『ヘブンバーンズレッド』 その核をなす、麻枝准というクリエイターの「最大の武器」と「人生」

『ヘブバン』から考える、麻枝准の「創作論」

この「過酷」な世界に立ち向かうすべての人に

 2020年に放送されたアニメ『神様になった日』は「麻枝准の原点回帰」を旗印に制作された。企画スタートの時期は『ヘブバン』と重なっており、発表時期こそ前後したものの、この2作は麻枝准というクリエイターの「第2の人生」をスタートさせるにあたっての両輪をなしていると言える。麻枝いわく、『神様になった日』の「原点」はKeyの第一作『Kanon』で麻枝が執筆を担当した「沢渡真琴ルート」に設定されていたそうだが、『ヘブバン』にはまた違った「原点」の存在を見て取ることができる。劇中に初めてバンドを登場させたオリジナルアニメ第一作『Angel Beats!』、やなぎなぎとの初タッグでRPG的な世界観に挑戦した『終わりの惑星のLove Song』、そしてKey以前、Tactics時代に初めてメインライターを務めた実質的第一作『MOON.』における「女性主人公の一人称視点で進行するシナリオ」などがそうだ。しかし、それらに単に回帰するだけでなく、スマートフォンゲームという新しいプラットフォームで自らの最も強みとする演出力を軸にアップデートを図っているのが『ヘブバン』だということは、本稿を通じてご理解いただけたのではないかと思う。

 あのころはよかったと過去を振り返るのではなく、常に挑戦する姿勢こそが麻枝准には似つかわしい。世界の理不尽さにぼろぼろになりながらも前に進み続ける……そんなキャラクターたちとその背後に透ける麻枝自身の姿に、筆者も何度となく「自分も生きていこう」と奮い立たされてきた。そんな麻枝准の核が詰まった『ヘブバン』が世代や国境を超えかつてない規模で受け入れられようとしているのなら、こんなにも喜ばしいことはない。

 この「過酷」な世界に立ち向かうすべての人に、麻枝准の作品は開かれている。筆者はずっとそう信じている。

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