授業中、モンスターに襲われる生徒たち……カナダの教授が『マインクラフト』で講義を行う。なぜかサバイバルモードで。

 カナダのコンコルディア大学で英語を教えるDarren Wershler教授はユニークな取り組みを行っており、その研究成果をドイツの学術誌「Gamevironments」で発表した。発表された論文によると、Wershler教授は大学で担当している「近代の歴史と文化」に関する授業をサンドボックスゲームの『Minecraft』とボイスチャットツールの「Discord」を使って行ったという。

 『Minecraft』はシンプルなゲームであり、主に子供から支持を受けるタイトルだ。しかしWershler教授はその自由度の高さを教育に活用するアプローチを試みた。コロナ禍によって、ほとんどの教育現場が満足な準備もできないままオンライン授業を開始する必要に迫られたなか、『Minecraft』に白羽の矢が立ったという。教授によれば、同ゲームを活用すればオンラインでも「体験を通して学ぶ授業」が可能だということだ。

 授業のグループワークなどはすべて『Minecraft』のマルチプレイサーバー内で行われ、進行の指示や授業中の会話などにはメッセージアプリの「Discord」が使われた。学生たちはすぐにこの”新しい教室”に慣れ、学習環境に順応したそうだ。

 この授業について教授は「これはビデオゲームの研究コースではないし、既存の授業をただゲーム内でなぞっている訳でもない」と語る。「これは既存の教育手法とは異なるものだ。ゲームで遊ぶことと、授業について考えること、この2つを同時に行うことで、新たな学びが生まれることもある」とコメントしている。

 たとえば、普段はリーダーシップをあまり発揮しない学生が指導する側に回るなど、他の学生を率いて授業に取り組むことがあったそうだ。彼らはゲームに慣れ親しんだ学生で、他の学生にゲームの基本的な操作方法や、ゾンビやスケルトンなどの外敵から身を守る方法を教えるなど、『Minecraft』のプレイ方法を率先してレクチャーしていた。これは彼らに「リーダーシップを発揮する」という体験をもたらしており、一連の取り組みによって教授も学生も新たな学びを得たといえるだろう。

 『Minecraft』には敵が出てこない「クリエイティブモード」と、敵が定期的に現れる「サバイバルモード」があり、教育の現場などでは通常前者のモードが好まれる。しかしこの授業はサバイバルモードで行われたため、不慣れな学生たちはプレイ中に敵の襲撃で死んでしまうこともあったそうだ。

 Wershler教授は「学生たちがこうした理不尽に直面することは重要だ」と述べ、「課題を達成するには努力が必要で、それでも高確率で失敗が生じることを考えさせ、体験させるために必要なのだ」と解説している。

 学生たちは『Minecraft』の中で講義を受け、近代建築の構造や問題について学びながら、グループワークでは現実世界にある建築物を『Minecraft』上で再現する取り組みを行ったという。

 授業の中でMoshe Safdie氏が制作した「Habitat 67」のモデルはカナダ・モントリオールに建てられた集合住宅で、モントリオール万博で展示された建築物のひとつだ。

 また、日本・東京の「中銀カプセルタワービル」をモデルにした建築物を作ったチームも見られた。『Minecraft』の村人が住む労働都市をデザインしたという。

 Wershler教授は、2つの建築物についてどちらも「『Minecraft』のシステムと親和性が高く、モデルとしてぴったりだ」としており、『Minecraft』を通して学問的目標を達成した例として挙げている。

 2014年から自身の授業の一部で『Minecraft』を活用してきたWershler教授。『Minecraft』と「Discord」によって授業を行う取り組みが成功し、新たな教育手法として通用する手応えを実感したそうだ。教授は「今回使用したようなツールを用いることで、ゲームを通じて様々な科目を教えることができるはずだ」と述べ、建築やデザイン、エンジニアリングや情報科学、あるいは歴史、文化研究、社会学など、さまざまな科目への応用が可能だとしている。

〈Source〉 https://www.concordia.ca/news/stories/2022/02/22/a-minecraft-build-can-be-used-to-teach-almost-any-subject-according-to-concordia-researchers.html

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