クレイトスは”究極の不器用で優しいお父ちゃん” 声優・三宅健太が『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』主人公に感じた、子を持つ父としてのシンパシー

三宅健太氏インタビュー 『GOW ラグナロク』を語る

 2022年11月9日、「ゴッド・オブ・ウォー」シリーズの最新作である『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク(以下、ラグナロク)』が発売された。北欧神話における終末の日を題材とした同作はアクションゲームとしての完成度もさることながら、重厚なストーリーなどにも注目が集まっている。

 今回は『ラグナロク』および前作『ゴッド・オブ・ウォー』で主人公クレイトスを演じた声優の三宅健太氏から、作品についての話を聞くことができた。(編集部)

――今作のクレイトスを演じるにあたり、やりがいを感じた点や、楽しかったところは?

三宅:前作から声を担当させていただいてるのですが、そもそも、クレイトスを演じること自体がやりがいですね。今作の『ラグナロク』に関しては、自分の父親としての気持ちにすごくシンクロするところが多々あって、演じているというよりは、その立場を使わせていただいてパーソナルなところをすごく出せているという感覚です。

――三宅さんにもお子さんがいらっしゃいますが、クレイトスと父親としての自分が重なるところがおありなんですね。

三宅:そうですね。2作通じても「やっぱり息子とぶつかるんだな」っていう。しかも息子であるアトレウスはどんどん成長していて、自分の運命や進むべき道を見つけて自我に目覚めていくので、本当に自分の子どものように感じます。仕事中でも、息子を見続けてるような気持ちになりますね。

――そういった気持ちを特に強く感じるのは、どんなときですか。

三宅:やはりアトレウスとの会話ですね。クレイトスはアトレウスになにかを言い聞かせるとき、彼の頭をスッとつかむんですよ。「有無は言わせないぞ。いいから聞けよ」っていう力づくの不器用さが全開に出てて。でもだいたいそういうときは困ってるんです。「なんで聞いてくれないの! パパの言うこと聞いて!」って(笑)。一方で、自分から彼の頭をスッと持っていって、「大丈夫だ、大丈夫だ」と優しく包み込むこともあるんです。そういうちょっとしたやり取りの違いなんかが、実生活の息子とのやり取りとも重なりますね。

クレイトスは究極の不器用で優しいお父ちゃん 声優・三宅健太が『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』主人公に感じた、子を持つ父としてのシンパシーの画像1

――では、逆にクレイトスを演じている中で難しかったり、苦労された点はどんなところでしょうか?

三宅:クレイトスが言葉で相手を説得しようというキャラクターではないので、本来伝えるべきことも言葉ではあえて伝えなかったり、 伝えられなかったりするところがありますね。自分の心の中では爆発させている大きい感情と、表面に出すワードの少なさにすごくギャップがあって、その相反するエネルギー量をどう表現して、1つにまとめるかは毎回苦心します。「ウワッ!」って叫んでいれば、その強さや勢いに乗せていくらでも大きくやっていけるんですけど、クレイトスはそうではないので。

特に葛藤しているときのクレイトスというのは、どんどん自分を押し殺していくんですよ。声には出さない、息遣い、表情だけになっていく。 そうなってくると、声をやってる僕らとしては表現する幅が限られたり、違和感が出ないように演技をしていかなければいけないんですが、その大きい振り幅をいかに自分の中で処理して埋めていくかというのは、本当に悩みますね。

クレイトスの気持ちには何百ページに書いても収まりきらないぐらいの葛藤があるので、 自分の心の中でセリフとセリフの間にちゃんと意識を保てるかという集中力も必要です。苦労をそのまま「苦労した」と出せればもう少し気は楽なんですけど、そうではないので。

――いまのお話を聞いていても、やはり三宅さんがクレイトスに重なる部分が多いから、そのように感じられるのかなと思います。

三宅:僕が勝手に重ねている部分はあるんですけれども……重ねちゃいますね(笑)。でも、それがあるからシーンを順不同で録ったとしても、気持ちが切れずに一声出していけるという良さもあります。

――以前にクレイトス役を務めていた玄田哲章さんと声優を交代される際、「彼の過去の演技を聞かないようにしていた」という過去のインタビューを拝見しました。今回のお仕事を経て、三宅さんの中には「クレイトスはこんな男だ」というイメージはありますか。

三宅:もちろん先輩から学ぶものは多いにあるのですが、今回の『ゴッド・オブ・ウォー』では、「新しいスタートを切る」というお話をうかがっていました。それまでを踏襲してやるというのも1つの表現方法だし、それはそれで素晴らしいと思いますけど、今作ではそれまでにはなかった、父親という新たな材料が加わっています。なので本当に新たなクレイトスを作り上げていくなかで、僕の中では「一線を引かなきゃいけない」と思っちゃったんですよね。実際、アトレウスという新たな大きな存在が来てからのクレイトスっていうのは、僕も「生まれ変わったぐらいに思わないと演じられないよな」と思ったんです。

だから先輩には「ごめんなさい」という気持ちをもちつつ、今回は「神であるのと同時に、父親であるクレイトスをやろう」と、自分の中で区切りをつけました。本当に生きざまや戦う姿だけですべてを伝えようとする、“究極に不器用で優しいお父ちゃん”というか。

クレイトスは究極の不器用で優しいお父ちゃん 声優・三宅健太が『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』主人公に感じた、子を持つ父としてのシンパシーの画像2

――背中で語るタイプの父親みたいな。

三宅:多分そうなれたら、また物語が違ったんでしょうね。ところが、このアトレウスがまたすごく壮明な子なんですよ。でも心情面ですごく未熟な部分もあって。アトレウスはお母さんでありクレイトスの妻であるフェイ譲りの冷静で懐の深いところをもちつつ、本人なりの頑固さを秘めている。だから、クレイトスとぶつかるんです。「背中で語ってんのね。でも、言ってくれなきゃわかんないよ!」と正面から言えちゃうし、「父さん……」と自分の中で何も言わずに納得するところもまたかっこいい。

『ゴッド・オブ・ウォー』に関しては、そういうやり取りも面白くて。背中で語りたいんだけど、語らせてもらえないお父さんという一面が見られるんです。だからクレイトスはつたないなりにも、まるで戦いの作戦を練るように、自分で言葉をちゃんと選んでいくんですよね。こういう、アトレウスとクレイトスの感情のぶつかり合いの奇妙なずれ感が、独特の関係性を生んでいるように思えます。

――アトレウス役の村中知さんとは、お仕事でお話をする機会はありましたか。

三宅:ちょうど収録が始まった当初がコロナ禍になったこともあって、現場で役者同士で 一緒になる機会がちょっと減った時期でした。ただ偶然、『ゴッド・オブ・ウォー』の収録ではないところで村中さんとお会いする機会があって、「次回からアトレウス役を担当します」と言われ、すごくドキドキしました。前作は小林由美子さんだったので、つまりアトレウスが声変わりをしたんですよね。

幼かったころと年ごろを迎えたときって、やっぱり人ってまたパーソナルが変わってくるじゃないですか。だから、今回村中さんが演じたアトレウスを聴いて、「どっちもアトレウスだ。年ごろのアトレウスはこうなるんだ」と。彼女もすごくプレッシャーだったと思いますが、僕の中にはすんなり入ってきましたね。 不思議なもんで、やっぱりアトレウスはアトレウスなんです。

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