「静かなる探求者」大嶋啓之の音楽世界と活動の軌跡

Voltage of Imaginationへの参画(パート1)

 かつてIMAGICAイメージワークス(2018年10月にIMAGICA Lab.への統合に伴い解散)が運営した〈Voltage of Imagination〉は、プロデューサーの高橋和也が2004年にstudioCampanellaと共同企画・制作したミニアルバム『Ancient Colors Infinity』三部作を経て、2005年に創設されたインディーズレーベル。従来のジャンルやスタイルに囚われない、総合エンタテイメントとしての音楽創作をレーベルポリシーに掲げ、同人音楽シーンで活躍するコンポーザーやヴォーカリストとプロジェクト単位でユニットを組み、インディーズシーンとメジャーシーンの双方にアプローチを仕掛けた。大嶋はレーベル第1弾作品『ORBITAL MANEUVER phase one: geotaxis』を皮切りに精力的に作品をリリースし、知名度を高めてゆく。下記に2005年から2008年にかけてリリースされた大嶋関連作品を一覧でまとめた。

※大嶋がメインコンポーザーを務めた作品は●、楽曲を提供した作品は▼で記す。

●大嶋啓之 feat.霜月はるか『ORBITAL MANEUVER phase one: geotaxis』
2005年10月リリース

●大嶋啓之 feat.茶太『ORBITAL MANEUVER phase two: anemotaxis』
2006年2月リリース

●大嶋啓之 feat.片霧烈火「why, or why not」
2006年6月リリース

●大嶋啓之 feat.片霧烈火『ORBITAL MANEUVER phase three: phototaxis』
2006年8月リリース

▼『ひぐらしのなく頃に イメージアルバム かけらむすび』
2006年9月リリース ※「When They Cry」収録

▼『あさやけぼーだーらいん』
2006年12月リリース ※「ヒカリ」収録

▼『ひぐらしのなく頃に解 イメージアルバム こころむすび』
2007年12月リリース ※「ワタシのタメのセカイのアリカタ」収録

●『Yggdrasill Minstrelsy -The Eternal Skywalker-』
2008年2月リリース

●大嶋啓之 feat.宮良彩子『Blue Canopy』
2008年8月リリース

 2005年10月から2006年8月にかけてリリースされた『ORBITAL MANEUVER』三部作は、ゆるやかに滅びを迎えつつある世界を離れ、〈方舟〉とともに宇宙のはるか彼方を目指す人類を描いたコンセプトミニアルバム。サウンドプロデューサーに大嶋、コンセプト&作詞にstudioCampanellaのinterface、アートディレクションに〈BEMANI〉シリーズのムービークリエイターとして知られるTa-kを迎え、サウンドとヴィジュアルの双方からSF的世界観にアプローチし、「環を描いて周遊するそれを、やがて私たちは方舟と呼ぶ」「“Orbital Maneuver”、始まりへと還る天空の軌跡」「世界は、そしてゆるやかに閉じてゆく」というフレーズがストーリーの通奏低音となっている。本作のきっかけについて、プロデューサーの高橋はインタビューでこう語っている。

『OM』の場合は、『beatmania IIDX』の映像制作でお付き合いのあった、Ta-kさんという方のヴィジュアルがまずありきでした。彼の作ったヴィジュアルを一番に活かして、以前から挑戦してみたいと思っていたSFを表現したい、と。ACI三部作が終わったあと、漠然とそんなことを考えながらmuzieで大嶋さんの曲を聴いていたら、何かがピンと来て「もしかしたら、この人だったらできるかもしれない」と思ってメールを出したんですね。

三才ブックス『同人音楽を聴こう!』(2007年10月25日発行)内、「Voltage of Imagination 対談:高橋和也×interface×大嶋啓之」より

※筆者注
OM=ORBITAL MANEUVER
ACI=Ancient Colors Infinity

 いずれもメイン3曲+セルフリミックス2曲+オフボーカル3曲の構成で、ミュージッククリップを同梱したエンハンスドCD仕様。未来へ向けた旅立ちをテーマとした『phase one: geotaxis』では霜月はるか、星の終焉を見届けるためだけに造られた方舟という人工物による追憶をテーマとした『phase two: anemotaxis』では茶太、過去や亡き星への郷愁の念をテーマとした『phase three: phototaxis』では片霧烈火をフィーチャリングし、ドラムンベース&アンビエント路線の歌ものを展開。作品の背後にあるスケール感を時に力強く、時に柔和に表現し、それぞれが響き合う連作となった。『phase three: phototaxis』のラストを飾る「arcane blue」には前2作のメロディも織り込まれ、まさに連環を成すようにして幕を閉じる。

『why, or why not』
『why, or why not』

 2006年にVoltage of Imaginationはアニメ『ひぐらしのなく頃に』とのタイアップを発表し、第1期(2006年4月~9月)、第2期『ひぐらしのなく頃に解』(2007年7月~12月)、OVA『ひぐらしのなく頃に礼』(2009年2月~9月)の各エンディングテーマのプロデュースと、イメージアルバムの制作を担当した。第1期エンディングテーマ「why, or why not」は、『ORBITAL MANEUVER phase three: phototaxis』と同じメンバー(歌:片霧烈火/作詞:interface/英語補作詞:綾菓/作編曲:大嶋啓之)で制作されたシンフォニックバラードである。シングルCDは、オリコンチャートで最高30位にランクインを果たした。

 2枚のイメージアルバム『かけらむすび』『こころむすび』は、同人音楽シーンの著名アーティストたちが思い思いに作品へのリスペクトを込めた楽曲を収録したオムニバス形式の作品。片霧烈火が企画・構成を手がけ、天門、霜月はるか、bassy、風葉(綾菓&来兎)、大嶋啓之、zts、onoken、studioCampanella、癒月、Morrigan、MintJam、anNina(Annabel&bermei.inazawa)、結月そら、daiが参加し、イメージアルバムとしては異例といえる30000枚超えのセールスを記録。大嶋は竜宮レナのイメージソング「When They Cry」(歌:片霧烈火/作詞:竜騎士07 with 片霧烈火)と、鷹野三四のイメージソング「ワタシのタメのセカイのアリカタ」(歌・作詞:片霧烈火)を制作した。

 

 

『あさやけぼーだーらいん』
『あさやけぼーだーらいん』

 前述の2枚のイメージアルバムの間にリリースされた『あさやけぼーだーらいん』は、企画・構成に茶太とbermei.inazawa、アートディレクションにヨシツギ、ヴォーカルに茶太、作詞にinterface、作曲にbermei.inazawa、大嶋啓之、当時『ラグナロクオンライン』『テイルズウィーバー』などのコンポーザーとして知られたESTi(Park Jin Bae)を迎えて制作されたオリジナルアルバム。「世界」と「わたし」の境界線上でもがき、湧き上がる焦燥感を綴った詞に、大嶋はアンビエントテクノの要素を絡めたアコースティックバラード「ヒカリ」を提供した。

『Yggdrasill Minstrelsy』
『Yggdrasill Minstrelsy』

 2006年12月に企画が立ち上がり、入念な制作期間を経てリリースされた『Yggdrasill Minstrelsy -The Eternal Skywalker-』は、ウスダヒロの美麗なイラストレーションとinterfaceの重厚な世界設定に大いにインスピレーションをかき立てられた大嶋が、サウンドプロデュースと全楽曲を手がけたコンセプトアルバム。度重なる政争により王統が絶え、求心力を失ったことで滅びの道を辿りつつある浮遊城。戦火を生きのびた王女は「――かくもながき王の不在、なおも玉座は天空にある、野に下り血を残せ」という神の啓示に導かれるままに地上へ降り、やがて教会で邂逅した一人の吟遊詩人とともに世界をめぐる旅を続けるうちに一つの答えを見出すというストーリーが10の楽曲で綴られる。

 ハイファンタジーな世界観を表現するために歌詞は全て造語で綴られ(日本語詞を多言語に翻訳してエッセンスを抽出し、韻を踏ませたうえでメロディに合わせた調整を施すという作業が重ねられた)、電子楽器やピアノはほとんど使用せず、オーケストラサウンド、打楽器、民族楽器の音色を主体に、LiaとIkuko(野口郁子)のヴォーカルが貴種流離譚をしめやかに彩る。華やかな浮遊城をイメージした「Castle in the sky」に始まり、優雅でありながら、やがて訪れる落日を予感させるワルツ「Welcome to the masquerade」、力強さと躍動感にあふれるシンフォニック・ポップ「Garden of the palace」(歌:Lia)、9名からなる混声コーラスをフィーチャーした聖歌「Crying in the chapel」(歌:Lia)、スパニッシュとアイリッシュの風情が朗々たる歌声と絡む「Return to the sea」(歌:Ikuko)、レコーディング時にヴォーカル/コーラスのアドリブがふんだんに盛り込まれ、想定以上の濃密な仕上がりに大嶋も思わず圧倒されたというトラッド・ポップ「Rising from the falls」(歌:Ikuko)、ロー・ホイッスルと中川貴美子の哀切のヴァイオリンソロがリュートの響きに寄り添う「Requiem for the hermit」(歌:Ikuko)など、絢爛たるオーケストレーションから徐々にアコースティック/民族音楽色を強めていく流れは主人公の心境の変化を表現したものでもあり、アルバム前半部と後半部の楽曲が対を成すかのように響き合っている点にも瞠目させられる。デイヴィ・スピラーンやロリーナ・マッケニットなどのアイリッシュミュージックや、ロマ音楽、ポルトガルのファドから受けた影響も投影され、『Yggdrasill Minstrelsy』は濃密な作品となった。かつて『Paradise Lost』で見せた方向性の正統進化形というたたずまいも感じさせる興味深い一作だ。

『Blue Canopy』
『Blue Canopy』

 『Yggdrasill Minstrelsy』の制作を終え、次作の構想を練る大嶋とプロデューサーの高橋には、「もっと気楽に、気軽に聞けるものを作ってみよう」という共通認識があった。約半年後にリリースされた『Blue Canopy』は、夏、青空、青春などをテーマに、サウンドプロデュースに大嶋、作詞にinterface、ジャケットイラストレーションにtoi8、ヴォーカルに沖縄出身のシンガーソングライター宮良彩子を迎えて制作されたミニアルバム。ダンサブルで疾走感あふれるポップサウンドの上を、宮良のヴォーカルが鮮やかに流線を描いていく「Chronosphere」「Early Days」、ピアノやフルートの音色が夏の情景を瑞々しく描きだすインストゥルメンタル「Summer in Capsule」「Little Sunny Girl」、ストリングスアレンジとラテンパーカッションがバカンス感を演出する「Blue Canopy」の5曲を収録し、爽やかな味わいが琴線に触れる一枚となっている。

睡眠都市とハルモニア

『睡眠都市』
『睡眠都市』

 2009年と2010年に、大嶋は2枚のソロアルバムを相次いでリリースした。『Paradise Lost』から約6年を経て制作された『睡眠都市』は、茶太のヴォーカルをフィーチャーし、エレクトロニカを基調とした7曲を収める3rdフルアルバム。「独特の表現を模索し続けるターニングポイントとなる一枚」と帯で謳う通り、大嶋は本作で新たな方向性を示した。2年半前の『あさやけぼーだーらいん』で茶太と共作した「ヒカリ」では焦燥感にもがく姿が描きだされていたが、本作では深い喪失感や虚無感が横たわっているのだ。また、エレクトロニカやポストロックへの傾倒を強くうかがわせるものになっている。ビョーク、ウルリッヒ・シュナウス、レイ・ハラカミ、Gutevolk、Matryoshka、Aureoleなどのアーティストから少なからず影響を受けたのだという。

 ピアノトロニカ/シューゲイザー調のインストゥルメンタル「swim into the city」からシームレスにつながる「飛ぶ夢を見ない」ですでに死が示唆され、茶太のウィスパーボイスが儚さに拍車をかける。続く「ハルシオン」では不眠とオーバードーズに、「うそつきライアー」では嘘に、「close to close」では心の痛みに、「パーフェクトヴァニティ」では無の極致に、「睡眠都市」では諦念にスポットを当てる。大嶋は本作でこれまでになくダークサイドへまなざしを注ぎ、「苦しみを乗り越えて頑張ろう」ではなく「苦しみを受け入れて諦めよう」という方向性の癒しという、商業作品ではきわめて難しいテーマを追求してゆく。歌われているテーマは暗く、救いがない。しかしサウンドはどこまでも暖かで心地よく、聴き手を微睡みへといざなってゆく。二律背反的なヒーリングミュージックがここにある。曲目と歌詞が印字された数枚の透明なカードの重なりがアルバムジャケットになるというパッケージング(坂本龍一『the very best of gut years 1994-1997』のアルバムジャケットからヒントを得たという)や、限りなく「無色」であることを目指したデザインも印象深い。数々の声なき声が視覚的に浮かび上がってくるかのようだ。アルバムは約4000枚を売り上げ、大嶋のインディーズ活動に確かな手ごたえをもたらした。

『ハルモニア』
『ハルモニア』

 翌年にリリースされた『ハルモニア』は、三澤秋のヴォーカルと今野隼史のイラスレーションとコラボレーションした5曲入りミニアルバム。ピアノを中心に、ロー・ホイッスル/ティン・ホイッスル、アコーディオン、ストリングスアレンジが寄り添うように加わっていくアコースティック編成のもと、大切なものの喪失と追想を優しく綴ってゆく。大嶋が暖かなまなざしで紡いだ詞も味わい深く〈いつか隣で歌おうよ ひとりでは出せない和音に 喜びを重ね合えたら 悲しみは半分に 分かち合えるから〉という「ハルモニア」の最後の一節に深く胸を打たれた。

Voltage of Imaginationへの参画(パート2)

 媒体やジャンルを越えたメディアミックス展開で、音楽シーンに独自の存在感を示したVoltage of Imaginationは、2008年までの活動を第1期とし、2009年から第2期として始動。コラボレーションのスケールをさらに拡大していく。大嶋も引き続きレーベルの中心的クリエイターとして存在感を示した。下記に2009年から2013年にかけてリリースされた大嶋関連作品を一覧でまとめた。

大嶋がメインコンポーザーを務めた作品は●、楽曲を提供した作品は▼で記す。

▼『空想活劇』(コンピレーションアルバム)
2009年12月リリース ※「旅の途中」収録

▼みとせのりこ『ダブルブリッド Depth Break』
2010年8月リリース ※「序」「Depth Break」「硝子玉の中のセカイ」収録

●大嶋啓之 feat.茶太『ミクロコスモス ―アスクライブ・トゥ・ヘヴン・イメージソング―』
2011年9月リリース

▼『空想活劇・参』(コンピレーションアルバム)
2012年1月リリース ※「Smileより愛をこめて」収録

●大嶋啓之 feat. 多田葵、あにー(TaNaBaTa)『星海のアーキペラゴ』
2012年5月リリース

▼『VOI best selection - Caelum』(ベストアルバム)

2013年8月リリース

※「硝子玉の中のセカイ」「Early Days」収録

『空想活劇』
『空想活劇』

「架空のアニソンのヒットチャート」をテーマに、イラストレーター、映像クリエイター、コンポーザー、ヴォーカリストが饗宴するコンピレーションアルバム「空想活劇」シリーズは、第2期Voltage of Imaginationを象徴するプロジェクトであった。第1弾『空想活劇』では、大嶋は霜月はるかの作詞&ヴォーカル、Ninja Action Teamの盟友・オルダのイラストレーションとコラボレーションした「旅の途中」で参加。旅立ちとボーイ・ミーツ・ガールをテーマにしたポップバラードで爽やかなファンタジー世界を表現した。

『ダブルブリッド Depth Break』
『ダブルブリッド Depth Break』

 2008年~2009年にかけて川上稔の『終わりのクロニクル』のイメージアルバム(サウンドプロデュース:onoken)を制作し、2009年に入間人間の『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』のイメージアルバム(サウンドプロデュース: bermei.inazawa)を制作したVoltage of Imaginationが次に注目したライトノベル作品が、2008年に完結を迎えた中村恵里加の『ダブルブリッド』であった。中村による書き下ろし短編を収録したハードカバーブックレットを同梱したイメージアルバム『ダブルブリッド Depth Break』は、原作を深く敬愛する みとせのりこが企画・構成・作詞・ヴォーカルを手がけ、作編曲陣に大嶋啓之、流歌、Daniを迎えた一作。重厚壮麗なコーラスワークを伴う「序」、a2c(MintJam)のギターとDaniのベースが織りなすスリリングなバンドサウンドがプログレッシヴ・ロック的なダイナミズムにあふれる「Depth Break」、ウィスパーボイスが淡く溶けこむミディアムバラード「硝子玉の中のセカイ」の3曲を大嶋は提供した。

『ミクロコスモス アスクライブ・トゥ・ヘヴン・イメージソング』
『ミクロコスモス アスクライブ・トゥ・ヘヴン・イメージソング』

 『ミクロコスモス ―アスクライブ・トゥ・ヘヴン・イメージソング―』は、杉崎ゆきるのコミックス『アスクライブ・トゥ・ヘブン』とタイアップしたマキシシングル。杉崎が『ORBITAL MANEUVER』シリーズのファンであるということからコラボレーションの話が持ち上がった。物語序盤のオープニングテーマをイメージした「ミクロコスモス」、主人公ミニイのキャラクターイメージソング「夢見るチカラ」を収録し、茶太のヴォーカルによるドリーミーなポップチューンを聴かせる。

『星海のアーキペラゴ』
『星海のアーキペラゴ』

 かつて高橋と大嶋が『ORBITAL MANEUVER』三部作の企画を進めていた際に大きなインスピレーションを得た作品のひとつが、SF作家・小川一水が2003年に発表した月面開発小説『第六大陸』だった。それから約7年――コンピレーションアルバム『空想活劇・参』に収録された「Smileより愛をこめて」(大嶋啓之×多田葵×らいあん×小川一水)で大嶋と小川とのコラボレーションが実現した。同曲の世界観はその後、「空想活劇 REALiZE」と銘打たれたプロジェクトのもとに再構築され、大嶋がサウンドプロデュースと全作詞・作曲を手がけ、小川が短編「星のみなとのオペレーター」を書き下ろし、筑波マサヒロと、らいあんのイラストレーションを配したハイブリッド・シネマティック・イメージアルバム『星海のアーキペラゴ』へと発展した。舞台は、人類が宇宙へと移住し、小惑星間の宇宙船航行が当たり前となった時代の太陽系。小惑星「イダ」の宇宙港管制室のオペレーターとして日々を送る筒見すみれは、ある日ひょんなことから気密埠頭で三角コーン状の奇妙な小型物体「コンちゃん」と出会う。一人と一体はやがて、太陽系に十兆個の「宇宙ウニ」が流れこむ未曽有の出来事に直面し――未来の日常と広大なスケールを活写したSFドラマが、《励まし系シンガーソングライター》の多田葵、ロックバンドTaNaBaTaのあにーをヴォーカルに迎えた叙情的なエレクトロポップ/ギターロックサウンドで展開される。

小川さんの豊かな発想に対してこちらがつまらないものを作っては申し訳ないという必死さと、たっぷり時間をかけて作ることが出来た余裕のおかげで、自分のポテンシャル以上の表現が出来たように思います。遊び心を加えたいという意識も常にあり、それが変わった発想に結びつくこともあります。

フリーペーパー『Voltagenation Magazine 03(2012.April)』内、大嶋啓之インタビューより

 アルバムは、宇宙を切り拓く人類の冒険心を伝える《Archipelago side》、すみれのパーソナルな心境が綴られる《Operator side》、そのどちらにも属さない《Intermezzo》の3つのパートが交錯する構成となっている。オープニングを飾る「イマジネイション・ボルテージ」(歌:あにー)、エンディングを飾る「ようこそ、太陽系へ。」(歌:多田葵)は、人間の想像力に対する高らかな賛歌でもあり、ひいてはVoltage of Imaginationというレーベルのスタンスを改めて伝える楽曲ともいえる。VOCALOIDをフィーチャーした《Intermezzo》の2曲「いさましいちびの三角コーン」「空から降る十兆のウニ」は、英単語や英字が散りばめられた詞が伸びやかに歌い上げられることで日本語詞の響きになるというユニークな趣向に思わず唸らされる。ウニウニとうねるシンセサイザーのバッキングの上でひたすら「uni」と連呼される「空から降る十兆のウニ」は、「uni」の羅列で構成された歌詞からとあるメッセージが浮かび上がるというギミックも仕込まれ、聴覚的にも視覚的にも「ウニ尽くし」で迫る。肉声で歌われた楽曲ではないことにも意味があり、ストーリーとのリンクの妙も感じさせるのだ。第2期Voltage of Imaginationにおける大嶋のクリエイティヴィティの集大成といえよう。

オペレーターサイドにはひたむきで内に秘めた芯の強さを持つ女性を、アーキペラゴサイドには未来形のロックに合う艶やかな声を持つ男性を希望しました。インテルメッツォは何なのか? そこはイマジネーションを働かせてほしいと思います。

フリーペーパー『Voltagenation Magazine 03(2012.April)』内、大嶋啓之インタビューより

アニメ『アクセル・ワールド』の劇伴制作

『Accel World Original Soundtrack feat.大嶋啓之』
『Accel World Original Soundtrack feat.大嶋啓之』

 2012年4月から9月にかけて放送されたアニメ『アクセル・ワールド』の劇伴制作に大嶋はMintJam、onokenと連名で参加。三者三様のスタイルが展開され、大嶋作曲の劇伴は同年7月リリースのサウンドトラック『Accel World Original Soundtrack feat.大嶋啓之』にセレクション収録された。レコーディングでは篠崎正嗣ストリングス、篠崎正嗣(ヴァイオリンソロ)、堀沢真己(チェロソロ)、小竹まり(ティンパニ)、中西康晴(ピアノ)、a2c[MintJam](ギター)、御徒町洋一、安西康高、立花敏弘、原田真純、大木理沙、四宮みゆきの混声コーラスセクションを迎え、喜怒哀楽の表情とジャンルのバラエティに富んだスコアを作り上げている。大編成の生ストリングスサウンドの導入は大嶋のキャリアにおいて初の試みであり、本サントラの大きなポイントでもある。主人公のハルユキ/シルバー・クロウをイメージしたテーマ「シルバー・ウイング」ではブレイクビーツと華麗にミックスされ、疾走感とダイナミズムを併せ持った仕上がり。同曲のモチーフは「クリア・デイズ」「ヴァーミリオン・フィールド」「ピア・ピクチャー」「アイアン・ウィル」において、それぞれイージーリスニング、エピック、オルゴール、ハード・ロックスタイルのアレンジが施されている。

 作中のレギオン〈ネガ・ネビュラス〉のイメージを荘厳なコーラス(詞はラテン語をベースにした造語)に託した「ブラッド・ヒストリー」「ゴールデン・グローリー」も印象深い。「ブラッド・ヒストリー」のモチーフは、ピアノスコア「セラミック・ハート」や、ソプラノコーラスとティン・ホイッスルの響きが織りなすスカイ・レイカーのテーマ「スカイ・ドリーム」、シンフォニックスコア「レインボー・オーロラ」にも織り込まれ、象徴性を強めている。ボーナストラックとして収録された「Re-incarnate」は、みとせのりこを作詞・ヴォーカルに迎えた書き下ろしのイメージソング。同曲も「ブラッド・ヒストリー」のモチーフがベースになっており、アップテンポの颯爽としたエレクトロポップチューンでサウンドトラックを締めくくる。その後、大嶋は三澤紗千香のヴォーカル、TERRA(MintJam)の作詞、onokenの編曲によるイメージソング「Fadeless Memories」を作曲。同曲は2013年2月に発売されたBD/DVD第8巻の初回限定版の特典CDに収録された。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる