ボーカロイドと人が共に歌う意味 「ray」の『プロセカ』収録に感じた“ボカロ文化の一巡”

 2007年に初音ミクが発売されてから、これまで15年近くカルチャーを構築してきたボーカロイド。ここ1〜2年、再び盛り上がりを見せているボーカロイドシーンだが、文化が一巡したような動きを見せている。

 その象徴となる出来事が起きたのは、リズムゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』(以下『プロセカ』)がリリース1周年を迎えたタイミングでのこと。新旧のボーカロイド曲を収録する『プロセカ』に、先日BUMP OF CHICKENの「ray」が収録された。

『ray』3DMVゲームサイズ公開!

 2014年にリリースされた「ray」が2020年リリースの『プロセカ』に収録されたことで、楽曲は改めて「現在のもの」として届くことになったのだ。著書に『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』『平成のヒット曲』などを持ち、ボーカロイド文化について初期から取材・執筆してきた音楽ジャーナリストの柴那典氏は「『プロセカ』は10代が共感できるということがストーリーの最大の特徴になっている」とあくまでもローティーン向けのゲームであるとした上で、「昔からのボーカロイドの歴史が、いま一回リセットして届いている印象はありますね」といまの10代にこれまでとは別の文脈で過去のボーカロイド曲が届いていると述べた。

 いままでも『プロセカ』には黎明期のボーカロイド曲が収録されることも多かったが、何故「ray」の収録は“一巡”を象徴するのか。『プロセカ』の世界観にも「ray」という曲の存在の大きさにもその理由はある。プロセカで当たり前に描かれる、人とボーカロイドが一緒に歌うことについて、同氏は「『ray』が出た2014年の時点では、まだ相当少なかった」とプロセカが「ray」以後のゲームであることを指摘した。

BUMP OF CHICKEN feat. HATSUNE MIKU「ray」

 そもそも2014年当時、BUMP OF CHICKENと初音ミクのコラボ曲、「ray」は人々に衝撃をもって迎えられた。

「初音ミクというバーチャルシンガーが登場してから、ボーカロイドと人が一緒に歌う例はボーカロイドシーンの中でも相当少なかったんです。たくさん再生されるようなシーンを代表する曲はなおさらで、初音ミクなどのボーカロイドが歌う曲という位置づけがほとんど。ソフトと人はひとつの曲の中では同居しないのがボカロカルチャーの通例だったんですが、『ray』はそれを、BUMP OF CHICKENというゼロ年代以降ずっとトップランナーであり続ける代表的なロックバンドが初音ミクと共演する例として突破した。そのこと自体、ボーカロイドシーンから見てもロックシーンから見てもかなりイノベーティブな出来事だったと思っています」

 また、柴氏はボーカロイドシーンの“一周”を、ほかの出来事からも感じているという。

「ボーカロイドシーンはずっとあったものですが、今年になって、いわゆるシーンの外側の世間一般が改めて『ボーカロイドとは? ボカロPとは?』といった興味を持つようになり、そういう入門編的なことをテレビの情報番組で特集するようになったんです。僕がその一つにコメント出演したときの経験なんですが、40代より上のディレクターさんからは『そもそも人が歌わないボーカロイドの曲がなぜこんなに受け入れられているんですか?』という、10年前くらいにボーカロイド発アーティストが登場したときの質問をあらためてされる。その一方で当時と違うのは、20代のADさんなどが、収録後に『中学生のときにボーカロイド聴いてたので、なんか懐かしいですね』みたいな反応をくれたりするんですよ。思春期にボーカロイドブームがあった人がすでに20代になり、メディアの現場やレコード会社の現場といった社会で働き始めているんです」

 時間の流れと同時に「ボカロ世代だった人」と「いまのボカロ世代である人」が同居する現在。世代の厚みが増したこともあってか、約10年前とは異なるシーンの特徴も見られるようになった。2020年はYOASOBIやAdoがお茶の間に発見された年でもあったが、ヒットした両者の動きはボーカロイドシーンの外側との繋がり方の変化を反映させている。

「初期のボーカロイドシーンは商業音楽に対するアンチテーゼだという空気が確実にあったんですが、いまは全然ありません。YOASOBIのAyaseのようにお茶の間レベルの知名度を持つ人が、メジャーデビューしていながら引き続きニコニコ動画にボーカロイド曲を発表したりする。地続きなんです」

 また、同じく時の人となったAdoはボカロカルチャーやニコニコ動画への愛を様々なインタビューで語ってきたし、『The VOCALOID Collection』(以下、ボカコレ)のような大規模なイベントが始まり、メジャーシーンで活躍するボカロPや歌い手・踊り手と、若手たちによるシーンが改めて活性化されてきた。柴氏はAdoが『ボカコレ』へ参加し、ボカロ愛について語っていることも大きなトピックのひとつであると述べる。

「Adoさんのようなボーカロイド愛を語るキーパーソンが、シーンの広い注目を集めつつボカコレにも歌ってみたで参戦するというのも大きな出来事ですよね。ボカコレはルーキーにすごく注目が集まるのでこれからの才能の登竜門としても機能していますが、だからといってバルーン(須田景凪)やAdoが参戦しちゃいけないなんて決まりはないわけです。そうやってバルーンとAdoがボカコレに新曲を出し、歌ってみたで参加するというのは、結果としてシーンにとっての起爆剤にもなったと思っています」

 昨今のボーカロイドシーンの盛り上がりを支える『プロセカ』と『ボカコレ』。前者は一般から収録曲を公募する「プロセカNEXT」、後者は「ルーキーランキング」とどちらも元々のボーカロイドシーンが備える“新人の発掘”としての機能も持ち合わせることも特徴だ。

 今回のボーカロイドシーンの盛り上がりについて「10年近くの積み重ねがあるがゆえに、今回はいい意味でブームと言えない」と分析した同氏は「ティーンのときにボーカロイドを聴いていた人が今は社会人としてサービスの運営に携わっていたりする。改めて、ボーカロイド文化がティーンのためのものでありつづけてきたのだと感動しました。そういう現在があって、きっと10年後にも、子ども時代をプロセカに時間を費やした人が大人になって作り手の側にまわると思います。そうやって地層が積み重なって、カルチャーとしてますます強固なものになりつつ、若者文化であり続ける、稀有な分野になっていくのかもしれませんね」

 10年前とは変化した形で文脈を増やしながら盛り上がりをみせるボーカロイド。10年後、ボカロ世代がさらに増えたとき、どのようにシーンに影響が表れていくのだろうか。



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