霜降り明星せいや、とろサーモン久保田……芸人×ラッパーの化学反応がアツい『フリースタイルティーチャー』
ラップ好き芸人やタレント、アイドル、YouTuberに、現役ラッパーがそのテクニックを伝授しバトルに挑む番組『フリースタイルティーチャー』(ABEMA)がアツい。
番組MCをZeebraと青山テルマが務め、指導役のラッパーにはKEN THE 390、DOTAMA、TKda黒ぶち、輪入道、サイプレス上野、裂固、ID、崇勲、SAM、掌幻、晋平太、ダースレイダー、NAIKA MC、COMA-CHI、FORK、PONEYなどメンバーを見るだけでもこの番組が単なるバラエティの枠に収まらないのがメンバーを見るだけで伝わってくる。『フリースタイルダンジョン』最終回でZeebraが「ダンジョンはMCバトルの番組としてはすごくいい形でやれたなと思っているんだけれども、ヒップホップっていうカルチャーのいい部分が伝わらなかったみたいな指摘もちょっとあったんで、ちゃんと教える。ヒップホップを」と語っていたように、芸能人たちを介することでよりヒップホップ、ラップの文化を一般人にも身近に感じてもらいたいという狙いがあるという。その熱量は回を重ねる毎にどんどん増していく。
なかでも一番の盛り上がりを見せているのがseason5からスタートした「芸人界最強ラッパー決定トーナメント!」だ。普段から良い面も悪い面もよく知っている者同士だからこその面白さがある。また『フリースタイルティーチャー』の最大の魅力はなんと言っても指導役のラッパー達と生徒役の芸能人達との化学反応だと思うのだが、特に「芸人×ラッパー」の相性は「最高」の一言だった。ラッパーたちは生徒それぞれの個性を最大限に活かしながら自分たちが培ってきたスタイルを教えていくのだが、ヒップホップの精神や技術を徹底的に教え込む者もいれば、芸人であるということを活かして個性を伸ばす者もいる。
たとえば、ザ・マミィの酒井貴士や中山功太は、テクニックそのものよりも「人としての面白さ」で勝つスタイルだ。酒井は自分の「クズ」というキャラクターを存分に活かし「借金」や「ギャンブル」など自分の土俵に相手を引きずり込む力がすごい。中山功太は持ち前の「毒」「卑屈さ」でもって相手を圧倒していくのだが、あまりに鋭いパンチラインの数々に他の芸人達が「言い過ぎ」とツッコんでしまうほどだ。反対にからし蓮根の杉本青空や溝上だんぼは、ラップの基礎体力がかなり高く、本職のラッパーたちにも負けずとも劣らないスキルフルなフロウを披露しており、芸人によってまったく違う色のラップを観られるのが本当に面白い。
ゆりやんレトリィバァや霜降り明星のせいやは、そのちょうど中間のような存在で、ゆりやんは小ボケや下ネタを存分に散りばめた上で、ほかの出演者の誰よりもラップというものを楽しんでいるのが伝わってくる。どんなに辛辣なディスり合いをしてもそこに1ミリの悲壮感もない。ゆりやんのバトルではいつも爆笑が起き、気が付けば誰もがゆりやんのペースにハマっていく。せいやは相手に突かれそうなポイントに対し最適解のアンサーを返していく。特に「第二回 芸人界最強ラッパー決定トーナメント」でmckjとのバトルでは「つまりお前は粗品の粗品」「感覚で粗品の台本で踊らされてるだけ」と突かれるも「粗品は俺にとっての豪華賞品やアイツは最高 お前とおったらおもんない アイツとおったらおもろいわ」とET-KING『愛しい人へ』のパンチラインを引用して返すなど、アドリブ力とボケの強さが飛び抜けていた。
きつねの淡路や#久保田(とろサーモン久保田)はその圧倒的な個性で唯一無二のスタイルを確立している。淡路は独特のリズム解釈とフロウの癖でまるでステージ上で踊っているような飄々としたラップを披露しており、#久保田は相手にどんなパンチラインを撃たれようがまったく意に介さない鋼のメンタルの持ち主で、相手が決めに来たらスッと引いてペースを狂わせるなど、クレバーな一面も持っている。もはやこの2人のラップでしか得ることのできない快感がある。
教える側も教えられる側も「本気」だからこそこれほどまでアツいコンテンツになっているのだと思う。ラップ好きだけでなく普段ラップに触れてこなかったという人にも観てほしい番組だ。