TikTokはなぜ、覇権を握るプラットフォームとなったのか? 識者が行動デザイン学の観点から考える

行動デザインから考える「TikTok」

ストレスなく新しい情報に触れられる仕様が、忙しすぎる現代人にフィット

ーーTikTokのおもしろいところは、フォローしていない人たちの情報もランダムで流れてくることだと思います。知らない人の動画が流れてきて、それがストレスにならずに、新しい情報として受け入れたり、新しくそのクリエイターをフォローするきっかけになったりするのは、他のプラットフォームとは違う情報の仕入れ方ですよね。

國田:それは大きなポイントですね。入ってくる情報にフィルターをかけて、自分がほしい情報だけを得る「フィルターバブル」という概念は、SNSの登場以降、急速に広まりました。フィルターバブルの問題点は、視野が狭まりすぎてしまうこと。なので、TikTokのようにときどきはフィルターの外の情報も入ってきてほしいという欲求が高まっているし、そこに上手くハマった設計をしているように感じます。

 なぜフィルターをかけるかというと、無駄なことはしたくない、失敗したくない、でも情報はほしいから。だから友だちや、同世代同士でフィルターをかけているんです。いまは本当にタスクが多くてみんな忙しいのに、情報量はすごく増えていて、でも情報処理能力は変わらないから、うまくやらないとパンクしてしまう時代になっているんです。

 そのためSNSに関しては、純度の高い情報だけをピックアップできるように最初から同世代フィルターをかけて、そこから一番興味のある領域の情報を得ている。そしてそれ以外の世代の人たちが入ってくるとノイズになるので、他のSNSに乗り換えるわけですね。かつてはmixiが流行って、それが次第にFacebookに置き換わり、今度はInstagramになり、今はTikTok、といった具合です。同世代フィルターが、 SNSのサイクルを加速させているんだと思います。

 限られた資源をうまくつかうには、節約することと、認知処理能力を上げるという2つの方法がありますよね。節約する方法はフィルターバブルや、ヒューリスティック(経験や先入観で、直感的に正解に近いものを選ぶこと)などがあげられます。もう1つの処理能力に関しては、ここ最近、確実に上がっていると感じていて、その要因が動画だと思うんですよね。若い子たちにとって、YouTubeや映像の倍速視聴は当たり前になりつつある。情報を素早く吸収する必要があること考えると、テキストより動画の方が情報量が多くて効率がいい。ただそうは言っても人間なので、いろいろ詰め込まれすぎると読み取れなくなるから、作りは多少粗い方がいい、となった結果、現在のYouTubeやTikTokにおける“よく見られる動画”のフォーマットができているように思えます。

 あとTikTokは、僕からするとプリクラみたいな感じがするんです。当時、プリクラはものすごい発明だったわけですが、それ以前は観光地の記念写真が同じような役割を果たしていました。それをわざわざ観光地まで行かなくても、街中で記念写真が撮れるようにしたのがプリクラで、今はもうスマホさえあれば家の中でも盛れた写真が撮れちゃいますよね。

ーー加工アプリも無数にありますが、 TikTokの場合は、加工と投稿を一緒にできるプラットフォームになっていますし。

國田:それもすごく大きくて、まさにエフォートレスでシームレスですよね。TikTokが伸びたポイントだと思います。

 いまの若い人たちは、時間がないしお金もない、将来の夢もあいまいだけど、すごくつらいかというと別にそうでもない、でもやらなきゃいけないことが多いし、なるべく失敗したくないし、友だちから嫌われたくない、でも自己実現もしたい。という人が多いように感じます。そんな人たちは、やはりエフォートレスやフリクションレスのサービスを使う方向にいくと思うので、プラットフォームの器として、それをどれだけ受け止められるかの競争になってくるような気がします。

ーーInstagramだと、きれいなものを撮るためにいろんなところへ行かないといけなかったりしますが、TikTokの場合は自分の部屋や近所でも成立しますからね。ゆるさが許容されるプラットフォームだったことも、コロナ禍で成長した理由の1つなのかもしれません。

國田:それも「頑張らなくていいフィルター」が働いているんだと思います。Instagramを支えているのはミレニアル世代で、意識が高いというか、美的センスにこだわりますが、その下のZ世代はもう少しユルいことが、TikTokの使い方からもわかってきます。世代間の違いという視点から見ても面白いですね。

(画像=Unsplashより)

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