連載:それは、TikTokからはじまる。(第三回)
「分かってないよ」がTikTokからバイラルヒット WurtSに聞く、研究者・音楽家として発信したい“社会問題”
TikTokによって人生が一変した表現者たちに話を聞き、彼らのルーツやブレイク前後の秘話、改めて振り返る“バズ”の思い出や、TikTokというプラットフォームに思うことを記録していく連載「それは、TikTokからはじまる。」。
第三回には、「研究者×音楽家」という肩書きで、とてもユニークな発想を持って活動する21世紀生まれのソロアーティスト、WurtSに登場してもらった。
作詞・作曲・アレンジ、アートワークや映像に至るまで全てをセルフプロデュースする形で、2021年に本格的に活動をスタート。今年1月にTikTokにサビのみを投稿したオリジナル曲「分かってないよ」が投稿から約1ヶ月で100万回再生を超える反響を呼び、一躍ブレイクを果たす。3月には自身のレーベル「W’s Project」よりEP『檸檬の日々』を、6月には「分かってないよ」を収録した2ndEP『MAGICAL SOUP』をリリース。
さらに3rdEP『Radio Sausage』に収録された「リトルダンサー feat.Ito(PEOPLE 1)」が TOYOTA「カローラシリーズ」CMに起用され、9月29日にリリースした「BOY MEETS GIRL」がエナジードリンクZONeのタイアップソングに、そして12月1日にリリースされる1stアルバム『ワンス・アポン・ア・リバイバル』の収録曲「NERVEs(ナーヴス)」がTikTokブランドCMに起用されるなど、現在ではSNS内にとどまらない注目を集めている。
一体WurtSとは何者か。マーケティングに強い関心を持ち、レディー・ガガやThe 1975に憧れ、社会問題についても発信していきたいと語るその実像に迫った。(柴 那典)
マーケティングを研究するWurtSはなぜ、TikTokに“可能性”を感じたのか
——WurtSとしての活動を始めたきっかけは?
WurtS:もともと僕は大学に入った時に留学をして、マーケティングについて学びたいと思っていたんです。でも、コロナで海外に行けない状態になり、日本でどうにかマーケティングの研究に活かせることはないかと考えて。自分は音楽も好きだし、作ることも好きなので、音楽を作って、それをいろんな人をターゲットとして広げていくことを始めた。そういうところから、WurtSというのを「研究者×音楽家」という肩書きでやらせていただいてます。
——マーケティングに興味を持つようになったのは昔からでした?
WurtS:祖父が自営業をしていたのを幼いころから見ていて、自分で新しく企画、戦略を立てて商売をやっていくことに憧れはありました。大学もマーケティングや現代カルチャーを学ぶようなところに行ってます。
——音楽とはどういう出会いだったんでしょうか?
WurtS:音楽に興味を持つようになったのは、父の影響でレディー・ガガの「ポーカー・フェイス」のミュージックビデオを観た時ですね。「なんだこれは!?」というインパクトがあって、いろんな海外の音楽を聴くようになりました。そこから音楽だけじゃなくて、映画とか、いろんな海外のカルチャーにも刺激を受けるようになっていって。ミュージシャン的な活動に憧れるようになったのは、ディズニーチャンネルでやっていた『キャンプ・ロック』という映画に出ていたジョナス・ブラザーズというアイドル的な立ち位置のミュージシャンの方たちを見たのがきっかけです。
——海外のポップカルチャー全般に興味を持った10代を過ごしていた。
WurtS:そうですね。周囲は海外の文化に興味が無い方が多かったんですけど、僕は海外のテレビ番組を見たり、ドラマを見たりしていました。
——WurtSを始めたころに影響を受けた人は?
WurtS:The 1975の影響は強いと思います。僕自身、音楽はアルバムよりも曲ごとに聴く感じだったので、アーティストにハマるということはあまりなかったんですけど、そのなかでもレディー・ガガとThe 1975の活動や考え方、社会に向けてメッセージを発信しているところが格好いいなと思って。SNSの活用方法も新しいし、音楽だけじゃないアーティストの活動を見る入り口になった部分があります。いまはヒップホップとかいろんなものにも影響を受けているんですけれど。
——WurtSとしての活動は研究の意味合いが大きいということですが、どういう類の研究をイメージしているんでしょう?
WurtS:マーケティングというと商業的なイメージもあると思うんですけど、僕のなかでは、打ち出し方みたいな部分ですね。まずは純粋に音楽を作って、それをどの層に向けて発信するかを考える。僕の場合だとTikTokを使うと決めて、そのなかでどういったターゲットに届けるのかを絞りました。ターゲットという考え方がとても大きいのかもしれません。
——TikTokには、どんな風に興味を持ったんでしょうか。
WurtS:ちょうど僕が留学できなくなって、マーケティング的なことをどう学べばいいか悩んでいる時に、コロナの時期で家にいる期間が長くなったということもあって、周りでTikTokをあまり使ってなかったような人たちもTikTokを使うようになったんです。僕の周りの同い年の人たちが使うようになって、「もしかしたらTikTokには、いままでとは違う活用の仕方があるんじゃないか、既存のものとはまた別のあり方になるんじゃないか」という風に考えました。
——実際にWurtSとしての活動を始めるようになってから、TikTokとの付き合い方は変わりましたか?
WurtS:以前は、どちらかと言うと、TikTokで音楽を発信するということに積極的ではなかったんです。けれど、WurtSの活動のなかではTikTokは始めなきゃいけないなと考えていて。いざ発信するとなるど、15秒とか30秒という短い間に何かを伝えなければいけない。そういう音楽の見せ方自体が変わったと思います。
——実際「分かってないよ」はTikTokをきっかけにバズっていったわけですけど、それはどういう経験でしたか?
WurtS:もともと「分かってないよ」が、TikTokを使っている人達をターゲットに発信したもので。TikTokで初めて投稿した動画だったし、TikTok自体が僕にとって挑戦だったので、最初は失敗するだろうなというくらいの気持ちだったんですけれど、それが拡散されていったんですね。TikTokは音楽を3分くらい聴くというより、15秒から30秒の間で良し悪しを決める。そういう文化になってきたのかなと感じます。
——「なんとなく投稿してみた」ではなく、WurtSさんのなかではある種の仮説検証の一つとしてTikTokを使ってみたわけですよね。そのあたりはどうでしょう?
WurtS:WurtSを始める前にTikTokを見ていたころには、曲に乗せて踊っているものだけじゃなく、歌詞を載せて音楽を活かした動画が作られているように感じていて。「分かってないよ」も、ダンス用の曲というより、歌詞を重要視した動画で発信してくれないかなみたいなことも考えてました。
——曲調についてはどうでしょう? 「分かってないよ」はオルタナティブロックのサウンド感をモチーフにしてる曲だと思うんですけど、これに関してはどういうアイディアだったんでしょうか?
WurtS:留学に行けなくなったときからWurtSを始める間くらいでTikTokを見てたんですけど、調べてみたら80年代とか90年代に流行った音楽が使われてたり、そこにユーザーの人たちが新しい発見をしていたりすることがあって。だとしたら、僕は00年代のオルタナティブ・ロックをいまやることによって、TikTokのユーザーが魅力を感じてくれるんじゃないかなと考えました。
——そういう仮説をもとに作った「分かってないよ」が、結果として大きく広まったことで、検証されたわけですよね。実際、曲が世代を超えて受け入れられたという実感はありましたか?
WurtS:コメント欄を見てると、僕よりも上の世代の方は「懐かしい」というコメントがあって、僕よりも若い方に関しては「新しい」というコメントがあって、どちらにも対応できる音楽だなと思います。
——TikTokをきっかけに注目を集めたときって、1曲バズった次にどうするかがすごく重要だと思うんですね。曲に対しての注目度を、アーティストや作り手の継続した人気や支持にどう繋げるか。そのあたりについては、どんな考えを持っていますか?
WurtS:僕自身、「分かってないよ」は、タイミングといろんな要素が上手く当てはまって拡散されたと思っていて。一発屋という言い方は悪いですけど、やっぱり1曲TikTokで流行っても、その後ずっとその曲の雰囲気に持っていかれるとしたら、それもどうかなと。あとはTikTokで流行るだけだと「TikTokの音楽だよね」ということで、WurtSという名前は知らないまま終わってしまう部分もあって。どちらかと言うと僕は「分かってないよ」は無料のチケットをみんなに配ってるような感覚なんです。
「分かってないよ」という曲に関してはあくまで入り口だと思っていて、その後にコンスタントに聴いてみて、そこで判断してほしいというか。「分かってないよ」とは全く別のジャンルの音楽を作ってみたり、ちゃんとアーティストとしての活動をしたいと思っていました。もちろんTikTokでバズることも一つの入り口になるんですけど、その後に「これがWurtSなんだ」という魅力を無意識に何回も感じさせることが大事だと思ってます。
——2021年は「分かってないよ」に始まり、まず上半期には3月に『檸檬の日々』、6月に『MAGICAL SOUP』というEPをリリースしてきました。まずは上半期を振り返って、どうですか?
WurtS:「分かってないよ」は1月にTikTokに投稿して5月に配信リリースしたんですけれど、その間にも時間があったので、いろいろ考えていました。上半期はどちらかと言うとオルタナロックで攻めたいと考えていて。「分かってないよ」で「WurtS=オルタナ」みたいなイメージというか、一つのフォーマットみたいなものができたのかなと思います。そのぶん、逆に言うとオルタナだけでないというところをどう見せていくかという課題はあります。
——8月にはTOYOTA「カローラシリーズ」のCMソングになった「リトルダンサー feat. Ito (PEOPLE 1)」がリリースされました。大手企業のCMタイアップというのはとても興味深いオファーなんじゃないかと思うんですが、そのあたりはどうでしたか?
WurtS:上半期でオルタナという色がついたというのもあって、「リトルダンサー」に関しては、CMということでいろんな方に聴いてもらえるチャンスだったので、楽曲に関してもどちらかというと、これまでのオルタナ感は残しつつも、80年代のポップスやディスコみたいな要素を取り入れたり、新しい挑戦をしながら作りました。そこで曲を聴いた時にいいなと思って調べてくれたら「分かってないよ」とリンクする、みたいなことができるチャンスだなと考えてました。
——この曲には謎解き形式のMVという仕掛けもありますが、この辺はどんな風に組み立てていったんでしょうか。
WurtS:下半期に関しては、曲だけじゃなく、WurtSというものに興味を持ってもらいたいと思っていて。「リトルダンサー」はCMで聴いていいなと思って飛んでみたらMVが謎解き形式だった、ということをやってみたんです。いままでのMVも縦型で作っていたり、ほかのアーティストの方があまりやっていなかったことをあえてやってみるということもあったので。これはありなのか、なしなのかという問題提起を聴いている側にも投げかけたいと思ってました。
——MVのディレクションやアイデア、そのあたりもWurtSさんご自身が手がけたのでしょうか?
WurtS:MVに関しては僕が原案を企画して、映像プロデューサーやディレクターの皆さんと制作しています。僕も編集まで立ち会って一緒に仕上げていきます。
——曲と映像のアイディアはどちらが先にあるものなんでしょうか。あくまで曲があってそこから別のアイディアとして映像が出てくるのか、もしくは一緒に出てくるのか、その辺ってどうですか?
WurtS:僕の場合は映像から曲を作るということが多いです。映画がすごく好きなのもあって、もともと映画のワンシーンから音楽を作ったりもしていたので。MVを作るときでも、自分の思い描いてる映像を形にしたいというところが大きいです。
——「BOY MEETS GIRL」に関してはどうでしょう? この曲はエナジードリンクのZONeとのコラボ企画ですが、これはどんなことを考えて作りましたか?
WurtS:これまでは音楽というより、新しい企画を打ち出すイメージでやっていたんですけど、これはどちらかというと曲にメッセージを込めた部分があって。「BOY MEETS GIRL」というタイトルの意味自体にも、典型的な「ボーイ・ミーツ・ガール」という言葉を皮肉として込めているんです。今の時代の多様性も考えると、男性と女性だけが恋に落ちるわけでもないわけで。「WurtSって新しいことばかりしてる人と言うよりは、曲も頑張ってるんだね」みたいな目線で見てほしいために作った曲です。
——「NERVEs」はTikTokのCMソングでもありますが、これに関してはどうですか?
WurtS:下半期に関しては、ありがたいことにタイアップもいただいて、いろんな方に聴いてもらえるタイミングなので、曲の雰囲気にしてもEDM的な要素を取り入れたり、新しい部分で勝負したいというのがありました。歌詞についても、多様性とか前向きなメッセージを打ち出して、新しい部分に踏み込んだというところがあります。