Yossyとスイニャンが振り返る“2022年のeスポーツ”【前編】 「コロナ禍で進んだ観戦体験と失われたオフライン文化」
2021年の市場規模が78.4億円を記録し、2025年度までに約180億円の成長が予想される国内eスポーツ産業。2022年度はコンシューマー・PC・モバイルゲームと各プラットフォームでさまざまなタイトルがリリース&運営されるとともに、『VALORANT』において世界3位という快挙を成し遂げたZETA DIVISIONなど、日本人選手の活躍が大きく報道される1年でもあった。
また、有観客のeスポーツイベントに大勢のファンが押し寄せたことも印象深い。東京ガーデンシアターやさいたまスーパーアリーナなど、大規模な会場をeスポーツファンが埋め尽くす光景は近年稀に見る好例と言っても過言ではないだろう。そんな賑わいを見せるeスポーツシーンにおいて、日々の情報発信を生業とするのがYossy氏とスイニャン氏だ。
2002年からeスポーツ情報サイト「Negitaku.org」を運営するYossy氏は『Counter-Strike』をはじめ、実に20年近くにわたってさまざまなeスポーツタイトルと向き合い、鮮度の高いトピックをコミュニティへ常に提供している。商業メディアでライターとして従事するスイニャン氏は、eスポーツの本場・韓国で培った豊富な知識および経験を持ち、競技シーンで活躍する韓国人選手の通訳もこなす。数多の広がりを見せるeスポーツシーン全体を追っているわけではないものの、両者ともに得意分野で精力的なアウトプットに努めている。
リアルサウンドテックでは、Yossy氏とスイニャン氏によるeスポーツ対談を企画。前編ではお二人のキャリアや交流のスタート地点をはじめ、コロナ禍で激変したeスポーツ業界の現状、印象深かった出来事を振り返ってもらった。
一人のファンから発信者へ Negitaku.orgが繋いだeスポーツ交流のはじまり
――本日はよろしくお願いいたします。まずはお2人の経歴からお願いします。
Yossy:eスポーツ情報サイト「Negitaku.org」(negitaku)を2002年から運営しているYossyと申します。個人メディアとして取材したり、収集した情報の公開を20年間続けています。最近はポッドキャスト「電競元年ラジオ」やYouTubeでのインタビュー企画「GEAIM」などを始めたり、試合の切り抜き(クリップ)も投稿しています。最近だと「いつも切り抜きを見ています」とお声がけいただくことが増えていて。周りからの評価は自分だと全然分からないので、みなさんの言葉をありがたいと感じています。
スイニャン:eスポーツライター・通訳者のスイニャンといいます。私は韓国在住だった2006年ごろ、最初はテレビで『StarCraft』の競技シーンを見ていた一般のファンだったんです。試合が行われている会場が近かったこともあり、時間がある時は足を運んで見に行ったりとか。本当にただ楽しんでいるだけのファンでした。ただ、当時はeスポーツを韓国独自の文化だと思っていたんですよね。私自身が日本と離れていたし、韓国では当たり前になっていたから。「友だちの弟がプロゲーマーになった」とか、それを聞いて「すごいね」といった感じで。周りにもファンがいたし、生活圏内にeスポーツが入っていました。“日本にもeスポーツを知っている人がいる”と知ったのは、韓国のゲーム専門チャンネルで放送されていたeスポーツニュースでしたね。「韓国の有名プロゲーマーが日本のイベントに招待された」と流れて、私は日本の状況を一切知らなかったから「えっ!」って驚いて調べたら、Yossyさんのnegitakuが検索でヒットしたんです。
Yossy:たしか2007年の「eスポーツ日韓戦」だったかな。当時のJESPA(日本eスポーツ協会設立準備委員会)が「eスポーツを普及させる」という意気込みで動いていた気がします。僕がその発表を見て書いた記事をスイニャンさんが知ってくれたんだよね。
スイニャン:私は来日したプロゲーマーを韓国で先に見ていて、「日本でもeスポーツに需要があるなら私ができることもあるんじゃないか」と思って。だから選手のインタビューを日本語に翻訳した記事をYossyさんへ送っていました。熱くなっちゃって(笑)。
Yossy:そうそう、いっぱい送ってもらった気がする(笑)。スイニャンさんがnegitakuの情報提供フォームにメッセージを送ってくれたんですよ。これは面白そうだと思って「お願いします」と伝えたら熱量がすごくて。僕も韓国が(eスポーツで)すごい国なのは知っていましたが、改めて興味深い話を教えてもらって。オンラインでやり取りしつつ、色んな情報をnegitakuに掲載させていただきました。実際に会ったのは2008年の『Electronic Sports World Cup』だったかな。国際大会の日本予選が五反田で行われて、現地に来ていたスイニャンさんに声をかけてもらいました。
スイニャン:そうそう。私もさっき思い出した(笑)。
Yossy:そのころからeスポーツ通訳としてのキャリアは始まっていたの?
スイニャン:執筆が先で、あとはnegitakuで知り合った『StarCraft』コミュニティのSugeoさんという方の個人ニュースサイトに寄稿してました。両方で執筆するうちに、初めて「GAMER'S EXPRESS」から声をかけてもらって。そこで書いた記事を読んだ方々から誘っていただいて……というのが商業メディアデビューになります。ほかにも自分でブログをやっていたし、いろんな場所でアウトプットはわりとしていたのかな。通訳に関しては2015年の夏からです。『LEAGUE OF LEGENDS JAPAN LEAGUE 2015』の開幕戦を取材してほしいと連絡が来て、現地に行ったら韓国人選手が結構入っていたんです。その時、「生放送のインタビューで韓国人選手に取材したいけど、言葉が通じないから通訳してくれないか」とその場で言われて。それからオフラインイベントのたびに取材で呼ばれるけど、なぜか通訳も担当することになりました。私はおそらく通訳で知られるようになったんですよね。「通訳の人がライターもしてるんだ」みたいな。
Yossy:スイニャンさんは(通訳者として)姿が出ているから分かりやすいのかな。いまも“eスポーツ通訳のスイニャンさん”として見られる方が多いの?
スイニャン:うん。声をかけられるときも通訳でイベントに参加しているときが多いと思う。そこで感じたのは、Yossyさんは試合動画の切り抜きをやっているじゃないですか。私もTwitterで韓国のeスポーツ大会関連のインタビュー翻訳をしていて、そっちで知った人も最近増えています。