90年代、人々はディスクやテープを持ち歩いて音楽を聴いていた 「音楽を携帯する技術」の進歩を振り返る

「音楽を携帯する技術」の進歩

 テクノロジーの世界は日進月歩。次々と新しい規格や技術が登場する一方で、かつて花形だった技術や機器がまったく使われなくなることも珍しくはない。若い世代と会話をしていて、世代のギャップに驚く人も少なくはないことだろう。

 本連載はほんの10年、20年前までは普通に使われてきたが、今はほとんど使われなくなってしまった懐かしの技術にスポットライトを当て、当時を知る人たちには懐かしさを、知らない人たちにもその技術の背景や使われ方などをお届けする用語解説記事だ。第二回の今回は「MiniDisc(MD)」について。ポータブル音楽プレーヤーのアナログ時代とデジタル時代を繋いだ規格について解説しよう。

はじめにカセットテープありき

 いまや音楽はスマートフォン経由で、ダウンロードすらしないでストリーミング再生が当たり前という時代だが、そのようになったのはここ3〜4年の話だ。それ以前はどうしていたのだろうか。

 もともと音楽とは「持ち歩く」ものではなかった。ラジオや有線放送による店内のBGMなどで「流れていく」ものであり、あるいはレコードなどで手に入れ、自宅などでプレーヤーを使って再生するものだった。1962年にオランダのフィリップス社が「コンパクトカセット」を発表し、特許を無償公開したために世界的な標準の座を占めると、これにラジオ番組などを録音して何度も楽しむことができるようになる(いわゆるエアチェック)。

 こうして安価に(というか無償で)音楽を取り込んで楽しめるようになると、それを自分の好きなように順番を並べる「ミックステープ」という文化(いまでいうプレイリスト)が現れる(さらに切り貼りする「マッドテープ」文化もこのころから現れる)。ミックステープ同士を交換して自分の趣味やセンスをそれとなくアピールするという楽しみ方も誕生した。

 そんな文化をさらに勢いづけたのが、1979年に登場したソニーの「ウォークマン」だ。それまで電池式のラジカセなどを無理やり持ち歩いて聴いていた音楽が、イヤホンでどこでも、自分だけのプライベートなものとして楽しめるようになる。前述したミックステープもすぐにその場で聴けるようになり、音楽は極めて身近なものになる。ミックステープを作るだけでなく、レーベルにも凝るようになり、アラフォー・アラフィフあたりに聞けば、レタリングシールを貼り付けたりした思い出がある人が多いのではないだろうか。

 そんなカセットテープの時代が続くなか、1982年にコンパクトディスク(CD)が登場する。1984年には最初のポータブルCDプレーヤーが登場し、カセットに取り込まなくてもアルバムを直接持ち歩けるようになった。レコードよりもコンパクトで取り扱いが容易、そして音質もよいCDは、プレーヤーの低価格化やポータブルプレーヤーの登場で80年代半ばに一気に普及が進む。一方でCDは曲順などが固定であるため、引き続きカセットテープにダビングしてミックステープを作る文化は残るのだが、このころカセットテープユーザーの中でもCDの高音質を体験したことから、高音質への需要が高まることになる。

 カセットテープでもType II(ハイポジ)やType IV(メタル)といった、より高音質な規格は存在したが、プレーヤー側の互換性や長期保存の問題(わかめテープ)もあり、新たな高音質な、デジタル記録可能なメディアが求められていた。そんな中に登場したのが、今回の主題である「MD」だったのだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる