『ダンジョンズ＆ドラゴンズ』『マジック：ザ・ギャザリング』『Mörk Borg』── テーブルゲームの「音楽的アプローチ」に注目

著名ヘヴィ・メタル・バンドとタイアップした『カルドハイム』

　リチャード・ガーフィールドがゲームデザインを手がけ、Wizards of the Coastから1993年に発売された『マジック：ザ・ギャザリング』は、トレーディングカードゲームを一つのゲームジャンルとして確立させたエポックメイキングなタイトル。まもなく30周年を迎える一大コンテンツだが、意外なことに公式からの”音楽的な”プロモーション展開は近年までほとんどなかった。しかし、2021年2月5日に発売された拡張セット『カルドハイム』を契機として状況に変化が訪れる。

　北欧神話を主なモチーフとし、ヴァイキングや北欧のヘヴィ・メタルをキーワードに盛り込んだ世界観を打ち出した『カルドハイム』は、発売前に公式アカウントが「Kaldheim's Week of Metal」と銘打ち、Mastdon、ANGRA、Torche、Smoulder、RHAPSODY OF FIRE、Oceans of Slumber、AMON AMARTHといった世界各国のメタルバンドとのタイアップ（バンドの公式SNSアカウントを通じて最新カードの一部が先出し公開された）や、バンドの楽曲をまとめたSpotifyプレイリストを公開。日本ではマーティ・フリードマンを公式イメージギタリストとして起用し、”ヘヴィな”プロモーションを積極的に展開した。

　さらに、発売直前の2021年1月30日には「Kaldheim Metal Radio」と題した50分におよぶイメージサウンドトラックがYouTubeチャンネルで公開されている。作曲者／演奏者のクレジットは明記されていないものの、秀逸なシュレッド・メタル系インストゥルメンタルのオンパレードであり、プロミュージシャンが関わったものであることは間違いないだろう。

『神河：輝ける世界』公式サウンドトラック登場

　2022年2月18日に発売された拡張セット『神河：輝ける世界』は、2004年と2005年に発表された日本モチーフの一連の拡張セット「神河ブロック」（『神河物語』『神河謀叛』『神河救済』）の1200年後の世界を舞台に、サイバーパンクのエッセンスを加えた続編。本作の世界観をイメージした『Kamigawa: Neon Dynasty Official Soundtrack』がセット発売日に配信され、『マジック：ザ・ギャザリング』シリーズ本邦初の公式イメージサウンドトラックとなった。

　音楽制作陣には、シンガーソングライターのカレブ・ハイルズ、ミッシェル・ヒーフィー、OR3O、作編曲家のGenuine、insaneintherainmusic（カルロス・エイネ）、ヘヴィ・メタル・バンド TRIVIUMの中心人物であるマシュー・キイチ・ヒーフィー、ヴァイオリニストの赤星友子、シンセサイザー奏者のエイミー・ウォーターズ、マルチインストゥルメンタリストのジョナサン・ヤング、ザック・ジンガー、トレ・ワトソンといった実力派アーティストが参加。音楽系YouTuberとしても絶大な人気を誇るヤングの表現力豊かなヴォーカルパフォーマンスや、尺八奏者としてプログレッシヴ・ジャズ・カルテット Zac Zinger Groupや、日本の伝統音楽とジャズの融合を目指すデュオ KAIでも活動を展開するジンガーの非凡なアレンジセンスを中心に、ぶ厚いエレクトロビートと和楽器の音色をたくみに織りまぜた和洋折衷なシンセウェイヴチューンを聴かせる。

日本発の『神河：輝ける世界』イメージソング

　日本側からの発信では、2月3日付で初音ミクとのコラボレーション曲「Connected」のミュージックビデオが公開。同曲は透明感あふれるエレクトリック・ダンス・ミュージックを得意とするMWK（Wakuwaku Miwaku）の作詞・作曲で、和風サイバーパンクの世界をソリッドなトラックで表現している。楽曲は2月11日に配信され、その後、11月15日付で同曲を含む6曲入りのEP『Connected EP』が配信された。

　続いて、2月16日付でTK from 凛として時雨 with 稲葉浩志（B'z）とのコラボレーション曲「Scratch」をフィーチャーしたアニメーショントレイラー映像（映像制作はWIT STUDIOとmaxilla）が公開。TKの作詞・作曲による同曲は、TKと稲葉のハイトーンヴォーカルがピアノとストリングスを交えたバンドサウンドをバックに共鳴してゆくパワーバラードで、放浪皇と漆月魁渡の身分を越えた友情、両者のつかの間の再会、そして再びの別離をエモーショナルに喚起させる。楽曲は2月17日にデジタル配信され、3月16日にTK from 凛として時雨名義の両A面シングル「As long as I love/Scratch（with 稲葉浩志）」としてCD発売された。

『ニューカペナの街角』公式サウンドトラック登場

　2022年4月29日に発売された『ニューカペナの街角』は、「土建組」「常夜会」「貴顕廊」「舞台座」「斡旋屋」の五つの一家が牛耳る大都会ニューカペナを舞台とする拡張セット。こちらも発売同日に公式イメージサウンドトラックが配信された。

　『神河：輝ける世界』のサウンドトラックに引き続き、ジョナサン・ヤング、カレブ・ハイルズ、ミッシェル・ヒーフィー、マシュー・キイチ・ヒーフィー、insaneintherainmusic、エイミー・ウォーターズが参加し、ヤングは全作曲とプロダクションディレクターも務める。そのほか、ヴォーカリストのannapantsu、Sapphire（キャシー・エウル）、クリスティーナ・ヴィー、作編曲家のアレックス・ムカラ、オーケストレーターのエム・ヤング、ギタリストのリアム・マクラフリンが参加。ビッグ・バンド・ジャズとメロディアスなポップチューンがアダルトなムードを演出しつつ、時にデスメタルも交えて一大犯罪都市の光と闇を活写している。