声とテクノロジーで変革する“メディアの未来”(第八回)
ニッポン放送・冨山雄一と石井玄に聞く“音声業界のこれから” 「改編ありき」ではない新たな可能性への挑戦
コロナ禍で感じたラジオ放送にしかできないこと 「ここに来てみんなで作って喋ることに意味がある」
ーーPodcastなどの音声コンテンツが台頭してきたなかで、脅威に感じているものはありますか?
冨山:基本的に収録前提のPodcastと生放送前提のラジオは別物だと思っていて。いまは「朝になにを聴こう」と考えたときに、radikoのタイムフリーを聴こう、生放送のラジオを聴こう、お気に入りのPodcastを聴こう、Spotifyで音楽を聴こうなど、音声コンテンツの選択肢は様々です。だから脅威というより、ユーザーの耳に触れるものが増えたという感覚ですね。
――ある種自分たちのパイも広がっていると。
冨山:そうですね。YouTubeやテレビなどの動画のプラットフォームでも音声だけで聴けるようなコンテンツが増えていて、そういった音声コンテンツに触れた人がラジオに流れてくることもあると思うので、共存していければいいなという思いです。
石井: 3年前くらいからPodcastの盛り上がりが徐々に伝わってきて、社内でもデジタル部を中心にオリジナルコンテンツをもっと作っていこうという動きがあったんです。ニッポン放送が企画している「JAPAN PODCAST AWARDS」が始まったのもその頃です。その時から別に脅威とは思わず、ニッポン放送はむしろ地上波番組とうまく連携して他のPodcastとは違ったことができるという優位性があると思ったので。「面白いものを作ればいい」という構え方でしたね。それこそ『銀シャリのおトぎばなし』『アンガールズのジャンピン』『トム・ブラウンのニッポン放送圧縮計画』の制作にはオールナイトニッポンの番組を昔作っていたディレクターが僕含めてたくさんいるので、放送で培った経験が生きる作り方になっているのは面白いですね。僕からしたらレジェンドのディレクターが担当されているので、作り方も勉強になります。
Podcast市場全体でいうと、無限に作れてしまうという点が今後どうなるのか気になります。いまは増えていっている時期ですが、うまくいかないものが出てきてだんだん減っていくんじゃないですかね。でも、いまは可能性を広げる時だと思うので、片っ端からいろんなことに挑戦してみないとという気持ちですね。
冨山:SNSもありますし、誰でも自由に発信できる時代になったことは音声コンテンツにとって大きな影響があると思います。以前より俳優さんとかのラジオ番組が減っている感じがするのは、インスタライブなど個人のSNSで発信できるからかもしれません。今後Podcastを聴くリスナーはパーソナリティについていく形でコンテンツを選ぶのかなと。
石井:パーソナリティが個人のYouTubeチャンネルやSNSでラジオ番組を始めるとなればこちらとしては止める理由がないので、そんな中でニッポン放送を選んでくれているのは、率直にありがたいです。
――たしかにYouTubeチャンネル内でラジオ番組をやる方は増えていますね。
石井:コロナ禍で人が集まれないという状況下の影響だからこそ、個人的な発信は増えましたね。そんななかでも、『オールナイトニッポン』のパーソナリティは「ニッポン放送のスタジオに来てスタッフやリスナーみんなで作って喋ること、それを生放送で聴いてくれることに意味がある」と仰ってくれて。これはPodcastなどにはない地上波放送の優位性というか、特別なところなんだなと実感しました。
結果としてそれがリスナーにもしっかり届いているからこそ番組のイベントも好評ですし、11月に『オールナイトニッポン』が取材された『のぞき見ドキュメント 100カメ』(NHK)が放送されたのですが、SNSを中心にリスナーがすごく盛り上がってくれて。そういったファミリー感を楽しんでくださっている方が多いのは、ほかの音声コンテンツと違うところなのかなと。
冨山:『オールナイトニッポン』に関しては、もちろん各番組に熱心に聴いてくれているコアなリスナーさんがもちろん多いのですが、ニッポン放送全体としては、トラックの運転をされている方やパン屋さんや新聞関連の朝仕事をする方とか、そういった方々にラジオ放送として聴いていただけている側面もあります。全くパーソナリティのことを知らなくても偶然ラジオが流れてて知ってもらえる。そういった届き方はPodcastやインターネット上の音声コンテンツにはまだあまりないのかなと。
――ラジオ好きだけでなく、様々な人に満遍なく届く性質を持っているという。
石井:Podcastは好きな人がやっているから聴くなど、ピンポイントで聴くことが多いと思うので、偶然出会えるリスナーとのタッチポイントとしてはラジオ放送の方が広い気はします。
ニッポン放送が外部の放送局や音声プラットフォームと組む理由
――12月には『佐藤と若林の3600』がAmazonオーディブルで配信されるなど、音声メディアを跨いでコンテンツを配信しています。石井さんは同番組にディレクターとして携わっているとのことですが、どういった経緯で企画が立ち上がったのでしょう。
石井:サトミツ(佐藤満春)さんがInterFMでパーソナリティを務めている『佐藤満春のジャマしないラジオ』に若林(正恭)さんが出演していた放送回がものすごく面白かったんですよ。それをおふたりにお話しした際に、ご本人たちも楽しかったと仰っていて。そのときに過去に2人がPodcastとしてやっていた『佐藤と若林の3600』の話が出て、それをAmazonさんにお話したら面白がってくれて……という流れで決まりました。
音声コンテンツは、面白いものがたくさんあるのに埋もれてしまっているんだと改めて思いましたね。ニッポン放送では抱えきれないものを外部と組んで広げていくことはぜひ今後もやっていきたいです。
ーーPodcastだと地上波放送のように尺にシビアにこだわらなくてもいい、ということものびのびできるの理由かもしれないですね。
石井:そうですね。Podcastだと生放送のようにその場で臨機応変に対応する必要がないですし、じっくり話すことができるのはPodcastの良いところかなと。あとはPodcastの聴き心地の話で言うと、尺の長さの最適はまだどこも見出せていない気はします。『オールナイトニッポンPODCAST』はなんとなく30分くらいにしているんですけど、好きな人はもっと聴きたいと思うし、20分くらいが丁度良い人もいる。ユーザーによって変わるものなので難しいですね。
ーー最後に、2022年の展望を聞かせてください。
冨山:4月から『オールナイトニッポン』が55周年イヤーに入り、来年の10月で番組開始から55年になります。早速、3月には「ノーミーツ」と共作する『あの夜を覚えてる』という記念公演など、周年らしい面白い企画をいろいろと実施していく予定です。番組チームと協力しながらリスナーさんが喜んでくれるようなものを作っていきたいですね。
石井:ディレクター時代に、TBSラジオやNHKラジオ、TOKYO FM、文化放送、J-WAVEなど他局の方と一緒に仕事をさせていただく機会があって、改めて同業者にはラジオ好きな方がたくさんいるんだということを実感まして。やっぱりそういう方たちと一緒に何かをするのって楽しいんですよね。いま、TBSラジオと共同で、学校でラジオ局が作ったオリジナル番組を流してもらおう!っていう企画で『にこるん・みちょぱの校内放送』を制作していますが、若いラジオ好きな方と仕事をするのは刺激になります。音声のプラットフォームが増えているなかで、ラジオに纏わるいろんな人を巻き込んだ企画みたいなものは周年関係なくやっていきたいなという気持ちはあります。配信を使えばお笑いだけでなくて音楽系のイベントもできますし、新しいことにも挑戦していきたいですね。