M-1敗者復活戦2位・令和ロマンは全ネット民に刺さる? 「特定の人にだけ分かるネタ」を散りばめる漫才の魅力とは
『M-1グランプリ2022』敗者復活戦で全ネット民ブチ刺さり漫才「ドラえもん」を披露し大きな爪痕を残した令和ロマン。角度によっては菅田将暉にしか見えない髙比良くるま(ボケ)と、普通にウルフ・アロンにしか見えない松井ケムリ(ツッコミ)2人組で、元々は慶應義塾大学のお笑いサークル「お笑い道場O-keis」の先輩後輩の関係性で「魔人無骨」という物騒な名前で活動していたコンビだ。
2019年に「令和ロマン」と改名して以来、『ゴッドタン』の「この若手知ってんのか2019」の「『こいつは天才だ!』と一目置かれている芸人」でかが屋に次ぐ第2位に選出、2020年に開催された『第7回NHK新人お笑い大賞』で優勝を飾るなど、着実にネクストブレイクの階段を爆走している。そんな彼らの魅力は自身のYouTubeチャンネルで存分に味わうことができる。
敗者復活戦前にアップされた「敗者復活戦の攻略法を考えよう!」を見れば令和ロマンがどんな芸人なのかが一瞬で分かってしまう。開始1分で「十中八九、ミキかオズワルドでしょ」「本当は諦めたい」とブッこみつつ、その上でいかに戦略的に「勝つか」を話していた。
まず、令和ロマン運営陣が注目したのは「面白いと思った3組を選んで投票」の部分だ。人気も知名度もあるミキやオズワルドが選ばれることは大前提としつつ、いかにキミファンとオズワルドファンの3組に選ばれるか。そこで出た案は「前半はミキ、後半はオズワルドに寄せた漫才をする」だった。さらに、仮に令和ロマンが順当に勝てそうになってしまうと本命の芸人がいる視聴者は投票しない可能性がある。そこで「どうせこいつらは上がれないだろうけど面白かったから入れてあげるか」という同情票を集められそうなネタをすれば、漁夫の利的な勝ち上がり方をするのではないか、といった見立てだ。それに加え「ネタ中に車の音が鳴ったらわざと動揺して世紀のアホを演じネットでバズらせる」「アノニマスにお願いする」「OPPOのスマホか小さいテレビを40万台購入する」という画期的な作戦を次々と考案。敗者復活に向けて盤石の状態を築き上げていた。
結果として惜しくも決勝進出は叶わなかったが、オズワルドに次ぐ、2位という素晴らしい結果を残した。前述の作戦をどれだけ実行したのかは分からないが、前述したように「今年は相方が下着でUSJ行って……」「ドラえもんのオープニング歌ってるのMOROHA?」などネット民がヨダレを垂らして喜ぶパワーワードを連発し、ネタ後は「令和ロマン」の名前が見事Twitterのトレンド入りを果たした。紹介した作戦は実際はどれも「おふざけ」だが、タイムラインを見てもほとんどの視聴者が投票した3組の中に令和ロマンを選んでいた。
そんな令和ロマンの漫才はチャンネル内でも何本かアップされているのだが、『ワンピース』『名探偵コナン』『エヴァ』『ちびまる子ちゃん』など、アニメや漫画を題材にしたものも多く、そのどれもが圧倒的な知識量に裏打ちされている。漫才『ワンピース』では『バレーボール使い 郷田豪』『瞳のカトブレパス』『斬』など、かつて週刊少年ジャンプで連載されていた短期連載漫画を盛り込み、観た人間を懐かしさと切なさで爆発させていた。この「分かる人間にだけ分かるネタ」を随所に散りばめることで的確にツボを刺しにくるのが令和ロマンの魅力のひとつだ。
また企画モノの上手さも尋常ではない。ひろゆきのAI音声「おしゃべりひろゆきメーカー」が流行していたときは、いち早く漫才に取り入れ、世界初の「ひろゆきとの漫才」を実現させた。また、先輩芸人に失礼なLINEを送りどれだけの時間を送信取消せずにいられるかを競う「先輩LINEチキンレース」、アーティストのミュージックビデオのコメント欄で笑ったら負けの「コメント欄にらめっこ」など、斬新で攻めた企画を次々とアップし続けている。
彼らの芸風を例えるなら「一度入ると二度と出ることの出来ないブラックホール」。常にアンテナを張り巡らし面白いと思ったものはなんでも芸に取り入れる高比良くるまと、くるまの斜め上から繰り出されるボケを絶対に逃さず的確かつ鋭いツッコミを入れる松井ケムリ。元号の名前を冠したこの2人が令和に爆売れしないはずがない。