『ファミリージョッキー』から『ウマ娘 プリティーダービー』まで――“ウマのゲームミュージック史”を振り返る

 1975年、第一次競馬ブームの立役者ハイセイコーが引退。同馬の主戦騎手だった増沢末夫が歌う「さらばハイセイコー」がヒットした。同年に任天堂レジャーシステムから発表されたメダルゲームマシン『EVR RACE』は、「映像を使った競馬ゲーム」の第1号であり、任天堂の初めてのビデオゲームとなった。1987年4月にナムコから発売されたファミリーコンピュータ用ソフト『ファミリージョッキー』は、競馬をテーマにした家庭用ゲームのパイオニ
アとして知られている。1990年代にはアスキーから『ダービースタリオン』、コーエーから『ウイニングポスト』、テクモから『ギャロップレーサー』シリーズが登場。他社もこぞって競馬ゲームに参入し、活況を呈した。

 ここ最近の動きでは、2020年12月にゲームアディクトからNintendo Switch用ソフト『ダービースタリオン』が発売。2021年2月/3月にCygamesからスマートフォン/PCゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』が配信。同年4月にコーエーテクモゲームスからプレイステーション4/Nintendo Switch/PC用ソフト『Winning Post 9 2021』が発売された。今回は、一つのジャンルとして確固たる地位を築いて久しい競馬・競走馬にまつわるゲームを、音楽や関連CDの紹介とともに追っていきたい。

《目次》
▼『ファミリージョッキー』
▼『ウイナーズホース』
▼『ダービースタリオン』
▼『ウイニングポスト』
▼『ギャロップレーサー』
▼家庭用競馬ゲーム リリースラッシュ

▼『ファイナルハロン』
▼『GI』シリーズ

▼『StarHorse/スターホース』
▼『DERBY OWNERS CLUB/ダービーオーナーズクラブ』
▼『ソリティ馬』
▼『ウマ娘 プリティーダービー』

『ファミリージョッキー』

 1987年4月にナムコ(現・バンダイナムコエンターテインメント)から発売された『ファミリージョッキー』は、『プロ野球ファミリースタジアム』(1986年12月発売)に端を発する「ナムコットファミリーシリーズ」の第2弾タイトル。スティーブン・コリンズ・フォスターの「草競馬」のアレンジも交えたカントリーウエスタン調の音楽は、『ギャプラス』『ドルアーガの塔』『ローリングサンダー』などの小沢純子が手がけた。ゲームオリジナル音源は、2004年12月にメガハウスから発売された8cmCD付きの食玩「ゲームサウンドミュージアム ~ナムコット編~」(全15種類)のVol.08に、『ファミリーテニス』『ファミリーサーキット』と併録された。

 1988年8月にリリースされたオムニバスアルバム『ナムコット・ゲーム・ア・ラ・モードVol.2』と、1989年11月にリリースされたベストアルバム『ナムコ・ベスト・ヒット・パレード!』に、BGMのヴォーカルアレンジヴァージョン「恋のダーク・ホース」(作詞:弓達公雄/作曲:小川純子/編曲:米光亮)が収録された。当時ビクター音楽産業の邦楽本部制作部長だった「ルイジアナ部長」こと飯田久彦がヴォーカルをとり、同社制作部に所属していた「マイケル高橋」こと高橋卓士がレース実況風のパフォーマンスを披露したコミックソングだ。飯田は同社でディレクターとして松崎しげる、岩崎宏美、ピンク・レディーなどを担当した経歴を持つが、キャリアの出発点はアイドル歌手であり、1961年に「悲しき街角」(デル・シャノンのカヴァー)で日本コロムビアからデビューし、同年発売の「ルイジアナ・ママ」(ジーン・ピットニーのカヴァー)でヒットを飛ばした経歴を持つ。「恋のダーク・ホース」は飯田が久しぶりにヴォーカルをとった楽曲という点でも興味深い。飯田はこの後、ビクターエンタテインメント専務取締役を経て、テイチクエンタテインメント代表取締役社長・会長、エイベックス・エンタテインメント株式会社取締役を歴任する。

『ウイナーズホース』

WINNERS HORSE
WINNERS HORSE

 1980年代末、イナリワン、オグリキャップ、スーパークリークの「平成三強」の活躍を中心に第二次競馬ブームが巻き起こった。ブームの影響はビデオゲーム業界にも波及し、『KEIBA SIMULATION 本命』(日本物産/1989年4月発売)、『井崎脩五郎の競馬必勝学』(イマジニア/1990年3月発売)、『一発逆転!! DX馬券王』(アスミック/1991年5月発売)などの競馬予想ソフトが続々と登場。携帯性という利点もあり、特にゲームボーイで数多くの競馬予想ソフトが制作された。1991年9月にメサイヤ(日本コンピュータシステム)から発売された『ウイナーズホース』(開発時タイトルは『馬大将』)は、競馬予想モードがサブで備わった競走馬育成シミュレーション。翌年に『重装機兵ヴァルケン』や『超兄貴』を手がける土田俊郎(現・ジークラフト代表取締役)がプロデュースしたソフトでもある。音楽は、同社の『ジノーグ』『ラングリッサー』を手がけた岩垂徳行が担当。岩垂自ら「秀逸の出来」と太鼓判を押すカントリー調のポップサウンドは、崎元仁(現・ベイシスケイプ代表取締役)のサウンドマニュピレートと相まって抜群の鮮やかさと音数の多さで聴かせる凝った内容だ。EGG MUSICにてサウンドトラックがデジタル配信されているので、チェックしてみてほしい。

ウイナーズホース オリジナル・サウンドトラックス
【EGG MUSIC】
https://www.amusement-center.com/project/emusic/cgi/eggmusic_catalog-detail.cgi?product_id=7241

『ダービースタリオン』

 1991年12月にアスキーから発売されたファミリーコンピュータ用ソフト『ベスト競馬・ダービースタリオン』(ダビスタ)は、野球シミュレーションゲーム『ベストプレープロ野球』の開発に携わった薗部博之(現・パリティビット代表取締役)が3年以上の開発期間を経て世に送り出した競走馬育成シミュレーションシリーズ第1作(翌年8月には内容をリニューアルした『ダービースタリオン 全国版』が発売)。音楽は、80年代にカプコンで『ロックマン』『天地を喰らう』『エリア88』などの音楽に携わった松前真奈美。3拍子が心地よい牧場のテーマやカントリー調の厩舎のテーマをはじめ、クラシカルな響きとポップなベースラインを持った楽曲を聴かせる初代『ダビスタ』は、松前がフリーランスとなって初めて手がけたタイトルである。

Derby Stallion II
Derby Stallion II

 1994年2月、スーパーファミコン用ソフト『ダービースタリオンII』が発売。タケカワユキヒデや早見優の楽曲アレンジ/プロデュースや、エニックスの『ソウルブレイダー』で編曲を手がけたKAZZ TOYAMAこと外山和彦が音楽を担当。暖かみを帯びたシンフォニックなメインテーマのフレーズは牧場のテーマや厩舎のテーマなどでも変奏され、オリジナルファンファーレの数々も聴きごたえ十分に仕上がっている。同年4月には薗部監修によるドラマ&サウンドトラックCD『ダービースタリオンII 〈神馬誕生〉』がリリースされた。ドラマパートのストーリーは、1989年の朝日杯3歳ステークス(現名称・朝日杯フューチュリティステークス)で幕を開ける。そして翌年秋、ゲームデザイナーの岩城潤一のもとに、旧友・柴田良平から一頭の競走馬を預かってほしいという電話がかかってくる。岩城は言われるがまま、山梨の牧場に向かい――。旧交を温める二人のやりとりを通して、「後の世代に夢を繋げる」というテーマを内包したドラマがしみじみとした感動をもたらす。井上和彦、堀内賢雄、三石琴乃が出演したドラマパートの脚本・演出は、フュージョン・バンド PARACHUTEやロック・バンド AB'Sのメンバーであり、作詞家としても著名な安藤芳彦によるもの。音楽・演奏は、タイトーの『ピラミッドパトロール』『ロケットコースター』の音楽を手がけた小倉超(おぐら・わたる)。外山作曲のゲームBGM(メインテーマ、牧場のテーマ、エンディングテーマ)も小倉のアレンジで収録されている。細部に至るまで丁寧に作りこまれた企画盤だ。

 1995年1月、スーパーファミコン用ソフト『ダービースタリオンIII』が発売。音楽担当は再び松前となり、以降、2020年12月発売のNitendo Switch版『ダービースタリオン』に至るまで、ほぼすべてのシリーズタイトルの音楽を手がける。余談だが、松前はダビスタシリーズの音楽制作が縁で、すぎやまこういちに初めて会う(すぎやま作曲のGIファンファーレを松前がゲーム用にデータ化した際、データチェックをすぎやま本人に依頼している)。すぎやまは、かねてから松前の音楽を高く評価しており、後にスクウェア・エニックスの『ドラゴンクエストソード 仮面の女王と鏡の塔』の音楽制作を松前に依頼した。

◆『ロックマン』のサウンドが世界で愛され続けている理由──松前真奈美×安藤武博 対談【サウンドコンポーザーに訊く!/連載第5回・前編・後編】
http://sisilala.tv/myarticles/334
http://sisilala.tv/myarticles/335

Derby Stallion
Derby Stallion

 1997年7月に発売されたプレイステーション用ソフト『ダービースタリオン』は、国内出荷本数が200万本を超えるメガヒットを記録した。1998年6月にはアレンジアルバム『ダービースタリオン オリジナルサウンドトラック』がリリース。マンハッタン・ジャズ・オーケストラ(MJO)のフロントマンであるデヴィッド・マシューズがアルバムの全面プロデュースを担当した。マシューズは80年代末に日本ファルコム作品のアレンジを手がけ、ゲーム音楽のフュージョンアレンジブームに先鞭をつけた人物でもある。「よくダビスタの夢を見る方、JAZZが好きという渋い方、まとめて面倒みましょう」という帯のキャッチフレーズの通り、ゴージャスなアコースティック&ジャズを聴かせる。MJOの面々に加えて、METROのギタリストであるチャック・ローブが参加し、ヴァイオリン/チェロ奏者を十数名、フィドル奏者、バンジョー奏者、ハープ奏者を擁したスペシャル編成による演奏は、同時期のMJOのアルバムとは一味も二味も異なる。ボーナストラックには、厩舎のテーマを小林克也歌唱でコミックソング調にアレンジした「待ってろGI~バンブーシャンプーのテーマ」を収録。なお、厩舎のテーマは1998年5月にエアーズからリリースされた、コンピュータゲーム20周年記念コンピレーションアルバム『祭囃子~ゲームトリビュート』にもアレンジヴァージョンが収録されている。編曲はアコースティックギターデュオのゴンチチ(ゴンザレス三上&チチ松村)が手がけており、トロピカルなアレンジが秀逸だ。

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