万人)、あるいは高校生の10人に1人(=30万人)がインストールしただけでも大きな勢力図の変化が起きるし、世界全体で同じようなことが起きれば、『VRChat』の常識はガラリと塗り替わる。

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 さらに、この変化こそがソーシャルVRの普及が一気に進む起爆剤になるのではないか、と私は見ている。

 ユーザー人口が増えることはもちろんだが、それ以上に理由として大きいのが「PC-VRがフル機能版で、その他は機能制限版」という現状のイメージから大幅に敷居が下がり、「スマホ版が基本で、VR版を使えばもっとリッチな体験ができる!」という逆転が起こることだ。友人とのしゃべり場として使い始め、使い慣れてからふと周りを見ると、面白いアトラクションや美しい景色がある。もっとそれを楽しめる環境が実はある……となれば、バイト代を貯めてVR機器を買う高校生や大学生がそれなりに出てくるという未来は、そう突飛な予想図ではないはずだ。

 そしてもう一つ、若者の間に浸透した時に起こるのが、我々が予想だにしなかった使い方と、新たな文化の発生だ。古くはポケベルに携帯電話、携帯メールやLINEも、作ったのは大人だが、その使い方を“発見”して、様々な新たな文化を作ってきたのはどれも若者だった。彼らは時間を持て余しており、これまでの歴史知らないがゆえに新しいものに対して柔軟で、その使い方をすぐに“発明”する。固定電話に慣れた頭の固い大人は、携帯電話の楽しい使い方を思いつかなかったし、PCのメールに慣れた大人よりも若者こそがメールを使いこなして文化を作った。

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 スマホ版の登場はそれと同じように、お金とVRゴーグルはあるが頭の固い大人から、柔軟で発明が得意な若者にソーシャルVRの重心を移し、新たな文化の発生を生み出すのではないか。そして10年後にはそれが社会の常識になる。それは我々がこの何十年か、繰り返し見てきた情景だったように思う。

 『cluster』のスマホ版は、2年の間にそうした未来の可能性を垣間見せてきた。

 遅れてやってきた『VRChat』スマホ版という大波が、今度こそ新たな時代の扉を開く衝撃となることを楽しみに待ちたいと思う。

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