『ダンジョンズ&ドラゴンズ』『マジック:ザ・ギャザリング』『Mörk Borg』── テーブルゲームの「音楽的アプローチ」に注目

テーブルゲームの「音楽的アプローチ」に注目

 ビデオゲームのサウンドトラックやコンポーザーを中心に紹介してきた本コラム連載だが、今回はテーブルゲーム(非電源系ゲーム)と音楽の関係にクローズアップしたい。

 2022年はトレーディングカードゲーム『マジック:ザ・ギャザリング』の拡張セット『神河:輝ける世界』『ニューカペナの街角』のイメージソング/サウンドトラックや、テーブルトークPRG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のキャンペーンセット『Spelljammer: Adventures in Space』のイメージアルバムが発表され、「テーブルゲーム音楽」においてトピックとなる出来事が相次いだ。また他方では、ドゥーム/エクストリーム・メタルがゲームの世界観と密接に結びついた陰惨にして激烈なテーブルトークRPG『Mörk Borg(モルクボリ)』が昨今とみに注目を集め、プレイヤーやクリエイターからの熱狂的な支持を獲得している。これらの作品から、テーブルゲームの「音楽的アプローチ」をみていきたい。

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【目次】
『ダンジョンズ&ドラゴンズ』イメージアルバムの今昔
・1985年、最初の音楽的冒険
・Midnight Syndicateによる公式サウンドトラック登場
・マルチバースに鳴り響くインディー・ロック・サウンド

積極的な音楽的アプローチを近年展開する『マジック:ザ・ギャザリング』
・著名ヘヴィ・メタル・バンドとタイアップした『カルドハイム』
・『神河:輝ける世界』公式サウンドトラック登場
・日本発の『神河:輝ける世界』イメージソング
・『ニューカペナの街角』公式サウンドトラック登場

ファンコミュニティが音楽面でも活発な動きをみせる『Mörk Borg』
・ダンジョン・シンセと共鳴した公式サウンドトラック
・クリエイター同士のヘヴィなコラボレーション『Putrescence Regnant』
・和風ドゥーム・メタル的世界観で呼応した『信長の黒い城』
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『ダンジョンズ&ドラゴンズ』イメージアルバムの今昔

1985年、最初の音楽的冒険

 ゲイリー・ガイギャックスとデイヴ・アーンソンがゲームデザインを手がけ、1974年に発売された世界で最初のロールプレイングゲーム。そして、テーブルトークPRGのジャンルを代表する存在として世界中でプレイされている『ダンジョンズ&ドラゴンズ』。その最初のサウンドトラックの登場は1985年のことであった。『First Quest - The Music』は、イギリスの音楽出版会社 Filmtraxからレコード(2枚組)とカセットの仕様で発売され、限定的に流通した。

 アルバムジャケットには、ガイギャックスが1979年に著した『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ』ルールブック『Dungeon Masters Guide』の新装版(1983年刊行)の表紙を飾ったジェフ・イーズリーのイラストレーションが使用され、アルバムのインナーにはゲームセッションに使用できるアドベンチャー・モジュールとマップが収録されている。音楽面では、シンセ・ポップ・バンド Expandisのデイヴ・ミラーとフィル・ソーントンが中心的に携わったほか、The Holliesにキーボーディストとして在籍していたデニス・ハインズや、Sharksのヴォーカリスト スニップスことスティーヴ・パーソンズらが楽曲を提供。

 いずれも湿り気を帯びたダークなシンセサイザーサウンドで統一され、ミステリアスな雰囲気を演出し、垢抜けないポップ感もふくめて味わい深い。随所に挿入されるナレーションには、テレビシリーズ『ドクター・フー』のいくつかのエピソードでブラック・ガーディアンを演じたヴァレンタイン・ダイオールが起用され、彼の最晩年における参加作品となった。

Midnight Syndicateによる公式サウンドトラック登場

 1974年から20年あまりにわたって『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の出版を手がけたTSRは、『マジック:ザ・ギャザリング』の出版で急成長の最中にあったWizards of the Coastによって1997年に買収され、解散した。Wizards of the Coastは、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(入門者向けのベーシックセット)と『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ』(上級者向けの改訂版)に分かれて展開されていたシリーズラインを一本化する計画に着手し、『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ』のルールシステムを大幅に見直したものを『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第3版として2000年に発売した。

 『First Quest - The Music』以来となる公式サウンドトラックの登場は、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第3.5版が発売された2003年のことであった。同年8月に発売された『Dungeons & Dragons Official Roleplaying Soundtrack』は、長年にわたり『ダンジョンズ&ドラゴンズ』をプレイしてきたエドワード・ダグラスとギャヴィン・ゴスカによる仮想サウンドトラック・ユニット Midnight Syndicateが全面的に音楽を担当。

 ジョン・ウィリアムズの映画音楽やエドガー・アラン・ポーの作品、そして数多の古典ホラー映画などからの影響を濃厚に投影したゴシック・ホラー系エピック・シンフォニー/ダーク・アンビエントを得意し、多くのテーマパークやハロウィンイベントなどの音楽に使用されてきた実績を持つユニットの面目躍如たる内容となっており、聴き手のイマジネーションを存分にかき立てる。余談だが、本盤はかつてホビージャパンのオンラインショップで販売され、購入特典として「おすすめサウンドトラック指定つき」のシナリオが付属した。

マルチバースに鳴り響くインディー・ロック・サウンド

 『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第5版のキャンペーンとして2022年8月16日に発売された『Spelljammer: Adventures in Space』は、『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ』第2版(1989年発売)で設定された、宇宙を舞台にしたキャンペーンセットを現行版向けにリニューアルしたタイトル。同作のイメージアルバムとして制作され、セットの発売と同日にインディーズレーベル Kill Rock Starsから配信されたコンピレーションアルバムが『SPELLJAMS』だ。とにかく幅広い音楽ジャンルを網羅していることにまず驚かされる。

 参加アーティストはエレクトロ・トリオのMagic Sword、ガレージ・ロック・バンドのOsees、コメディアン/ミュージシャンのレジー・ワッツ、サイケデリック・ロック・バンドのTEKE::TEKE、Nolan Potter's Nightmare Band、シンセ・ポップ・ユニットのBlack Marble、シンガーソングライター/ハープ奏者のミカエラ・デイヴィス、インディー・ポップ・バンドのLucius、Y La Bamba、フォークデュオのPenny & Sparrow、電子音楽家/プロデューサーのケイトリン・オーレリア・スミス、ベースプレイヤーのMonoNeon、ソウルシンガーのデヴォン・ギルフィリアン、ヘヴィ・メタル・バンドのRED FANG、コンポーザー/プロデューサーのDeru(ベンジャミン・ウィン)、シンガーソングライターのアルージ・アフタブ、エクスペリメンタル・ロック・バンドのCalifone、ヒップホップユニットのShabazz Palaces、プロフィール不詳の謎めいたユニット Cardioid & pink paint、Wizard of Waz。

 アルバムプロデューサーは、ポートランドを拠点とするインディー・ロック・バンド The Decemberistsのギタリストであり、熱心な『ダンジョンズ&ドラゴンズ』プレイヤーであるクリス・ファンク。『Spelljammer』リードゲームデザイナーのクリス・パーキンスとの二人三脚のもとに構想し、バンド/ミュージシャン仲間を呼び集め、各アーティストは本作のアドベンチャー・モジュール「Light of Xaryxis」にインスパイアされた楽曲を制作。

 マルチバースな世界観に対する音楽的挑戦は、最終的にアルバム2枚分に及ぶボリュームへと膨れ上がった。ゲームセッションのための音楽としてのみならず、インディー音楽シーンを鮮やかに切り取ったコンピレーションとしても刺激的な内容だ。レコード2枚組仕様のパッケージ版も制作されている(2023年2月発売予定)。

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