宝鐘マリン「マリン出航!!」が見せてくれた、VTuberがけん引するアニメ表現の未来形

VTuberがけん引するアニメ表現の未来形

 これが本作のみの一過性の出来事であるかといえば、答えはNoだ。特に2022年に入ってからのVTuberのMVの進化はめざましいものがある。同じくホロライブの角巻わための「My song」 であったり、にじさんじの葛葉が公開した「甘噛み」のMVも、すでに高いレベルのアニメ表現がなされている。2021年公開の「ホロライブ・オルタナティブ」のPVを含め、今後もこの流れはさらに加速する可能性がある。

【Animation MV】 My song / 角巻わため 【original】

 では、なぜこのMVがアニメ界に大きな変化を起こす可能性があるのか。それは、このアニメ表現のレベルの高さに加えて、キャラクターが確立しているという点にも着目したい。

 先にも挙げたように、通常のMVはアーティストを前面に出したものが多いものの、その顔出しNGなどの匿名性を守るために、アニメ表現を用いるケースもある。しかしVTuberはその逆に、積極的にキャラクターを前面に押し出すための手法として、アニメが活用されている。つまり、すでにキャラクターが確立した中で、クオリティの高いアニメが作成されており、今後は各人の個性がさらに発揮される形になるだろう。

 知名度のあるキャラクターが確立しているというのは、それだけ重要なことだ。多くの漫画やアニメでも、ファンはキャラクターにつくと言われている。そしてVTuberの場合はキャラクターが確立されており、またジャンルや舞台の自由度も高い。異世界ファンタジーから、現代劇のような日常系、あるいは宇宙や未来を舞台にしたSF、ホラーなど、キャラクターさえ確立されていれば舞台やジャンルを問わず、なんでも制作できる可能性がある。このジャンルの幅に捉われない自由度が、様々な挑戦を生む。

 そして宝鐘マリンも自身の配信内で「ファンからもらったご褒美」であり、また「ファン自身が作ったんだな、と思ってもらいたい」とコメントしている。今作はMVという商業的に作られた作品であると同時に、「ファンが応援した結果、MVが作られた」という側面もある。

 「公式とファンが一緒になって楽しんで作る」という、ファンとともに歩み、ともに大きくなってきたコンテンツであるからこそ得られる、応援して配信者を大きくするというVTuberらしい面白みにも満ちているのではないだろうか。

 現代は「人の夢を応援する時代」と言える。VTuberの大きな目標に対して、ファンが応援して、スーパーチャットなどの投げ銭を行うことで資金的に援助を行い、その夢を叶えてもらう。それはクリエイターとファンの距離感が近い配信業だからこその面白さに満ちており、またファンの存在があるからこそ、そのために少しでもクオリティの高いもの、という意識が働く。その挑戦する姿勢の結果、とんでもない作品が登場する可能性がある。急成長するVTuberの活動から目が離せない。

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