放映権料は世界最大規模 スーパーボウルのCMを“クルマ”の観点から紐解いてみる

“クルマ”の観点からみたスーパーボウルのCM

 2022年2月13日(現地時間)に開催された、NFLの優勝決定戦『スーパーボウル』。アメリカで最も注目度が高いスポーツイベントとして知られ、“アメフトの試合“としてだけでなく、国歌斉唱や豪華なメンツが集結するハーフタイムショー、そして高額なチケット価格など、その周辺に関する話題も毎度世間を賑わせている。

 なかでもスーパーボウルとセットで語られることが多いのが「テレビCM」だ。スーパーボウルの視聴率は40%を超えるのがザラで、その視聴者数はアメリカ国内で1億人前後という大台を推移。

 ここに投下されるCMというのは必然的に注目度も高いので、各社は毎年スーパーボウル専用のCMを作り、耳目を集めることに注力している。キャスティングや監督がスペシャルなだけでなく、その構成も凝ったものが多く、さながら“CM博覧会”の様相を呈している。

 もちろんその放映権料も全米最大級、いや世界最大級だ。www.superbowl-ads.comがNielsen Media Researchのデータを基に作成した記事によると、今年のCM放映権料は30秒ベースで650万ドル。これはスーパーボウルの歴史上最高価格だ(1967年の第1回大会では3万7500ドルだった)。昨年はコロナ禍の影響もあって、一昨年と変わらない560万ドルで横ばいだったが、今年一気に90万ドルも値が上がったのは、アメリカが脱コロナムードの中にあることのあらわれなのかもしれない。

 各社が1回の放映の為だけにこれだけのコストを掛けるのは、もちろんそれだけのリターンがあるからだ。最近は放映後も動画サイトで視聴でき、(この記事のように)“スーパーボウルCM”という現象として扱われることも増えたので、この“CM博覧会”は今後も名物として続いていくことだろう。

 スーパーボウルの放送中には80から90のあらゆる企業、団体のCMが放送されるが、今回この記事では自動車メーカーのCMに注目。クルマ社会のアメリカで、全米の視聴者から最も注目されるCMという前提で、自動車メーカーがどんなCMを制作しているのか。それは今後の業界の動向を知るうえでも、なかなか興味深いのではないだろうか。

NISSAN「Thrill Driver」

Nissan Presents: Thrill Driver

 日産USAは、新型Zのプレゼント企画と映像作品を組み合わせた“Thrill Driver”キャンペーンをアピール。

 ド派手なアクション映画仕立てのThrill Driverは、コメディドラマ『シッツ・クリーク』(日本でもNetflixで視聴可能)で主演を務めたユージン・レヴィをフィーチャー。

 スタジオを歩いている彼がブリー・ラーソン(日産アンバサダーとして、彼女が新型ZをドライブするCM映像がすでに公開中)からZの鍵を受け取ると、最初はマニュアルシフトをぎこちなく操作していた彼がどんどん自信に満ちあふれ、気づけばアクション映画の主人公になっていたという構成。ドライブ中に『シッツ・クリーク』で妻・モイラを演じたキャサリン・オハラが登場するというのも注目点だ。

 このご時世にガソリン車スポーツカーだけを大きくアピールするわけにはいかないのか、EV車のアリアも各所で登場するが、日産がスーパーボウルCMを制作するのは2015年以来とのことで、やはり新型Zに賭ける気合いというのを感じずにはいられない。

TOYOTA「Start Your Impossible "Brothers"」

2022 Toyota Big Game Commercial: Brothers Extended Cut | Start Your Impossible

 トヨタUSAの1本目のCMは、Start Your Impossibleがテーマのメッセージ広告。

 パラリンピック・クロスカントリー・スキーヤーで、トヨタ所属のアスリートであるブライアン・マッキーバーと、そのコーチである兄のロビンにスポットを当てた内容だ。

 幼いころから兄弟でクロスカントリーに打ち込んでいたマッキーバー兄弟だが、ブライアンが19歳の時に視力が低下する病を発症。そこで一旦は絶望するも、兄弟二人の力でパラアスリートとして前進し続け、ブライアンは計17個のパラリンピックメダルを獲得する選手へと成長した。

 ブライアンの北京2022冬季パラリンピック出場と絡めた構成で、マッキーバー兄弟の成長と共に“傍にあるクルマ”として、初代セリカと5代目ハイラックスが登場する。

TOYOTA「The Joneses」

2022 Toyota Big Game Commercial Ft Tommy, Leslie, and Rashida: "The Joneses" | Toyota Tundra

 トヨタUSA2本目のCMは、1本目とはテイストが異なるコメディタッチの1本。砂漠の中で走る2022年式トヨタ・タンドラをドライブするのは、トミー・リー・ジョーンズ、レスリー・ジョーンズ、ラシダ・ジョーンズの3人の俳優。3人ともナンバープレートを“#1JONES(1番のジョーンズ)”にしており、砂漠のなかで彼らは激しいレースを繰り広げる。(ちなみに劇中BGMはトム・ジョーンズのIt's Not Unusualだ)。

 JONES PASSという山道を抜け、絶景の崖の前でレースを終えた3人がお互いを「ジョーンズ」と呼び合って一息ついていると、そこに4台目のタンドラが出現。中に乗っていたのはニック・“ジョナス”というオチ。

 なぜここまでジョーンズ押しの内容なのかというと、「Jones」という言葉が英語の慣用表現として「中毒」や「強い欲求」という意味があり、“タンドラに夢中”というメッセージが込められている模様。最後にニック・ジョナスが「keep up with the Jonases now」と言うのも、「keep up with the Joneses」が「ジョーンズについていく=仲間と同じライフスタイルを共有する」という表現であることを踏まえてのジョーク、ということのようだ。

GENERAL MOTORS「Dr. EV-il」

Dr. EV-il | #EVerybodyIn | 60 Second Spot

 GMは懐かしの『オースティン・パワーズ』をフィーチャー。Dr. Evil(ドクター・イーブル)の綴りの“EV”を“電気自動車”として解釈して遊んだ内容だ。

 GMがドクター・イーブルに買収されたという設定で、会議室には懐かしの『オースティン・パワーズ』の面々がオリジナルキャストで集結。孫が生まれたことを知ったドクター・イーブルは未来のために気候変動を止めるべく、EVを推進するという内容。

CHEVROLET「New Generation(The Sopranos)」

The First-Ever All-Electric Chevy Silverado – New Generation (The Sopranos) | Chevrolet

 GMはシボレーブランドでも、EVとリバイバルを2本柱にしている。フィーチャーされるのは完全EV仕様となったシルバラードと、大人気ドラマ『ソプラノズ』。

 『ソプラノズ』は1999年から2007年にかけて全6シーズンが製作されたマフィアの人間模様を描いたドラマで、エミー賞を通算17回受賞したほどの大ヒットドラマ。

 CM内でシルバラードのハンドルを握るのは、ソプラノ家の長女、メドウを演じたジェイミー・リン・シグラー。彼女はソプラノ家の地元のニュージャージーを発ち、やがてニューヨークに到着。そこでソプラノ家の弟、ロバート・アイラー演じる「A.J.」と再会する。淡々とフリーウェイを走るだけの展開は、EVシルバラードの優れた“航続距離”をアピールするためだと思われる。

 『ソプラノズ』のフィーチャーも、当時ドラマを見ていた世代に新しい時代のピックアップトラックを訴求したい狙いだが、アメリカのピックアップトラックのユーザーの大半が“保守的”な事を考えると、このEVトラックの存在がどう響いたのか興味深い。

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