サイコアドベンチャー『エターナルダークネス ~招かれた13人~』20周年 いまも放ち続ける独自性とは

GCソフト『エターナルダークネス』20周年

 数千年の歴史をさかのぼって描かれる12章のストーリーも見所が多い。そして、2022年現在の視点で見ても、任天堂のゲームとしては異様だ。

 とにかく全編に渡って暗く、救いが少ない。ついでに非常に血生臭い。本作の発売当時はCEROレーティングの制度が始まる前だったため、対象年齢は未設定なのだが、2022年の基準に当てはめれば、D(17歳以上対象)は不可避といってもいいほどだ。

 そもそも、ストーリーの始まりからして、主人公アレックスの祖父、エドワード・ロイヴァスが何者かに惨殺され、死体になって発見されるというものである。いきなり容赦がない。

 さらにエドワードは「選ばれし者」、すなわち主人公のひとりである。本作ではそんな重要人物が、早々に退場してしまうのだ。だが、あくまでも退場するのは西暦2000年のエドワード。プレイヤーが操作するのは過去のエドワードとなる。「じゃあ、残る10人とアレックスが辿る結末って……?」と、この時点で将来の展開への不安を抱かせる。

 そして、実際に本番が始まるとそれに応えるかのように、救いのない展開が相次ぐのだ。念のため、「選ばれし者」全員が悲惨な結末を迎える訳ではない。救いもちゃんとある。だが、全体的にはかなり少なく、それもあって重苦しいストーリーにまとめられている。任天堂のゲームにも、重苦しいストーリーを描いた作品は他にもいろいろとあるが、本作は2022年現在でも三本の指に入る重苦しさ、といっても過言ではなかろう。

 それがかえって本作の独自性を際立たせていると同時に、2002年当時も、話題の3作(マリオ、フォックス、ゼルダ)とは一線を画す存在感を醸し出していた。また、ストーリーでは小説的な言い回しが多用されているのも大きな特徴となっている。

 そのため、作中のテキストの量も膨大。調べられる対象それぞれに固有のテキストが設定されているのに加え、周囲にいる人間に話しかけた際の台詞にも小説のような表現が用いられたりと、結構読み応えがある。

 歴史をモデルにした設定、入念な時代考証に基づいた美術全般も見所である。基本的にはフィクションだが、シャルルマーニュ王(カール大帝)を始めとする実在した人物がわずかではあるが登場し、「歴史の裏でこのような出来事があった……」と語られる展開は歴史小説好きにはたまらないかもしれない。

 実在の歴史をモデルにしている点で、1991年にファミリーコンピュータ ディスクシステム向けに発売された『タイムツイスト 歴史のかたすみで…』との関連を感じさせるのも面白いところだ。

 奇しくも本作の開発には、『タイムツイスト』でプロデューサー(制作)を務めた任天堂の菱田達也氏(※『タイムツイスト』以外の代表作では『ふぁみこんむかし話 新・鬼ヶ島』、『ふぁみこんむかし話 遊遊記』など)が関わっている。そのため現代に蘇り、より暗く・過激になった『タイムツイスト』とみなして遊んでみるのも一興である。

 惜しむらくは2022年現在、『タイムツイスト』は現行のゲーム機での復刻が実現されていないことだ。さらに言えば、『タイムツイスト』はセンシティブな歴史的、宗教的題材を扱っているため、今後、復刻が実現するかも怪しい(筆者個人としては、ほぼ不可能ではないのかという見解である)。

更新され続ける商標と共に期待される復刻とリメイク。しかし、開発した会社は……

 同じことは、『エターナルダークネス』にも言える。そもそも、ゲームキューブで発売されたタイトルで現行のゲーム機へと復刻、リメイクされた例はまだ少ない。オリジナル版をそのまま遊べる『ファミリーコンピュータ Nintendo Switch Online』のような配信プラットフォーム的なソフトも本稿執筆時点で登場していないため、今後、本作が最新の環境で遊べるようになるかどうかは未知数だ。

 なお、本作の開発を務めたのはカナダ・オンタリオ州に拠点を構えていたゲーム開発会社「シリコンナイツ」。2002年当時は任天堂と資本関係を結んでおり、その第1弾が『エターナルダークネス』だった。ちなみに当初は、NINTENDO64向けのゲームとして開発されていたとのエピソードが任天堂公式サイトのインタビューで語られている。また、任天堂と資本関係を結ぶ前にも、日本ではPlayStation向けに『ケイン・ザ・バンパイア』というアクションRPGを発売している。

 『エターナルダークネス』は特に海外で高い評価を獲得したほか、日本国内でも2002年度の「文化庁メディア芸術祭」において、デジタルアート「インタラクティブ」部門の審査委員会推薦作品に選出された。

 さらにシリコンナイツは『エターナルダークネス』の後、当時KONAMIに在籍していた小島秀夫氏とのコラボレーションで初代『メタルギアソリッド』のゲームキューブ向けリメイク、『メタルギアソリッド ザ・ツインスネークス』を開発し、2004年に発売した。前述のサニティ・システムのことを思うと、興味深い巡り合わせとも言える。

 しかし、『メタルギアソリッド ザ・ツインスネークス』の後には任天堂との資本関係を解消。その後、Xbox 360向けにアクションRPG『Too Human』を開発・発売したものの、経緯と詳細は省くが、ある大きなトラブルが機となり、2014年、倒産に至っている。

 倒産後、元メンバーは『Shadow of the Eternals』なる『エターナルダークネス』の流れをくむ新作のプロジェクトをクラウドファンディングサイト「Kickstarter」にて立ち上げた。

 WiiU、PCでの発売を予定していたが、残念ながら資金が目標額に達せず、最終的には凍結するに至っている。

Shadow of the Eternals - Teaser Trailer

 『エターナルダークネス』のストーリー自体は1作で完結している。ただ、黄色の魔法、それに関係すると思しき正体不明のエンシャント(謎の声)など、いくつかの伏線が残されていた。開発チームも続編への意欲はあり、それが『Shadow of the Eternals』にて実現すると思われたのだが、残念ながらプロジェクトが凍結し、以降もその話はまるで聞かなくなってしまっている。

 それでも元シリコンナイツ社長のデニス・ダイアック氏は、Apocalypse Studiosなる新会社を設立し、現役のクリエイターとして活動。2022年には新作アクションRPG『Deadhaus Sonata』をPC(Steam)向けに配信予定である。

 さらに『エターナルダークネス』の商標も都度、更新されており、そのたびに「新展開か?」との注目を集めている。とは言え、2022年現在もそれに関連する動きはない。気づいた頃には、発売から20年も経ってしまっている。

 だが、それほどの年月が経ってもなお、『エターナルダークネス』は独自性を放ち続けている。商標登録が話題になるのも、そのユニークなゲームシステムやストーリーに魅了された根強いファンがいることの証左なのだろう。

 今後、復刻するのか、あるいは当時のメンバーが再集結してリメイクされるかは未知数だ。だが、こうも観念的な怖さを売りとしたゲームが忘れ去られるのは勿体ない。

 今回は怖さを強調してばかりだったが、実は幻覚自体は回復のスペル(魔法)が手に入れば、容易に回避可能になる。遊び方次第ではホラー要素を薄められるのも、この『エターナルダークネス』の大きな魅力なのだ。(※現に筆者は、この回復おかげでアクションアドベンチャーゲームとして楽しみ、エンディングまでやり通せたというのがある。)

 発売当時は話題性の強すぎる3作に挟まれ、不遇気味だった本作。いつの日か、世間から広く注目を集めることを願いたい限りだ。

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