声優・石黒千尋に聞く“異色のVTuberデビュー”の裏側 マルチな活動の軌跡と根底にある「ものづくりにかける想い」

石黒千尋、VTuberデビューの裏側

 VOICEROID「結月ゆかり」の中の人としても有名な声優・石黒千尋。声優としての活動だけでなく、ニコニコ動画やYouTubeにてゲーム実況配信を行うなど、配信者としても精力的に活動していた彼女が、2022年4月、突如“VTuberデビュー”を果たし、大きな話題となった。

 今回は、そんな石黒本人にインタビューを行い、彼女の内に秘められたパーソナルな感情や考え、前例のない取り組みに果敢に挑んでいくマインドの根底にある想いに迫った。

声優・石黒千尋がYouTuberになるまで

石黒千尋
石黒千尋

ーーYouTubeやニコニコ動画のようなカルチャーはご自身の声優という活動とは別に、いち視聴者として元々お好きだったんですよね?

石黒:そうですね。声優養成所を目指し始めたころからニコニコ動画を見ていました。当時は初音ミクさんが出始めの頃で、電子の歌姫誕生に「これはすごい!ペリー来航!新しい時代の幕開けだ!」と大興奮でした!毎日欠かさずニコニコ動画のランキングチェックしたり、“うぽつコメ”をするのが日課でしたね。ニコニコ動画は私の中で、もはや生活の一部でした。

ーーその時に印象的だった、ご自身に影響を与えてくれたクリエイターさんはいらっしゃいますか?

石黒:ボカロPさんだとazumaさんの「あなたの歌姫」という曲が今でもずっと好きです。VOCALOIDがまるで人間のように歌っていて、〈あなただけの歌姫なの〉という歌詞が合成音声としてのミクさんを一人の人格として捉えていて最高にロマンチックなんです。そこからikaさんの「みっくみくにしてあげる♪【してやんよ】」やデッドボールPさんの「1LDK」、そしてryoさんの「メルト」と一気にVOCALOID楽曲にハマったという感じです。

 また、そのころにはゲーム実況者がニコニコ内で話題になり始めていて、幕末志士さん、ガッチマンさん、レトルトさん、キヨさん、牛沢さん……いまは「トップ4」と言われている方々のゲーム実況や、SofTalk系のゆっくり実況にハマりました。

ーー実況動画をご自身が投稿し始めたのは2017年ですが、そのタイミングにあえてやろう、と思ったのは何かきっかけがあったのでしょうか。

石黒:当時はすでに結月ゆかりさんのVOCALOIDとVOICEROIDが出ていたのですが、弦巻マキさんと結月ゆかりさんの組み合わせでの『マインクラフト』実況がとても流行っていて。私もその影響を受けて、『マインクラフト』にどっぷりハマり、プライベートでも『マインクラフト』を遊んでいたら友人から「そんなにゲームが好きなら、自分でもゲーム実況してみたら面白いんじゃない?」と言ってもらえて、「なるほど~!」と(笑)。あとはファンの方からも「千尋さんのゲーム実況が見たい」という声を沢山いただけたのも、ゲーム実況をする後押しにもなりました。

 私の初めてのゲーム実況は、VOICEROIDの結月ゆかりさんの実況を参考に、「彼女のように落ち着いたトーンで淡々とゲームをするぞ!」と頑張っているので、是非見ていただけると、いまとの違いに笑っちゃうと思います。

石黒千尋による“最初のゲーム実況動画”

結月ゆかりとの出会いとキャリアの分岐点

ーーお話にも出た結月ゆかりについて、改めてお伺いさせてください。このプロジェクトに関わることになったきっかけや経緯は?

石黒:当時私は大手声優プロダクションにジュニアとして所属していたのですが、母の体調不良や声優としての迷いもあり、プロダクションを離れることにしました。その後1年ほど母の手伝いをしながら過ごしていたのですが、そのタイミングで友人から、「こういったオーディションあるけど興味ある?」と声をかけてもらえて…それがVOCALOID・VOICEROID結月ゆかりのオーディションでした。

 先ほども言いましたが、私もその時に自分が声優を続けていくのかどうか……物凄く悩んでいました。実際に過去3年間、介護福祉士という仕事をしていて、それが人の助けになる素敵なお仕事だなぁと思いましたし、母の病気の事もあり、このまま私も介護の仕事に戻ろうかな…と考えていた時にこのお話をいただいて、「これは最後のチャンスかもしれない。もし受かったら、もう一度声優をやれと神様が言ってくれてるんだ!」と思い直しオーディションを受けたところ、ありがたいことに「石黒さんに決まりました」とVOCALOMAKETSさんからお電話をいただき、声優としての活動を続ける決心をつけることができたんです。

ーー人生の分岐点に結月ゆかりさんがいたんですね。2011年以降は「結月ゆかりの中の人」という見られ方をされることが増えたと思います。その辺りはご自身でどう受け止めていたのでしょうか。

石黒:自分が“VOICEROIDの中の人”と呼ばれることに対して、すごく不思議な感覚がありました。VOCALOID・VOICEROIDって、私の声の音質を取っているだけであって、自分が演じているわけではないので声優ともまた違うアプローチですよね。もちろん、自分の声の一部ではあるから、喋っている声が私にそっくり!とも言ってもらえるのですが、それでもずっと不思議な感覚でした。

 結月ゆかりさんは私が動かしているわけじゃなくて、みなさんがそれぞれの結月ゆかりさんを描いて動かしていて、それぞれに個性がある。それはもう石黒千尋が作り上げた訳ではないんです。「結月ゆかりの中の人の石黒さん凄い!」と言ってもらえるのは嬉しいのですが、私はそんな大したことはしてなくて、結月ゆかりさんを盛り上げてくれたみなさんと企画してくださったVOCALOMAKETSさんが凄い人なんです!と。(笑)なので大変恐縮してしまいました。

ーーなるほど。そういう感覚だったんですね。

石黒:はい。結月ゆかりさんはメジャーCDデビューをしたり、海外に行ったり、バージョンアップし続けていて、今もなおご活躍されています。私は、声優としての分岐点で結月ゆかりさんにこの場所に引き上げてもらっていて……結月ゆかりさんに感謝の念が堪えません。いまは友達でもあり、家族でもあり、業界の先輩みたいな感覚ですね。

根底にあるのは“ものづくり”にかける想い

ーー現在は所属事務所を退所して、ご自身の会社を立ち上げられたんですよね。そちらの経緯についても伺えますか?

石黒:私がゲーム実況を投稿し始めた2017年は、オフィスアネモネという井上喜久子さんの事務所に所属していました。通常の声優事務所ですと、所属している以上、自分の声は商品なので自由にゲーム実況や歌ってみたなどの動画を上げることは基本NGとされています。しかしオフィスアネモネは私がやりたい方向性について親身に相談にのってくださり、それを許可してくださった素晴らしい事務所でした。

 私はそのころから、演じるだけではなく「自分の作ったものを通してファンの皆さんに喜んでもらいたい!」という気持ちが強くありました。オフィスアネモネでのファンイベントも、「自分で制作させてください!」とお願いをしてイベントの会場を押さえたり、グッズの制作や発注、スケジュール管理、音楽制作依頼、タイムスケジュール管理など、すべて私ひとりでやっていましたね。

ーーそれはすごいですね。

石黒:こういう願望も、結月ゆかりさんと関わるようになってから出てくるようになりました。声優は、芝居という意味でキャラクターの個性を生み出すことは出来る一方で、そこから先のキャラクターのイベントやグッズなどの展開には関われないんです。でもニコニコ動画などで結月ゆかりさんを使ってみなさんが創作活動をしているのを見て、自分にも何かアプローチできるかもしれないと思い、ゲーム実況もそのひとつとして始めることにしました。私がゲーム実況をやることで、この界隈が盛り上がる一助になればいいなと。

ーーそこまで考えてのゲーム実況デビューだったんですね。

石黒:それらの経験を経て、自分の本当にやりたいことに挑戦したいと思い立ち、独立を選びました。快く送り出してくださったオフィスアネモネさんには大変感謝しております!

ーー声優という一つの肩書やキャリアにとらわれることなく、色々なものを作りたいと。

石黒:そうですね。今回の独立を機に、自由にものを作って発信していきたいです。こういった働き方も、いま、この時代にだからこそできることだと思っています。

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