稀代のデジタルアーティストが持つ、もう一つの顔――シモン・ストーレンハーグの「音楽性」に迫る

シモン・ストーレンハーグの「音楽性」とは

 巨大インフラ、ロボット、恐竜などが日常に存在する郊外風景をありありと描き出し、ノスタルジーとSF要素が混然一体となった独特のレトロフューチャリスティックな作風と、精緻に作り込まれた世界観で知られるスウェーデン・ストックホルム出身のシモン・ストーレンハーグは、昨今活躍いちじるしいデジタルアーティストの一人だ。2020年には第4作となるアート&ストーリーブック『Labyrinten』(英題は『The Labyrinth』)が発表され、現在は第5作『Europa Mecano』の制作に取り組んでいる。

シモン・ストーレンハーグ『ザ・ループ』
シモン・ストーレンハーグ『ザ・ループ』

 幼少期からバードウォッチングやSF映画に親しみ、撮りため続けた数万枚の写真からインスピレーションを育んできたというストーレンハーグの作品が、The VergeやWIRED、The Guardianなどのメディアに取り上げられ、注目を集め始めたのは2013年のこと。翌年、ストーレンハーグは第1作『Ur varselklotet』(英題は『Tales From The Loop』。邦訳版は『ザ・ループ』として2019年11月に刊行)を発表する。1960年代末にスウェーデン・ストックホルム郊外に完成した世界最大の粒子加速装置「ザ・ループ」によってもたらされた農村地域の変貌と、近隣で起きた奇妙な事象の数々が語り手の追憶とともに描かれる同書は、1984年生まれのストーレンハーグの少年時代の原風景と、彼のリアリスティックなイマジネーションが融合して生み出された改変歴史(オルタネイト・ヒストリー)作品として大きな反響を呼んだ。

シモン・ストーレンハーグ『フロム・ザ・フラッド 浸水からの未知なるもの』
シモン・ストーレンハーグ『フロム・ザ・フラッド 浸水からの未知なるもの』

 2015年にクラウドファンディングで自著のキャンペーンを立ち上げてからはさらに多くの人々の支持を獲得し、SFアートシーンにセンセーションを巻き起こした。2016年発表の第2作『Flodskörden』(英題は『Things from the Flood』。邦訳版は『フロム・ザ・フラッド 浸水からの未知なるもの』として2020年1月に刊行)では、「ザ・ループ」の運用停止後に発生した謎の大規模浸水被害を中心に、時を同じくして機械に寄生した未知の生命体や、ロシアから逃れてきたAIロボットたちが地域コミュニティに及ぼした影響、テクノロジーの移り変わりと一つの時代の終焉が、語り手の思春期の心象風景とともに描かれる。前作の続編でありながら、牧歌的な前作とは対を成すかのようなグロテスクかつ不穏なトーンが印象的だ。

シモン・ストーレンハーグ『Ripple Dot Extra』
シモン・ストーレンハーグ『Ripple Dot Extra』

 世界的なデジタルアーティストとなったストーレンハーグだが、一方で彼はコンポーザーの顔も持っている。画業で著名となる以前は、友人が制作したインディーゲームの音楽を手がけており、主なものとして2008年リリースの『Metro.Siberia』や、2013年リリースの2Dアクションゲーム『Ripple Dot Zero』『Operation Smash』がある。2013年6月には『Ripple Dot Zero』『Operation Smash』の音楽をカップリングしたサウンドトラック『Ripple Dot Extra』が配信リリースされた。往年のメガドライブやスーパーファミコンのアクションゲームを彷彿とさせる歯切れの良いシンセ・ロック/フュージョンの数々は、確固たる美学に貫かれた仕上がりだ。他方では、ロシアのインディーレーベル〈Ubiktune〉の企画によるFMサウンドコンピレーションシリーズ『SOUNDSHOCK FM FUNK』に、常連参加者として軽快なファンク/フュージョン曲を提供している。これらの楽曲は、ストーレンハーグがメロディメイカーとしても第一級のセンスの持ち主であることを遺憾なく示すものだ。彼のSoundCloudアカウントでは不定期にメロディアスなオリジナル曲がアップされている。あわせてチェックしてみてほしい。

 

 

シモン・ストーレンハーグ『エレクトリック・ステイト』
シモン・ストーレンハーグ『エレクトリック・ステイト』

 2016年発表の第3作『Passagen』(英題は『The Electric State』。邦訳版は『エレクトリック・ステイト』として2019年4月に刊行)では、舞台を1997年の架空のアメリカへと移し、ティーンエイジャーの少女ミシェルとおもちゃの人型ロボット「スキップ」の旅路が描かれる。退廃と混迷の度を深めるアメリカ国内、ドローンを用いた戦争の爪痕、VRヘッドギア「ニューロキャスター」で神経接続された人々、いつしか形成された巨大な集合意識……。謎めいたモノローグが読み手のイマジネーションをこの上なく刺激する。同書のクラウドファンディングキャンペーンはごく短期間のうちに全てのストレッチゴールを達成し、ストーレンハーグの手による「公式サウンドトラック」が制作されたこともトピックとなった(その後、2017年10月に配信リリースされている)。9曲のアンビエント/サウンドスケープが、ミシェルとスキップの旅路を淡く補完してゆく。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる