懐かしいテクノロジー技術解説

90年代、人々はディスクやテープを持ち歩いて音楽を聴いていた 「音楽を携帯する技術」の進歩を振り返る

MDのバリエーションを振り返る

MDLP

 MDのメディアには60分74分、80分という3種類があり、80分メディアではステレオ録音時80分、モノラル録音時160分が記録できた。しかし、よりたくさんの音楽を1枚のメディアに収めたい、あるいは会議などの記録に使いたい(音声がクリアに録音できるため、カセットテープよりも録音向けのメディアとして優秀だった)といった需要から、2000年に長時間録音用規格「MDLP」が登場する。MDLPでは録音時間2倍の「LP2」と4倍の「LP4」があり、LP2ではステレオ160分、LP4ではステレオで320分もの長時間録音が可能になる。

 これを実現したのが、圧縮形式「ATRAC3」だ。ATRAC3はオリジナルのATRACよりも圧縮率が高い規格で、その後より圧縮率を高めた「ATRAC3plus」も登場する。ATRAC3とATRAC3plusに直接の互換性はなかったりするのだが、その後、主にソニーグループの音楽配信や、ソニー製DAPでもATRAC3系が長く使われることになる。

 ATRAC3はたしかに高圧縮率なのだが、音質もそれに合わせて下がる傾向にあり、LP2は「音楽練習用」、LP4は「長時間の会議録音用」といった使われ方を想定していた。実際にLP4で会議などを録音してみると、標準(SP)と比べてかなりディテールが間引かれて聴きにくく、筆者は自分が録音するときは(贅沢だが)SPのステレオモードを使うことが多かった。

NetMD

 2001年に登場した規格で、メディアではなく転送用の規格。まだ高価だったフラッシュメモリーカードをMDで置き換えようと、PCとMDを接続してATRAC3形式に変換したデータをMDに転送記録する規格だった。ただしガチガチに著作権保護がかかっており、暗号化と転送ソフトが別、MP3形式のデータもATRAC3に再変換する必要があるなど、利便性にかなり難があったこともあって、あまり普及はしなかった。

MD DATA

 1993年に発表された、データ保存用のMDフォーマット。メディアも専用のものが用意されたが、非公式ながら音楽用MDをMD DATAドライブでフォーマットすると、MD DATAとして利用できる。容量は140MB。PC用の外付けドライブも存在するが、実際にはほとんど普及せず、ソニーが販売していた「DATA EATA(データイータ)」という電子ビューアー機器や、デジタルカメラなどに採用されるも、マイナーなままだった。ちなみにDATA EATAはモノクロながら10インチ程度のタッチ型液晶画面にスキャナーを内蔵したタブレット型機器で、紙のデータを読み取って1000枚程度までを1枚のMD DATAに記録できるというもので、現在のタブレットのビューアー的な用途を先取りする画期的なものだったが、動作の遅さや価格の高さ(15万円前後)から、あまり普及しなかったのは惜しまれる(大企業の重役などには好まれたらしい)。

 1996年には大容量化した後継規格「MD DATA 2」が発表。650MBと容量をアップしたが、製品化が遅れ、1999年にMD DATA 2メディア「MD VIEW」として登場し、ソニーのMDビデオカメラ「MD DISCAM」に採用された。MD DISCAMはMPEG-2形式で20分の録画が可能で、本体のみでノンリニア編集が可能といった特徴があったが、それ以上他の製品で採用されることはなかった。

Hi-MD

 2004年に登場した、MDの上位規格。既存のMDと互換性を保ちつつ、専用メディアでは容量1GBを実現していた。既存のMDもHi-MDフォーマットすることでHi-MDとして利用できる(容量は従来のまま)。Hi-MDでは音楽録音時にATRAC3plus、MP3(2005年に追加)またはリニアPCMが利用できる。リニアPCMは非圧縮形式(PCで言えばWAV形式)であり、1.4Mbpsで最大94分の記録ができた(従来メディアのHi-MDフォーマットでは80分ディスクで28分)。一方ATRAC3plus利用時は最高音質で5時間30分、最低音質なら最大で45時間という長時間の録音も可能になる。しかし搭乗時にはすでにMDが衰退を始めており、広く普及することなく終わってしまった。

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