色褪せない名作『.hack』はどのように紡がれたのか? 20周年を機にシリーズの先進性を振り返る

色褪せない名作『.hack』はどのように紡がれたのか?

 今から数えること20年前、“架空のMMORPGで巻き起こる事件”を題材に掲げた一本のプレイステーション2(PS2)用ソフトが誕生した。その名は『.hack//感染拡大 Vol.1』(.hack//感染拡大)。同作に端を発する「.hack」シリーズはその後、ゲーム・漫画・小説・アニメ……と数多のメディアミックス作品を展開し、媒体の垣根を越えながら唯一無二の世界観を緻密に築き上げた。

『.hack』シリーズ20周年記念トレーラー

 本稿では『.hack//感染拡大 Vol.1』の発売20周年を記念し、今なお色褪せない同シリーズの先進性や魅力について振り返る。

色褪せることなく紡がれた「.hack」シリーズの20年間

 時は2010年。日本を含む世界中では、まるで自分がゲームの中へ入ったかのような体験が楽しめるMMORPG「The World」が人々の関心を引き付け、実に数千万人のプレイヤー規模を抱える大ヒットゲームとして君臨していた。プレイヤーの分身である主人公は、先にゲームを始めていた友人「ヤスヒコ」の手を借りてThe Worldにログイン。「カイト」というキャラクターを作成してオンラインゲームを満喫していたところ、謎の敵から不可解な襲撃を受けたことにより、運命の歯車が大きく回りだす。突如として意識不明に陥ってしまったヤスヒコ、そしてネットワーク空間に蔓延る不穏な影。軽い気持ちでゲームを始めた主人公は、カイトを介してThe Worldの知られざる真実に直面する。

新約小説「.hack」公式サイトより
新約小説「.hack」公式サイトより

 以上が『.hack//感染拡大』の大まかなあらすじだが、「.hack」シリーズは第一作目のみで完結することなく、複数のナンバリングタイトルをもって描かれることに。約1年間にわたってPS2用ソフトが計4作リリースされ、メインシナリオを補完するように数々の派生コンテンツが作られた。2006年からは2ndシリーズ「.hack//G.U.」が始動。こちらも第一作目『Vol.1 再誕』を皮切りとしつつ、最終作『Vol.3 歩くような速さで』の発売によってエピソードが終幕。その模様はプレイステーション・ポータブル用ソフト『.hack//Link』にはじまる3rdシリーズへと受け継がれていった。

『.hack//G.U. Last Recode』スクリーンショット
『.hack//G.U. Last Recode』スクリーンショット
「.hack」シリーズ公式サイトより

 なお、ゲームシステムは3D空間をアグレッシブに動きながら敵と戦うアクション要素を取り入れたRPGとなっており、作品間で多少の違いこそあれど、システムの基盤は一貫して踏襲されている。くわえて、”ゲーム内のパソコンからThe Worldを起動してアクセスする”、”掲示板やメール機能を使って作中のキャラクターと交流を図る”といった具合に、2000年前後から本格的に盛り上がり始めたオンラインゲームの空気感を一人用ゲームに落とし込んだシステム周りも特筆すべきポイントだろう。

 上記画像は「.hack」シリーズ公式ポータルサイトのシリーズ時代設定。作品数の多さゆえ本稿では詳細を語らないものの、本編の時間軸で換算すると実に20年以上もの間、The Worldという底の見えないMMORPGを舞台に世界観が形作られている。『ソードアート・オンライン』・『ログ・ホライゾン』・『オーバーロード』……等々、オンラインゲームにプレイヤー自身が入り込んで活躍する作品が珍しくない昨今において、20年前にそうした意匠を取り入れた「.hack」シリーズは、その先鋭的な舞台設定と緻密な作り込みのおかげで今見ても古臭さを感じさせない。

.hack//Link プロモーションビデオ

 また、開発に携わったゲームクリエイター・松山洋氏が過去のメディアインタビューで語った通り、“The Worldとアウラ(ゲーム内世界の根源を司るAI)の歴史”に帰結しながらも、作品によって視点(キャラクター)やシチュエーションがその都度変わっていく点が「.hack」シリーズの本質と言えるだろう。

松山 まず『セカイの向こうに』には、アウラが登場します。『.hack』で描かれてきたのは、”The World”の歴史であり、イコール、アウラの歴史なんですよ。『セカイの向こうに』で起こる事件を経て、さらにアウラがこうなっちゃいます……というのが、今回公開したゲームで語られることになるわけです。
『ドットハック セカイの向こうに』の魅力に迫る【第1回】――『.hack』最新エピソードの秘密より引用

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