エモくてシュール 『マリマリマリー』が生み出す、“アニメでしかできないお笑い”が支持されるワケ

“アニメでしかできないお笑い”が支持されるワケ

 2020年8月に突如として立ち上がった謎のYouTubeチャンネル『マリマリマリー』をご存知だろうか。「『エモいイラスト』と『シュールなコント』をテーマに新しいコンテンツを目指す」をコンセプトに立ち上げられたこのチャンネルは、コント作家・深見シンジ、TV・YouTube作家のさかもと良助、編集者の柳将博、イラストレーターのMORISAKI SHINYAからなるクリエイター集団が運営しており、シティポップ風のアニメ絵と登場人物達が淡々とした口調でボケ狂うコントのアンバランスさが話題となっている。同年9月、TikTokで「LINEでありがちな会話が複数並行するやつ電話でやるやつ」が拡散され一躍ブレイクし、いまやチャンネル登録者数は77万人を超えている。

#shorts LINEでありがちな会話が複数並行するやつ電話でやるやつ

 動画を観てもらうと分かるとおり、まず一番に目を引くのがMORISAKI SHINYAの描く「シティポップ風のアニメ絵」だ。細いタッチで描かれた大友克洋や高橋留美子、まつもと泉などの作品を彷彿とさせるイラストに、彩度の高いハッキリとした色合い、どこか不思議な雰囲気を醸し出す雑多な背景の組み合わせが、逆に今だからこそ新鮮さを生み出している。また、どの動画もキャラクターを演じる声優が「普通」なのだ。(「一般人」とだけクレジットされている)良い意味での棒読み感、声の張らなさが絵柄とマッチしていて絶妙な空気感を生み出している。

 このレトロでオシャレな絵と対極にあるような時事やトレンドを扱った内容のアンバランスさが人気の理由のひとつだ。例えば、マリマリマリーのYouTube登録者数を爆発的に増やすキッカケとなった「ひろゆきに影響を受けすぎた数学教師」は、タイトルどおりひろゆきのモノマネをする数学教師とそれを聞いている生徒達の授業風景を描いたコントで、設定としてはそこまで新しいというわけではないのだが

 教師「えっと、台形の面積の求め方を答えなさい。これ僕わからないんですけど長澤君分かりますか?」

 生徒「えー、はい、(上底+下底)×高さ÷2」

 教師「それってあなたの感想ですよね?なんかそういうデータあるんですか?」

 生徒「いや感想っていうか公式言っただけです」

 教師「…りんご5個とみかん10個買ったのですが」

 と、教師がひろゆきっぽいということに対して画面内の登場人物達はいっさいツッコむことがない。ただただ当たり前に「ひろゆきに影響を受けすぎた数学教師がいる教室」を受け入れている。この状況に、前述したMORISAKI SHINYAのイラストが相まって、「シュールの極み」のような独特の世界観を作り出しているのだ。

 また、このチャンネルで圧倒的人気を誇っているのが若者二人による何気ない日常のやりとりを描いたコント「かなめとレイジ」シリーズで、2人のほのぼのとした空気感と独特なワードセンスに病みつきになってしまう。

10回クイズのルールを全く知らない大人【アニメ】

 例えば、この「10回クイズのルールを全く知らない大人」も今までの人生で10回クイズを知らなかったレイジがかなめに10回クイズを出すというシンプルなものなのだが、かなめが10回クイズのルールを説明したときのレイジのリアクションが

 レイジ「ほぇえええ」

 かなめ「何だ“ほぇえええ”って」

 だけ。こういうなんでもないような「おふざけ」がサラっと散りばめられており、良い意味で「(2人以外の)他人を意識しないボケ」が非常に気持ち良い。また、それぞれの性格がしっかりと定まっているからこそ、生身の人間が演じるとわざとらしくなって冷めてしまいそうな会話でも、嫌味なく受け入れられる。かなめとレイジが休日に釣りを行く「エサに本気出しすぎるやつ」も、レイジが「海老で鯛を釣る」ということわざを真に受けて本当に海老をエサに釣りをするというメチャクチャすぎる設定なのだが、レイジが「底抜けにバカでクレイジーなキャラクター」として貫いているので視聴者は何一つ違和感なく2人の世界に入っていくことができる。マリマリマリー然り、カップヌードルのCMでも話題を集めているアニメコントチャンネル『はじめまして松尾です』然り、実写なら到底受け入れられそうにないカオスで支離滅裂な展開もアニメの中だからこそ成立している。それこそが舞台上のコントではない、「アニメでお笑い」をやる利点なのかもしれない。

 「アニメでしかできないお笑い」を体現しているマリマリマリーにこれからも注目していきたい。

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