日韓をFPSで結んだ実力派VTuber ヌン・ボラの卒業によせて

FPS実力派VTuberヌン・ボラの卒業

 8月にデビューしてからわずか半年足らず、こうして彼女は一気に注目を集めるFPS系バーチャルタレントへと成り上がっていった。彼女がここまで注目を集め続けたのには、様々な要因があげられると思う。

 2020年から現在にかけて人気を博している『Apex Legends』を中心に、様々なFPSのストリーマー配信やカジュアル大会、さらにはプロシーンの大会にも徐々に注目が集まっていたこと。その中心にいるプロゲーミングチームCrazy Raccoonで活躍するRasやSellyが、ヌン・ボラと同郷である韓国人であり、カジュアル大会などで戦うことが多く、互いに励まし合い、時にはコラボ配信をするほどに仲良かったということ。

 ストリーマーという側面でいえば、女性ストリーマーがまだまだ少ない状況ではあるなかで女性のバーチャルタレントとして積極的に活動し、VTuber/ストリーマーというビジュアル的な枠組みに囚われず、「FPSプレイヤー」として多くのプレイヤーとコラボ配信を放送していったこと。そしてその実力がプロプレイヤーや上級者らも認めるほどのレベルであり、映えのある攻撃的なプレイングに多くの視聴者が魅了されたこともあげられよう。

 なにより、彼女が自身に多くを課す前向きな努力家でありながら、ファンやコラボ相手を笑顔にしようと心掛け、可愛らしさとりりしさのある声で盛り上げ、時には厳かに怒り、大会や練習カスタム中に悔しさのあまりに涙を隠させずにいられなくなる、その感情豊かな人格が愛されたことだろう。喜怒哀楽をここまでハッキリと配信中に表現し、全身全霊をかけて臨むプレイヤーやストリーマーも多くはないだろう。

 2021年3月14日に開催された第4回CRカップでは、Crazy Racoonに所属する韓国人プレイヤーのcptとにじさんじの同僚である瀬戸美夜子とともに参戦。日本語と韓国語を翻訳する役割を担いつつもチームを牽引し、初めての優勝を成し遂げた。その後も日本のプレイヤーらとより色濃く活動をし、日本と韓国を繋ぐように、またはバーチャルタレントとFPS系ストリーマーとを繋ぐように、大きなハブとなってシーンを盛り上げ続けてきた。

 そんな彼女は今年6月中ごろから1ヶ月半ほど活動を休止。復帰後には「大きなストレスを抱えて活動をし、鬱や帯状疱疹の症状があったこと」を告白していた。7月30日に復帰し、その後はにじさんじ内に留まらず、ホロライブの常闇トワ、ぶいすぽっ!の英リサや胡桃のあ、渋谷ハル、白雪レイド、バーチャルゴリラなどその後も多くのバーチャルタレントらとコラボ配信を続け、事務所や配信スタイルなどに囚われない「FPSプレイヤー同士の絆」で結ばれた交友のなかで多くプレイしていた。

 11月6日には久しぶりとなる新衣装を公開。ガーリーな衣装と軍服っぽさが混ざったデザインに加え、スカートとストッキングの絶対領域、獣耳と尻尾、ツインテールと可愛らしいドレスアップもあり、ここから新たに活動を広げていくだろう。そう思われていた矢先に、今回の卒業が発表されたのだ。

 「学業及び様々な理由で数か月配信を並行することが厳しいと判断し、運営さんと相談した結果、卒業という形になりました」

 彼女は卒業の理由についてツイッターでこのように記している。配信中にも時折自身の学校生活について語ることがあり、現在の韓国が学歴社会・受験大国として知られていること、今年5月31日には同じNIJISANJI KR所属のシン・ユヤも同様の理由で卒業をしていたことも踏まえると、このような判断も致し方ないのかもしれない。

 彼女が残したもっとも大きなレガシーは、FPSプレイヤー同士が絆で結ばれれば、活動スタンス・バックグラウンド・言語・国といった壁を乗り越え、共に楽しくプレイできるのだと改めて示したことにある。活動の幅や領域は異なるが、それはホロライブを卒業した桐生ココのボーダーレスな活動にもどこか似ており、その影響力はやはり大きい。

 もちろんそういった理想的な空間を作るのは彼女だけの力では不可能だ。彼女が発した卒業ツイートに対して多くの人々から返信が飛んでいることからも、彼女がいかに慕われていたかが窺い知れるだろう。

 彼女はこれまで、異国である日本のプレイヤーと多くの経験をしてきた。喜び、悔しがり、怒っては泣き、感情を思いっきりぶつけていく彼女の熱量や、コメントやSNSのツイートに対してもしっかりと受け止める生真面目さも含め、多くのプレイヤーや視聴者の記憶に彼女の姿は焼き付いている。今後は多くの視聴者やストリーマーらの発言、またはいくつもの動画などを通して語りつがれていくことだろう。

 ヌン・ボラさん、いままでお疲れ様でした。新たな出発と人生に多くの幸せがあることを願っています。

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