雨森小夜の“奇才”ぶりは、我々の想像の斜め上をいく
現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一つであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。
メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ1年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加している。
デビューから順を追うように紹介してきた本連載。元1期生、元2期生、元ゲーマーズ組の次は2期にわたる元SEEDs組。SEEDs2期生は複数回に渡ってデビューが分かれているなかで、ここ数週は第1弾として発表された面々を中心に取り上げてきた。
漢のなかの漢・舞元啓介に続いて前回書かせていただいたが、彼の横にいるにじさんじのタレントといえば、盟友のジョー・力一と雨森小夜を思い浮かべるファンが多いかもしれない今回はそんな雨森小夜について記していきたい。
2018年8月9日にTwitterに初ツイート、12日に「001.女生徒」を投稿。黒上のボブカットに髪留めで括り、黒いセーラー服、黒ストッキングに黒いローファー。そのビジュアルはどこか昭和の女学生を思い起こさせ、可憐でありながらも儚げでミステリアスな風貌であった。
皆さん、初めまして。こんばんは。遅くなってしまいました。
雨森小夜と申します。
この度バーチャルライバーとしてデビューさせて頂くことになりました。
不慣れなもので、お見苦しいところもあるかもですが精一杯頑張ります。
よろしくお願いします。
暑い日が続くので、体調に気を付けてください。— 雨森 小夜 (@Sayo_Amemori) August 9, 2018
夜分遅くのお披露目になっちゃいましたが来て下さった皆様本当にありがとうございました! pic.twitter.com/VpyTwlEnWa
— 雨森 小夜 (@Sayo_Amemori) February 22, 2020
だが彼女の配信を見てみれば、その印象はガラリと変わるはずだ。
速射砲のように次から次へと話をつづけていくお喋り好きな彼女。とめどなく話題を引っ張ってこれるだけのエピソードも豊富で、逆に「これは冗談ですよ?」と言われるまで本当だと思わせてしまう作り話の即興力もある。「山で山賊に間違えられる」「病院で頭の検査を受ける」「学校のころにみた校長先生」など、どこまでが本当でどこまでが嘘なのか、いっさい分からないレベルである。
そうかと思えば、画面上で行われているチンプンカンプンな動きや、ちょっとした企画と展開の数々を通して、視聴者の想像からはるか彼方へと飛び出していってしまうのも彼女である。
2本目の動画となった「第一話 ねらわれた学園!?目覚める勇者!!」は、銃撃戦となったジャングルのなかを疾走していらすとやのキャラクターと会話してから甲子園へとぶっ飛び、とある時期からはバーチャル網走刑務所ならびに網走駅前から配信を始めたりと、ある日の雑談では自分が自分に対談・会話を仕掛けてみたり……。
彼女が投稿している初期8回分の放送をまとめた動画を見てみても、「たしかにまとまってはいるが、なぜこんなことになっているのかが分からない」ということが伝わるはずだ。
なかでも「運営から動きが少ないので、動きをつけてみましょうと言われたので……」と始めた超高速・雨森小夜をお披露目した配信は、にじさんじのなかでも屈指のハイライトシーンに数えられるだろう。このほかにも数々配信してきた生放送のなかで、ちょっとしたネタを用意してはリスナーを笑わせ、戸惑わせ、記憶に残る配信をいくつも届けている。
か細くも芯のある声をもつ彼女。会話の中でも、時に弱々しく、時に妖しく、時に元気よく、さまざまな声色でリスナーに語り掛けてきた。同僚らからの評価も高く、「センシティブ雨森」といつのころからか評価されるようになった。
そのボイスの威力とトーク力は、にじさんじのタレントでは特に舞元啓介への異常な愛情となって配信に出てくることが多く、「ねぇダーリン」「啓介ぇ」とハートマーク多めに呼びかける声は一級品である。ちなみに2人が語るところによると、配信外でもほとんど会話することはなく、メッセージでやりとりを始めると絶妙な距離感でフザけ倒してしまうとのこと。
いまだにこの距離感が合っているのかわからないそういうDiscord pic.twitter.com/9whwCf7aOW
— 舞元啓介👨🌾にじさんじ (@maimoto_k) July 24, 2020
緑仙が企画した「にじさんじ架空声優」では、3キャラクターの演じ分けを某声優・某女優・某ボーカロイドを感じさせながら演じ、4つ目に演技した「すみれの人生」では年少・老婆・男性・女性をストーリー仕立てで変化しながらも演技するという、多くのリスナーの度肝を抜くレベルのアクティングを見せつけた。「雨森小夜の本気」に触れた瞬間として忘れられないところだろう。
学生のビジュアルで奇才っぷりを見せつけるという点では、やはり月ノ美兎の姿がダブって見える人もいるだろう。一瞬のキレという点においては、もしかすると委員長を超える切れ味を誇っているのかもしれない。