連載「わたしたちの『Live』」 第三回:Yunomi

Yunomiに聞く、”発想の限界”を超えるための創作論 『Live』と向き合って辿り着いた手法とは

――Yunomiさんはいろんな音をひとつの曲の中でふんだんに使うアーティストだと思うので、そういう意味では「人よりも早く聴いたことがない音がなくなってしまう」のかなと。だからこそ、聴いたことのない響きを常に求めているような気がしますし、最近だと「Unison」はそのひとつの極地のように感じます。

Yunomi:宝鐘マリンさんの楽曲ですね。あれは作るのが楽しかったなあ。

――Yunomiさんの言葉の置き方は元々特徴的だなと思ってたんですけど、歌メロとリズムの合わせ方も聴いたことない譜割りだったりしていて。リズムに関しても立体的というか、リズムを構成するような音が上でも下でも沢山鳴ってる面白さを感じながら聴いていました。

Yunomi:なるべく歌もドラムもすべてひとつの音として捉えていて、空間をデザインするような形で音楽を作っているんです。リズムはMIDIのピアノロールの一部を選択して引き延ばす、という機能を使っているんですが、これがめちゃくちゃ使えるんですよ。普通に弾いたら自分が思いつくリズムしかできないのですが、それを中途半端に伸ばしたり縮めたりしてそのあとにクオンタイズすると、これまで全然出てこなかったリズムができる。でも元のメロディとしての流れは保ったままなので、耳馴染みとしては変ではないままというか。

MIDIのタイムストレッチ機能を活用した、画期的な制作手法(本人提供)

――メロディとしての認識はできるし、歌モノとしても成立しているけど、新たな音になると。

Yunomi:「Unison」は1人が4人のキャラクターを演じるというコンセプトで作られていて。人によって喋る速さって全然違うじゃないですか。それを引き延ばしたリズムで表現しようとしたんです。

【Original Animation MV】Unison【hololive/宝鐘マリン】

――ループ範囲をずらすというのはすごく面白いアイデアですね。

Yunomi:すごくシンプルで効果的ですよね。結構自由に引き延ばしたりしても、最終的にリズム自体が解決するモーションをつけてあげれば解決感がある。4人の息がぴったり揃うけど、全然違うメロディを歌ってるみたいな感じになるので、発想の限界を越える一つの方法として、これを読んでくださる方にもおすすめしたいです。

――ほかに、ご自分ならではの使い方やお気に入りの機能はあったりしますか?

Yunomi:セッションビューでドラムシンセを最初に立ち上げることが多くて。キック、スネア、ハイハット、クラップみたいな本当にベーシックなものなんですけど、これって他のものに変わりが効くじゃないですか。キックの音を心臓の音に変えてもいいし、スネアの音を水のピチャンという音に変えてもいい。でも大体そこの帯域で鳴ってるという音をデザインするときに、ドラムシンセはすごく便利なんですよね。

――というと?

Yunomi:まずクリックだけ鳴らして、『Push』でキックを演奏するんです。で、それを聴きながら次にスネア、ハイハットと演奏していく。そのクリップのアイデアを派生させていくみたいな感じで、引き延ばしたり早回しにしたり、いろんなパターンをクリップしておくことで、通常考えられなかった組み合わせができるんですよ。その時点で発想をちょっと越えているのですが、さらにベースなりコードなりのアイデアを追加していって、曲になったと感じたらそれを今度は音源だけ変えて別の楽器で演奏する。そのときに、その音楽を構成する最低限のルールさえ守ってれば、結構ありとあらゆることが変更可能だっていうことに気付くんです。

 そこから、一つひとつの音に演奏者がいるような捉え方をして、その演奏が面白くなるかどうかみたいなのを意識しながら別のものに切り替えていくといったことをしています。だからコンピング機能は最高ですね。

――新しい機能でお気に入りのものを聞こうと思ったんですが、Yunomiさんはコンピングなんですね。

Yunomi:はい。あと「CV Tools」が本当に大好きです。「Rotating Rhythm Generator」も_面白いですけど。

ーードラムシンセ含め、「MAX for Live」ベースのデバイスも結構配列されているんですね。その制作の仕方はPushを使った制作に変わってからですか?

Yunomi:『Push』導入以降ですね。それまではアレンジメントビューでループしながら作ってたんですよ。ひとつのシーンを作りこむみたいな。でもそうするとひとつのシーンに辿り着くまでの流れが結構手癖になっちゃうんです。またこのスネアロールか、またこういうドロップかみたいな。そこから抜け出したいと思ったらこういう方法になっちゃうんじゃないかな。

――セッションビューからアレンジメントに移るときのタイミングや使い分けはどのように考えているんですか?

Yunomi:その名の通り、セッションビューは自分とのセッションみたいな感じで、面白いアイデアを出すために使うところですね。アレンジメントビューは僕の中では作り手が偉くなるんですよ。自分の中でプロデューサーみたいな偉い人格があって、その人が「いいアイデアだね、これを曲としてまとめるにはどうしたらいいかな」と、少し俯瞰した目線で自分のキャラクターを切り替えて作っています。

――「セッションビューの住人」もいるんですね(笑)。

Yunomi:それぞれの楽器にいます(笑)。でも、ちょっと退屈だなと思ったらセッションに戻るようにしていて、制作中は行ったり来たりしています。曲の展開をセッションビューで考えるときは、マスターのトラックの再生ボタンを使って横方向で揃えるみたいなことにしていますね。たとえば16番目のスロットをサビのスロットにしようと考えたら、そこを埋めていくという感じです。ハットはこっちの方が良いかなと迷ってたらサビのパターンがいくつかできるので、実際どれにするかは頭を空っぽにしながらPushで組み合わせをいろいろ試すんです。最終的には聴かなければわからないですから。

――面白いですね。そんななかで、逆に『Live』にこういうものがあったらいいなと思っていらっしゃるところはありますか?

Yunomi:個人的には、オーディオをボルトパーオクターブに変換できる機能があれば最高です。オーディオを編集するペン編集ツールとセットで欲しいです。そうすれば『Live』で演奏して録音したオーディオデータを元にして、外部のシンセサイザーのピッチを演奏できるっていう夢のような時間が作れる(笑)。ピッチの追跡機能みたいなのはいろいろ試したけどどれも実用するには至らない、という感じなので。もっと柔軟にピッチを捉えることができたらいいですね。

 それと、最近はMIDIをリアルタイムで編集していくみたいな機能を使ってるんです。MIDIのクリップはCだけでしかアルペジエーターを鳴らしてないけど、MIDIデバイスとピッチのデバイスを経由して「LFO」を入れて、「LFO」でピッチを動かすとCがいろんなピッチになっていくという。それをアルペジエーターで鳴らして、その後段にスケールを8個くらい立ち上げてマクロを組んで、スケールをひとつずつ入れ替える感じにすると、超柔軟なアルペジエーターみたいになるんです。「LFO」でベロシティなども動かしていると、本当に超絶技巧な演奏者が演奏しているかのような有機的なものになるんですよね。

――独自の複雑なアルペジエーターを作ってるんですね。そのように独学で『Live』を使う上で、情報交換をしている方などはいらっしゃいますか?

Yunomi:うちに来たり会ったりする友達とはよく『Live』の話をしますね。最近だとトラックメイカーのPenoくんとか、ハニカムベアーのMonkeyとか。

 そういう話をするのは、本当に楽しいんですよ。きっとまだ誰もやってないやり方があると思うので。誰もまだマスターしてない新しい楽器の面白い使い方をいち早く発見するには、といった観点から友人と話したりセッションしたりしていますね。

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